201708死の十字路111

筆者は古本屋に映画の台本コーナーを必ずチェックしています。
公刊されていないシナリオが転がっていないか見ているわけですが、久しぶりに収穫がありました。
職場近くの古本屋で1956年の日活映画「死の十字路」の台本を見つけたのです。

これは言うまでもなく、前年の1955年に発表された江戸川乱歩「十字路」の映画化です。
この小説は以前の記事にも書きましたが、原案を渡辺剣次が提供しています。
(関連記事:ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集39「死の十字路」
映画「死の十字路」の脚本は、この渡辺剣次が担当しており、いわば生みの親の元へ帰ったような形になっています。

この映画は、名画座でもちょこちょことかかっており、以前はVHSも発売されていたため、それほど見るのが難しい映画ではないのですが、筆者は未見です。DVD化はされていません。
このため、今回入手した台本を読んで、初めて内容を知りました。

渡辺剣次が原案を提供し、乱歩が自分流に書いた……という触れ込みなので、親元へ帰ったシナリオを読めば、どの辺が原案でどの辺が乱歩オリジナルなのか、その境界がわかるかも、ということを期待していたのですが、その点では肩透かしでした。
というのは、乱歩の小説版にほぼ完全に忠実な映画化なのです。渡辺剣次の実弟にあたる氷川瓏がリライトした児童向け「死の十字路」が自由に設定を変更しまくっていたことと比べると、とても行儀の良い映画化です。
これは、そもそもが渡辺剣次が完璧な状態で提供したシナリオを、乱歩がノベライズしただけなのか、あるいは斯界の大御所である乱歩作品に敬意を払い、乱歩オリジナル部分をことさら忠実にシナリオ化したのか、おそらくは後者かと思いますが、いずれにしても当初の目論見からいえば期待はずれでした。

とはいえ、そもそもの乱歩の持ち味とは全く異なる物語でありながら、サスペンス小説の傑作となりえているのは、間違いなく渡辺剣次の功績であり、その点は改めて確認することができました。


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