201802東西ミステリーベスト100180

読むことを夢想している本ではなく、夢のなかで初めて見つけた本の話です。

文春文庫の「東西ミステリーベスト100」という本があります。
2013年に新版が出ましたが、最初に刊行されたのは1986年のことで、筆者は小学6年生の頃(1987年)に買った記憶があります。
中学入学直前なので、ミステリのことを何も知らない時期に手に入れ、以後、本書をバイブルとして、紹介された内容を手がかりにミステリを読み進めていったものです。

ところで、本書の中には罪深い間違いが一箇所ありました。
「亜愛一郎の狼狽」紹介文の中です。
筆者は亜愛一郎シリーズのことも、もちろん本書をきっかけに知ったのですが、のちにこんな記事を書いてしまうくらい、ドハマりました。
最初に買ったのはたまたま書店で見かけた「亜愛一郎の転倒」で、それから慌てて「亜愛一郎の狼狽」「亜愛一郎の逃亡」も探して読みました。全て角川文庫版です。しかし、あとの一冊がどうしても見つかりません……ん?あと一冊?
そう、亜愛一郎シリーズは3冊で全てのはずなのに、いったい筆者はナニを探していたのか。

実は1986年版「東西ミステリーベスト100」のなかでは、亜愛一郎シリーズは「狼狽」「転倒」、そして「消失丶丶」の3冊だと紹介されていたのです。
このため、筆者は本屋で「亜愛一郎の逃亡」を見つけた時、「あ、4冊目もあったんだ」と思い込み、引き続き「亜愛一郎の消失丶丶」を探し続けていたのです。
当時はインターネットもなく、またミステリに詳しい人が周りにいたわけでもないため、この思い込みは数年にわたって解消されることなく続きました。

その間、夢のなかでは何度も「亜愛一郎の消失」を買いました。
あるときは、徳間文庫から出ているのを発見しました。「なんだ角川文庫じゃなかったのか。道理で見つからなかったわけだ」と納得し、手を伸ばしたところで残念ながら目が覚める。
またあるときは短編集ではなく、長編でした。なんと長編ッ!と、手を伸ばしたところでやはり目が覚める。
結局、「亜愛一郎の消失」という本は存在しない、ということをいつ頃の時期にどうやって納得したのか忘れましたが、インターネットが普及した現代ではこのような悲劇はもう起こらないことでしょう。

さて、ほかに夢の中で見かけた本で印象深いのは、笠井潔の本があります。
筆者は東日本大震災を挟む数年間、東北にいたことがありますが、魚が大好きなので、三陸海岸沿いの港町へ旅行し、観光客向けの市場を覗いて買い食いするのが何よりの楽しみでした。
そんなある時、例によって旅先で市場の中へ入っていくと、一角が古本屋でした。
こんな水気の多い場所で本を売るなんて、と驚きましたが、なかなか雰囲気の良い店で、渋い本がズラッと並んでいます。
その中に、笠井潔の見たことのない本がありました。「オイディプス症候群」に似た感じで、重厚な装丁で、濃いグレーのカバーに黒い文字でタイトルが印刷してあるため、なんという本なのかよく見えません。
こんな本があったのか、と棚の最上段にあった本へ手を伸ばすと……そこで目が覚めました。
うーん、ちょっとでも内容を覗くまで待ってほしかったもんですが、残念でした。
装丁から推察するに、あの本こそ、笠井潔の最高傑作だったのではないか、そんな思いが抜けません。

それにしても、入手困難な本、自分しか知らない本を発見する夢というのは、一番楽しく、しかし覚めると悔しい思いをする夢です。





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