201709呪怨129

今回はビデオ版「呪怨」登場以降の展開について。

前回の記事に書いたとおり、筆者は「呪怨」のビデオを初めて借りるまでには少々苦労しましたが、その後はかなりの勢いで何度も何度も借りてきては、そのたびに震え上がるという生活を送っていました。
そんなに借りるなら、買えばいいじゃないかと話で、実際に筆者は手元に置きたくて仕方なかったのですが、当時はまだDVD黎明期。「呪怨」はVHSしか発売されておらず、またそれは一般向けではなくレンタルショップ向けのもので、非常に高額でした。
そんなわけで、何度も何度も借りるしかなかったわけです。
ようやくDVDが発売されたのは2003年1月。劇場版「呪怨」の公開にあわせてのものでした。

ところで、オリジナルビデオ発のシリーズが劇場版公開ともなれば、すでに人気は絶頂期、と思われるかも知れませんが、実際には「呪怨」が好きなのはホラーマニアだけで、まだまだ世間一般では知られていなかったのです。
リアルタイムでも、自分の熱狂ぶりと世間一般との「ズレ」は認識していました。
ビデオ版「呪怨」の発売情報は2002年暮れの時点で知っていたため、発売日を指折り数えて待っていました。ところが、発売日当日の昼休みに職場近くのCDショップへ出かけると店頭に見当たらず。店員へ尋ねると、なんと「入荷していない」という返事でした。
おいおい、それくらいチェックしておけよ、と思いながら別の店へ行くとそこでも入荷無し。
結局3軒目で買いましたが、棚へポツンと差してあるだけで、全く「話題の新作」という扱いではありませんでした。

さらに、劇場版の公開も単館系での興行でした。
筆者はテアトル新宿での初日、初回上映前に清水崇の舞台挨拶があると知り、その日は仕事を休みにして早朝から駆けつけました。
11時開演のところ、8時半に劇場へ到着すると、すでに長蛇の列で「あ、やっぱり人気があるんだ」と思いましたが、実はそうではなく、奥菜恵、伊東美咲といった(当時はアイドル扱いの)女優陣も登場するため、そっち目当ての客ばかりでした。舞台挨拶が始まると客席は巨大なレンズの放列。司会者が「撮影禁止」と何度も呼びかけているものの、お構いなしの状況でした。清水崇目当ての客は何割もいなかったのではないでしょうか。
そのときは「アイドルの力に頼らずにホラーが客を呼べる時代になってほしい」と思ったことを覚えています。

ところが、そんな時代はすぐに来ました。
劇場版「呪怨」が大ヒットしたためです。
正直な感想を言えば、映画館で観る「呪怨」はそれほど怖いと思えず、「やっぱり夜中に一人で観たほうが怖いよな」と思いましたが、アイドルに釣られて劇場へ来た観客には衝撃的な怖さだったようです。
劇場版「呪怨2」の製作や、ハリウッドリメイクについては劇場版一作目のヒットによるものではなく、実はこの一作目初日の舞台挨拶の中で公表されていました。
したがって、製作側としてはヒットを確信していたと思われます。
穿ちすぎかも知れませんが、ヒットが確実にもかかわらず単館上映からスタートしたのは「じわじわと口コミで怖さが広がった」と宣伝したいがための演出だったのかも、という気もしないでもありません。とはいえ、実際にじわじわと恐怖は伝播していくことになったわけです。
劇場版のDVDが発売されるときには、どこのショップでも山積み。わずか数ヶ月で隔世の感がありました。

約半年後に劇場版「呪怨2」が公開されました。
このときには、世間はもう大変な盛り上がりでした。
試写会も何度も行われていたため、周囲のホラー好きはみんな試写会で観ていました。筆者は公開の一週間前に行われた先行オールナイトで観たのですが、あまりに事前の情報が多すぎたため、公開前なのに「やっと観れた」という気分でした。
この「呪怨2」は1作目よりもさらに怖くない映画になってしまっているのですが、お化け屋敷映画としてはものすごく楽しい仕上がりで、清水崇の力量をこれまで以上に感じる内容でした。

清水崇はこの2003年は大活躍の年でした。
劇場版「呪怨」2本の製作・公開と平行して、盟友・豊島圭介監督と自主制作の企画「幽霊VS宇宙人」を上映しています。
こちらはホラーの体裁を取りながら完全にギャグに走った内容で、本来の姿を伺われる作品です。ビデオ版「呪怨」を初めて観たときの「この人はは一人くらい殺しているに違いない」というような凶暴な印象は、すでに跡形もなくなりました。
余談ですが、清水監督の素顔といえば、「呪怨」のDVDに必ず収録されるオーディオコメンタリーも最高に楽しい内容です。撮影時の意図や裏話を真面目に語っている部分もありますが、大半は自作にツッコミを入れながらゲラゲラ笑っていて、オーディオコメンタリーをONにして「呪怨」を鑑賞すると、真夜中に一人で観ても全然平気になります。
筆者はこの年8月に下北沢であった「幽霊VS宇宙人」の上映会を覗きいったのですが、会場へ着いてから、清水崇と豊島圭介とが日替わりでトークをしていると知りました。
当日は豊島監督の日で、この方も非常に楽しいトークで、あっという間にファンになってしまいましたが、やはり清水監督のトークも聞きたい。そんなわけで、翌日も同じ劇場へ行き、トーク終了後にロビーでのんびりしている清水監督からサインをもらったりしたものです。

それはさておき、劇場版「呪怨2」公開の直前には宝島社から「最恐伝説 呪怨」というムックが発売されます。宝島社から出るこの手のファンブックは微妙な内容のものが多いのですが、「呪怨」に関してはかなり充実した内容で、清水崇も全面的に協力しています。エッセイの寄稿やインタビュー、対談はもちろん、自筆の短編漫画まで掲載されています。御茶漬海苔にそっくりの筆致でものすごく納得しました。

そんな感じで、個人的にはJホラーブームの絶頂期と考える2003年が過ぎていきました。

次回は、Jホラーブームの中で量産された、「リング」「呪怨」以外の主要作を振り返っていきます。


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