
新潮社・とんぼの本の新刊として「怪人 江戸川乱歩コレクション」という本が出ました。
はじめにタイトルだけ知ったときは「いったいナニゴトか」と過大な期待をしてしまいましたが、それほど仰天するような内容ではありませんでした。
乱歩関係のビジュアル本は、これまでにもいくつか刊行されています。
いずれ、記事を改めて詳しく紹介しようかと思っていますが、これまでに刊行されたビジュアル本をズラズラっと並べてみましょう。(リンク先はいずれもAmazon)
こうして見ると、1994年の乱歩生誕100周年前後に刊行されたものが多く、いまや新本で入手可能なのは新潮日本文学アルバムの一冊くらいです。
それぞれに特色はありますが、これまでの本はやはり「小説家としての乱歩」に焦点を当てたものばかりで、乱歩の写真以外は、初版の書影や自筆原稿、著書の広告やチラシなどがメインでした。
今回のとんぼの本は、乱歩邸の「もの」に焦点を当てているというところで、他とは一線を画しています。池袋にある乱歩邸は今は立教大学へ移管され研究が進んでいますが、この本の内容はその研究成果ともいえます。
ともかく、乱歩邸は解剖学的な緻密さで徹底的に研究されているようですね、この本を見ると。
乱歩邸は内装や増築部分などが乱歩自身によって設計されていますが、これまた「乱歩作品」の一つと見なすことができます。このため、ドアノブだとか、電灯だとか、そんな一見どうでもよさそうなものまでいちいち写真に収められており、ところが、並べてみると「やっぱりこれは乱歩だ」と思ってしまうようなビジュアルなのです。
また、乱歩は自身にまつわる記録――写真や手紙はもちろん、新聞記事や広告などまで――何かも整理して保管していたことで知られていますが、このような整理保管対象は日用品にも及んでいました。服やネクタイなどの膨大な写真も並んでいますが、これも立教大学が研究の一環で撮影たもののようです。すんごく楽しそうな研究をしているな、立教大学は!
乱歩が作成していたスクラップブック「貼雑年譜」は有名で複製が公刊もされていますが、それとは別に家族のためにアルバム帳を作っていたとのことで、その内容も一部、紹介されています。刊行前に物議をかもしていた「うら若き女性のヌード写真」です。
というわけで、小説家としての乱歩だけでなく、人間としての乱歩、生活者としての乱歩の息遣いに触れられる、ファンには嬉しい一冊です。
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