201801北村薫のミステリびっくり箱160

乱歩関係のお宝本紹介。第2回は2007年に角川書店から発行された「北村薫のミステリびっくり箱」です。
この本、「北村薫」という看板が無いととても売れるとは思えないような、とんでもなくマニアックな内容の対談集で、ついてこられる人はいったいどれだけいるのか。北村薫ご本人は、すごく楽しそうですが。
ちなみに、構成はこんな感じです。

第1回 将棋
 北村薫・逢坂剛・高橋和
 ※乱歩と大下宇陀児とが対戦した棋譜を分析。
第2回 忍者
 北村薫・川上仁一・馳星周
 ※忍者の末裔を囲んで、山田風太郎忍法小説談義。
第3回 嘘発見機
 北村薫・北方謙三・今村義正・萩原伸咲
 ※嘘発見器をめぐって。
第4回 手品
 北村薫・綾辻行人・ヒロ・サカイ
 ※マジック談義。
第5回 女探偵
 北村薫・加納朋子・大徳直美
 ※本職の女性探偵を招いて。
第6回 声
 北村薫・宮部みゆき・戸川安宣
 ※乱歩も参加した文士劇をめぐって。
第7回 映画
 北村薫・山口雅也・小山正・濱中利伸
 ※戦前戦後の探偵映画をめぐって。
第8回 落語
 北村薫・立川志の輔・逢坂剛
 ※落語に現れたミステリについて。

ということで、それぞれにかなり濃いトークを繰り広げています。

さて、本書のどこが「乱歩のお宝本」なのかというと、実は以上の対談ではなく、付録のCDがすごいのです。
4つの音源が収録されていますが、
・ラジオドラマ「ビックリ箱殺人事件」(昭和24年 NHK)
 原作:横溝正史 出演:江戸川乱歩、大下宇陀児、山田風太郎 他、探偵作家勢揃い
・江戸川乱歩インタビュー(昭和34年 NHK)
・江戸川乱歩歌唱「城ヶ島の雨」
 これは推理作家協会「文士劇」(平成9年)の中で流れたものと同じと思われます。
・甲賀三郎自作朗読「荒野」
……というわけで、この付録CDでは、乱歩の声を聞けるのです!

横溝正史の場合は晩年のブームの際、映画へ何度か出演しているため、声を聞くのは容易なのですが、乱歩の声はなかなか聞けません。
特にインタビューは30分ほどもあり、それまでの作家人生を上機嫌に振り返っている内容で、ファンには感涙の内容です。
ラジオドラマは、かなり音が悪いのですが、それもそのはず。実はこの音源はNHKでも保管しておらず、なんと乱歩の「蔵」から発見されたものだとか。これは文士劇となっており、出演者は全て探偵作家です。錚々たる顔ぶれが冒頭で自己紹介していますが、そこを聞くだけで頭がクラクラします。音質が悪いうえ、素人ばかりなので、根を詰めて聞かないと、何が起きているのかさっぱりわかりませんが、そこはそれ。
なお、本書の「第6回 声」は、これらの音源をめぐってのトークで、CDを聞きながら読むと楽しい内容です。

付録CDに加え、巻末に収録された「初笑ひ新春座談会」も興味深い内容です。
桂文治、古今亭志ん生らに江戸川乱歩や城昌幸も加わっての座談会なのですが、参加者の中に神田伯龍の名も見えます。神田伯龍は明智小五郎のモデルとなったことでも知られている講釈師です。

というわけで、マニアックな対談の内容もさることながら、それ以上に付録の方へ目が行ってしまう本なのですが、今は出版社で品切れしています。
古書で購入しかありませんが、その際にはご注意ください。文庫化もされていますが、文庫版にはCDはついていません。
 付録が欠品していない単行本をお探しください。



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