201804落ちる211

先日の記事でここ最近のミステリ復刊状況をまとめましたが、この勢いでこの辺も復刊して欲しい、という希望を連ねてみます。

まずは多岐川恭の短編集。

落ちる (創元推理文庫)
多岐川 恭
東京創元社
2001-06


この本、過去に創元推理文庫も「復刊」という形で刊行したのですが、すでに20年近く経ってしまっているんですね。
表題の「落ちる」は凄まじい迫力がみなぎるサスペンス。
個人的には「昭和ミステリ」の代表格だと思っています。
他にもこの短編集にはサスペンス、本格の絶品が並びます。
創元推理文庫がこのまま重版してくれるだけでもよいのですが、このところミステリ短編の傑作集を次々出しているちくま文庫には、ぜひこれも入れてほしいです。

危険な童話 (光文社文庫)
土屋 隆夫
光文社
2002-04


影の告発―千草検事シリーズ 土屋隆夫コレクション (光文社文庫)
土屋 隆夫
光文社
2002-03


昭和30年代、本格ミステリ冬の時代に孤塁を守り続けた土屋隆夫ですが、今や新刊書店で手に入る本が一冊もない状態。確かにいま読むとちょっと古くさいかもしれませんが、個人的には昭和の香りが濃厚でたまりません。「影の告発」のトリックなんか、そろそろ若い人には理解できないものになってきてますよ。
過去に何度も文庫化されていますが、16年前に光文社文庫が新装版を出したのが最後です。数多くの名作がありますが、ともかくこの2冊がマストでしょう。創元推理文庫が以前に「長篇全集」という形で収録したことがあり、あれはあれでマニアには良かったのですが、初心者には敷居の高い作りだったので、単品で出した方が長持ちするのではないかと思いました。
ちくま文庫は結城昌治や仁木悦子に手を出したのなら、土屋隆夫も出すべし。



都筑道夫はちょこちょこと復刊されていますが、個人的に最も偏愛しているこの長編は、約20年前にやはり「復刊」という形で刊行されたのを最後に、入手困難が続いています。数年前に週刊文春が出した新版の「東西ミステリーベスト100」にも、96位でぎりぎり引っかかっていたので「おお!」と思いましたが、その後復刊されることはありませんでした。
コミカルな会話と考え抜かれたアクション。昭和30年代の「かっこよさ」がギッチギチに詰まっています。
岡本喜八監督の映画「殺人狂時代」の原作としても有名ですが、個人的には岡本喜八監督のかなり熱心なファンであるにもかかわらず、原作のことが好きすぎて、この映画はどうも好きになれません。
これまた、「昭和」を熱心に推進するちくま文庫に、ぜひ拾っていただきたい。

招かれざる客―笹沢左保コレクション (光文社文庫)
笹沢 左保
光文社
2008-09-09


元祖「新本格」として再評価されている笹沢左保ですが、とはいえ手に入る本が今やほとんどありません。ちょっと前まであんなに山のように並んでいたのになあ……ってこれは30年くらい前の記憶ですね。
ちくま文庫は、昭和ネタに困ったらぜひ笹沢左保も検討してほしいです。

枯草の根 (講談社文庫 ち 1-6)
陳 舜臣
講談社
1975-06


ちょっと前に陳舜臣が亡くなった時、不謹慎ながら「お!」と思ってしまいました。これは陳舜臣のミステリが復刊されるチャンスか、と思ったわけです。しかし、書店に積まれたのは「小説十八史略」や「阿片戦争」など、歴史小説ばかり。いや、筆者は「小説十八史略」も大好きなので、別によいのですが、昭和の神戸を舞台にした数々の本格ミステリが読めないままになっているのは淋しい限りです。
これは……ちくま文庫よりも創元推理文庫がやるべきですね。



これまたほぼ忘れられているテクニシャン・佐野洋。
代表作を選ぼうとすると、やや決め手にかけるところがあり、そのへんでちょっと損をしているようにも思いますが、この「轢き逃げ」は名作です。
これも、創元推理文庫に期待しています。

最後に戦前のミステリを。

姿なき怪盗 (1959年)
甲賀 三郎



あまりに長いあいだ刊行されていないので、Amazonで検索しても正確な書誌情報が出てこない有り様ですが、河出文庫の「探偵・怪奇・幻想シリーズ」にこれほどうってつけの作品はないでしょう。それほど入手困難と思えない小栗虫太郎を拾っているくらいなら、こっちを是非!



横溝正史の名作中の名作「鬼火」「蔵の中」は角川文庫で品切れしてから、ちくま文庫「怪奇探偵小説傑作選 2 横溝正史集」にも収録されましたが、それももはや17年前。それ以降はずっと新刊書店には並ばない状況が続いています。
河出文庫は、ぜひ横溝正史にも手を出していただきたいものです。

というわけで、他にもいろいろありますが、「これは実現できるじゃね?」と勝手に思っているものについて、妄想を交えながら希望を述べさせていただきました。

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昭和ミステリ復刊状況まとめ



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