201804文字と楽園205 (2)

昨年11月発行なので、もう半年も経っていますが、こんなマニアックな本が出ていたとは全く見落としていました。
「精興社」といってもピンと来る方はあまり多くないと思いますが、これは東京都青梅市にある印刷会社です。

本を読むときにどこで印刷された本なのか、ということは普通はあまりに気にしないと思います。
場合によっては重版のタイミングで印刷所が変わることがあったり、大ベストセラーともなると一つの印刷会社では対応しかねて、あちこちで印刷された本が混じって流通することもあります。
しかし、読者が気にするのはせいぜい「どこの出版社か」というところまでで、印刷所が異なる本が流通していたところで、ほぼ誰も気づきません。

ところがそんな中にひとつだけ、ファンのついている印刷会社があるのです。それが精興社です。
筆者は、前々から、一部の文庫がとても読みやすく、品の良い活字で印刷されていることに気づいていました。
しかし、それらは岩波文庫、ちくま文庫などのうちの一部に限られていました。本屋でパラパラと眺めた時に、それがお気に入りの活字で印刷されていると、それほど興味のなかったものでも「やっぱり買っておくか」と思ってしまうくらい、魅力的な文字なのです。
ある日、奥付を眺めていて「印刷・精興社」という部分に目が止まりました。
「ということは、もしや」と思い、お気に入りの活字が使われた本をチェックしてみると、なんとことごとく精興社が印刷した本だったのです。
そうか、出版社ではなく、印刷所だったか、と深く納得しました。
調べてみると、精興社は本好きのあいだでは非常に有名な印刷会社で、筆者が知らなかったのが恥ずかしかったくらいです。精興社書体と呼ばれる独自の明朝体に特徴があります。
しかし、さすがに精興社のことだけを書いた本というものはこれまで見たことがありませんでした。(正確に言えば、精興社の社史は発行されているようですが、一般には流通していないようです)



精興社がどんな活字で印刷しているのかは、本書を読んでいただければさまざまなサンプルが掲載されており、やはりいい活字だなあ、と思います。
本屋で手に取るなら、有名な本では以下のようなものがあります。

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)
ミヒャエル・エンデ
岩波書店



ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)
なかがわ りえこ
福音館書店



文庫では、岩波現代文庫はすべて精興社が印刷しているようです。





その他、手元の本で気づいたもの。

レ・ミゼラブル〈1〉 (ちくま文庫)
ヴィクトール ユゴー
筑摩書房
2012-11-01


暗黒事件: バルザック・コレクション (ちくま文庫)
オノレ・ド バルザック
筑摩書房
2014-06-10


ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)
ブルフィンチ
岩波書店
1978-08-16


月長石 (創元推理文庫 109-1)
ウイルキー・コリンズ
東京創元社
1970-01-16


文体練習
レーモン クノー
朝日出版社
1996-11-01


ご覧のとおり、各出版社の中でも「これぞ」という逸品こそが、精興社へ発注されているようです。
「精興社が印刷している=本として太鼓判を押されている」とまで言うと大げさかもしれませんが、筆者としてはそういう印象を持っています。
筆者の手元にある本は海外文芸が多いのですが、それ以外も多々あります。しかし、書店で本を探す時に印刷会社で検索、ということはできないため、一冊ずつ奥付を見る以外、確認の方法がありません。
とはいえ、本をパッと開くと、すぐに「これ!」と気づくくらい特徴的なので、慣れればすぐに見つかります。一度、本屋で探してみてください。

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