201803シザーハンズ198

ティム・バートンの出世作「シザーハンズ」(1990年)。
日本で公開されたのは1991年夏のことでしたが、高校1年生だった筆者はこれを劇場で観ました。
当時は、全く映画好きでも何でもなくて、世間で評判になっているものをときどき観る、という程度でした。したがって、こんな聞いたこともない監督の、意味不明なタイトルの映画を目的にわざわざ映画館へでかけたわけではありません。(実際には前年に「バットマン」が公開され、ティム・バートンは人気監督の仲間入りしていたわけですが、映画に関心のない筆者は監督名など覚えていませんでした)

さて、それでは何が目的だったのか。
当時は、新作であってもたいていの映画が2本立てで上映されていました。メインとなる映画にもう一本おまけがついていて、ヒマな人はついでにどうぞ、という感じでした。
地域によっても違うようですが、筆者が子どもの頃にいた名古屋では、「シザーハンズ」はそのオマケの方として公開されていたのです。
ではメインは何だったかといえば、これが「ホーム・アローン」(!)
この夏最大のヒット作で、ミーハーとしては「これだけは観ておかなくっちゃ」という映画でした。
どんな映画が同時上映でかかっているのかなど全くチェックせず、とりあえず「ホーム・アローン」の席取りを兼ねて、早めに劇場へでかけたのでした。

劇場へ入るとすでに同時上映作品は始まっていたのですが、これがなんとも言えない奇怪な映画。なんで手がハサミなのか、主人公はなんでこんなにオドオドしているのか、意味がよくわからないのですが、観ているうちに物語に完全に引き込まれ、ラストでは大感動。
「これこそが、観たかった映画だ!」というくらいに興奮し、「ホーム・アローン」の内容は全くどうでも良くなってしまいました。
ところが、上映を冒頭から見ていなかったこともあり、長らくこの同時上映作品のタイトルが不明のままでした。
「あの素晴らしい映画はいったい何だったんだろう??」と、今から思えばあまりにも情報がなさすぎな高校生活を送っていたわけですが、大学へ入って、多少まともに映画を見るようになって初めて、ティム・バートンの「シザーハンズ」だったと知ったわけです。

さて、前置きが長くなりましたが、この「シザーハンズ」はよく「ティム・バートンのフランケンシュタイン」と言われます。
「フランケンシュタイン」は言わずと知れたメアリ・シェリーが書いた怪奇小説の古典ですが、筆者はこの小説を読んでもあまり「シザーハンズ」との共通点を見いだせず、このように評される理由がイマイチよくわかりませんでした。

実は、ティム・バートンには「シザーハンズ」のプロトタイプというべき短編が一つあります。「フランケンウィニー」(1984年)です。
これは、日本では「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」(1993年)の公開時に東京と大阪のみで同時上映されたそうですが、筆者はそんなことは知らず、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」の北米版DVDに特典映像として収録されたもので初めて観ました(2002年頃)。
主人公の少年が大切に飼っていた犬が死んでしまい、稲妻の力を借りて生き返らせたものの、街の人々から気味悪がられて迫害を受ける……という話なのですが、ストーリー展開が「シザーハンズ」そっくりであることに驚きます。ほとんどリメイクと言ってもよいくらい同じ話です。
(なお、「フランケンウィニー」は同タイトルで後に長編アニメとしてリメイクされていますが、筆者は短編の方がシンプルで気に入っています)

この短篇はタイトルに「フランケン」と入っていることもわかる通り、主人公が蘇らせた犬はフランケンシュタインの怪物をイメージしています。
確かに迫害を受ける怪物の哀しみは、小説「フランケンシュタイン」と共通しています。
ようやく「シザーハンズ」と「フランケンシュタイン」とのつながりが見えたのですが、しかしまだそこまで大きな影響を受けているという印象はありませんでした。

そんなモヤモヤが、ようやく解消し、全てがつながったのはユニバーサルの古典怪奇映画「フランケンシュタイン」(1931年)を見たときです。
そう、「ティム・バートンのフランケンシュタイン」と言われているのは、原作小説ではなく、映画版の「フランケンシュタイン」のことだったのです。
それが最もよくわかるのは、それぞれのラスト。

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フランケンシュタイン(1931年)

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フランケンウィニー(1984年)

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シザーハンズ(1990年)

いずれも「怪物」が街の人々によって追い詰められます。
「フランケンウィニー」では「フランケンシュタイン」そのままに風車小屋に立てこもりますが、「シザーハンズ」では、これが「怪物」の生まれた城館となっています。
ティム・バートンがどれだけ映画「フランケンシュタイン」を愛しているか、このシーンだけでもよくわかります。

「シザーハンズ」のファンはぜひ、「フランケンシュタイン」と「フランケンウィニー」とをあわせてご覧になることをオススメします。

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