
本書はエッセイ集というわけではなく、小林信彦によるインタビューがメインの本ですが、探偵小説観や著作の裏話を詳細に語っており、番外編という位置づけでここでご紹介します。
「犬神家の一族」映画公開にあわせ、昭和51年に単行本が刊行されたのち、昭和54年に文庫化されています。
文庫化に際しては、単行本にあった「昭和四十年の日記」が削除されているのですが、一部マニアのあいだでは文庫版に大変な人気があります。というのは、角川文庫の横溝正史作品をコンプリートする上で、「シナリオ悪霊島」と並び本書が最大の「キキメ」とされているのです。(「キキメ」とは古本業界用語で、全集などを揃える際に難関として立ちはだかる巻のこと)
かくいう筆者も、この文庫版は、買う気になれる値段で古本屋に置いてあるのを見たことがありません。高値がついていたり、角川文庫の横溝正史を全巻セット組した中に入っているのは時々見かけますが。
筆者は、本書の入手については幸運でした。
というのは、本書がキキメになっているということを、まだよく知らない中学生の頃(平成元年頃)に、古本屋で単行本(ただし、カバーなし)を見つけ「これの文庫版は見たことがないから単行本を買っておこう」と買っていたのです。
当時すでに、角川文庫の横溝正史作品には入手困難なものがちらほらあり、古本屋を見かけると、軒並み横溝作品の在庫をチェックして歩いていました。
カバーが無い点は購入時にやや引っかかった記憶がありますが、とはいえその頃すでに「本は一期一会。見たとき買わないと後悔する」ということを悟っていたため、すぐさま買いました。
今にして思えば、我ながら「でかした」と思います。冒頭の画像がそれです。おかげで、その後インターネットが隆盛し、ファンが「横溝正史読本」入手の苦労について語り合っているのを見ても高みの見物をしていられました。
文庫版はその後一度、復刊されたことがありますが、既に単行本を持っているうえ、棚に並べたところで背表紙が揃わないのが嫌だったので、買っていません。
(余談ですが、もう一冊のキキメである「シナリオ悪霊島」の方は、新刊書店で普通に並んでいるのを何度か見かけていました。こんな記事を書くくらい、この映画は大好きだったのですが、シナリオは「こんなもの買う人いるんかなあ」とスルーしていました。後年、古書価が高騰することを知っていたら、買っておいたんですが……)
さて、そんなわけで手に入るかどうかという点ばかりが注目される本書ですが、内容はかなり濃いです。自作についてのコメントは、本書一冊があればほかのエッセイはいらないくらい、何もかも語っています。
また、「ドグラ・マグラ」を読んでいる最中、急に気が変になって衝動自殺しそうになったというエピソードも披露されています。角川文庫版の『ドグラ・マグラ』の作品説明には「本書を読んだものは精神に異常をきたす」というようなことがありますが、その元ネタはこの話ではないか、と筆者は思っているのですが、どうなんでしょう。
目次は以下のとおりです。
序にかえて横溝正史の秘密(横溝正史・小林信彦)探偵茶話 横溝正史「本陣殺人事件」を評す(江戸川乱歩)「蝶々殺人事件」について(坂口安吾)「獄門島」について(高木彬光)日記(昭和四十年)昭和四十年の日記について年譜(島崎博)あとがきにかえて(小林信彦)
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