201706吸血鬼の島092

まさかこの年になって、江戸川乱歩の聞いたことのないタイトルの本を手にとることになるとは考えもしませんでした。
「吸血鬼の島 江戸川乱歩著」という文字を目にした時は本当に信じられない気分でした。
「知らん、知らん、そんな小説知らんぞ!」と刊行を待ちわびていましたが、ようやく手にとってみると、これは昭和30年代に雑誌「少年」に連載されたもので、名義は乱歩となっていますが、実際には代作と考えられている作品でした。

帯に「外伝」とありますが、明智探偵や小林少年、少年探偵団が活躍する掌編にクイズがくっついた形式のものです。(このクイズがまた、びっくりするくらいチープ)
乱歩の書いた少年探偵団シリーズは、青銅の魔人や透明怪人、宇宙怪人など、化け物が登場しても、すべては二十面相の仕業だったと論理的、科学的に説明されますが(ホンマか?)、この外伝では、化け物は化け物のままです。つまり、本当に宇宙人がやってきたり、妖怪が出たりします。この辺の脳天気さが、いかにも昔の少年雑誌です。
表題の「吸血鬼の島」は、孤島へたどり着いた二十面相が、吸血鬼に襲われ、泣きながら明智探偵へ助けを求め、明智と小林とが二十面相救出のため島へ向かう、というありえないくらい無茶苦茶な設定なので、これはさすがに当時の読者も違和感を持ったのではないかと思いますが、こういうのを平気で掲載しているのが、さすが昔の少年雑誌です。
筆者は昭和50年生まれなので、ここまで古い雑誌は知りませんが、それでも子どもの頃に読んでいた雑誌は、「バミューダの三角海域」とか「魔のサルガッソー海」とか「ヒマラヤの雪男」「ネッシー」「ツチノコ」「ノストラダムス」……と、そんな話題ばかりで、ページをめくりながら本気で震えあがっていたもんです。昔の児童書がいかに節度がなかったか(だからこそ、すごく面白かったことを含めて)よく記憶しています。
 
話がそれましたが、本書を読んでいなくても、乱歩という作家を語るには何の不足もないことは間違いありませんが、乱歩の少年探偵シリーズが好きな人には、先年ポプラ社が企画した「生誕120年記念オマージュ」の企画よりも、こっちの方が遥かに楽しめます。
続刊もあるようで、楽しみです。



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