珍しい本と言われているものでも、筆者のような単なるミステリ好きが探しているようなものは、そもそもはふつうに本屋に並んでいたものばかりです。
そんなものがなぜレアになってしまうかと言えば、その理由は「買う人が少なかったから」に尽きます。何万部も売れた本だったら、古本屋でもそれなりの数が流通しますが、誰も買わない本は古書市場にも現れません。
逆に言えば、これまでの人生で「まあ、いいか」と思ってスルーしてきた数多くの本の中からこそ、数年後に希少と言われる本が出てくるわけです。

今回は、筆者がこれまでに、書店で手に取りながら買わなかった、そしてそれを後悔している本をご紹介するという、わりとどうでもよい記事です。

シナリオ悪霊島 (角川文庫)
清水 邦夫
角川書店
1981-10


筆頭はコレ。
角川文庫の横溝正史で最も入手困難と言われているのですが、筆者が横溝正史を読み始めた昭和63年頃は、実はときどき見かけました。
出版社ではすでに品切れしていたため、大型書店で見かけることはなかったのですが、住宅街のあまりはやっていない本屋や、田舎の駅前の本屋など覗くと、何年も売れずに放置されているものを見かけたものです。
当時は、角川文庫版の横溝をレアかレアでないかで選別している読者はおらず、筆者も興味のあるものだけを買っていました。このため「シナリオ悪霊島」を見かけても「こんなもん、誰が読むんだろうなあ」と完全にスルーしていました。
ただ、一度だけ、買おうかな、と手に取ったことはあったのです。
母の実家がある田舎の町へでかけた時、帰りの電車を待つ間、駅の前にある小さな本屋を覗くと、これが売れ残っていました。
この頃は角川文庫の横溝はめぼしいものをほぼ読んでいたため、棚に並ぶ本で持っていないのはこれだけでした。
ところが、買おうかどうしようか逡巡していると、母がやってきて「早くしてよ」というので、そのまま棚へ戻して店を出てきてしまいました。
まあ、買ったとしてもたぶん読まなかったのと思うので、そこまで深刻に後悔しているわけではないのですが(そもそも、読みたいだけなら「キネマ旬報」にもシナリオは掲載されており、こっちは容易に入手できます)、まあ持っていたら自慢はできたよなあ、と。

私が殺した少女
原尞
早川書房
1989-10


これは本そのものは全く珍しくないのですが、新刊が書店に並んだ時、サイン本を見かけたことがあるのです。
行きつけの書店のレジの脇に3冊くらい積んであり、表紙を開くと銀色のサインペンでサインがしてありました。
とは言え、当時は中学2年生。島田荘司に熱狂していた時期で、ハードボイルドは全く読んでいませんでした。
このため、「そして夜は甦る」で話題になった作家の2作目だ、ということはわかっていたのですが、スルー。結局この小説を買ったのは直木賞受賞後でした。
あのとき、帯付き初版サイン本を買っていたら、これはかなり自慢できるアイテムだったんだけどなあ、とこれは今もときどき思い出しては悔やんでいます。



これは、「EQ」だったかで鮎川哲也だったかが(曖昧ですみません)書評を書いていたため興味を持った本ですが、本屋で現物を見てびっくり。かなりの大型本の上、価格は15,000円。しかもこの一冊で終わりではない。
ということで、とても中学生が買える本ではなかったのです。
これは、社会人になってから出てほしかった本ですね。
というのは、中学生の頃には知らなかったのですが、協会報に掲載されてそのまま単行本未収録という文章はかなり多いらしく、横溝正史や高木彬光のエッセイなんかもたくさん載っていたようなのです。
まあ、それを知っていても中学生には手を出せない代物でしたが、就職後の財力があればたぶん買っていた。
もしかしたら買わずに済んで良かった、と言うべきなのかも知れませんが、古書市場ではかなりの高値になっているので、それを見るとやっぱり買っておきたかったな、と思います。復刊してくれないものでしょうか。


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