今のところ著書のほぼ全てが絶版状態のため、若い人は聞いたこともないかも知れませんが、地上最強のカルト漫画家といえば、風忍かぜしのぶです。

風忍の魅力といえば、まずはその超絶技巧。
うっとりするほど細密で美しく、構図は曼荼羅のようにサイケデリックで、短編集『ガバメントを持った少年』の帯に書かれた「サイケ&トランス」というコピーがまさにぴったりです。
これほどの画力を持ちながら、いったいどんなストーリーを描いているかといえば、これまた脳ミソがハジケそうな、ぶっ飛んだ話ばかり。一度ハマるとドラッグのように抜け出せなくなります。
こんなにすごい漫画家なのに、新刊書店に著書が一冊も並んでいないとは!

とはいえ、筆者が風忍を一生懸命買い集めていたのは、今から15年ほど前のことなのですが、その頃でも、新刊書店に並んでいるのは極々わずかでした。今も昔も、知名度低すぎ。友人と風忍の話で盛り上がったことは一度もありません。
しかし、熱狂的な読者は常に存在しています。いずれ来るであろう、再ブームを祈念して、微力ながら紹介記事を書いてみます。
あまりに他と隔絶した作風なので、どんな作品を手に取っても、風忍の世界を充分に堪能できますが、今回は代表作3冊をご紹介します。

地上最強の男 竜

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まずは、やはりこれ。「地上最強の男 竜」です。
地上最強の男・雷音らいおん竜が戦い続ける話ですが、正直なところ、冒頭からテンションが高すぎ。主人公がなぜそんなに強いのか、説明は一切なく話が始まります。
恋人を竜に殺され、復讐に燃える女とまず対戦。
目玉や脳漿が飛び散り、曼荼羅のようなコマ割りの中で、仏像が渦を巻いて飛び回るという、信じられないような光景の中で、戦いは続きます。「週刊少年マガジン」に連載されていたということですが、毎週の切れ目がどこにあったのか、さっぱり見当もつきません。

死闘の末に女を倒しますが、あまりの強さを目の当たりにした竜の師匠は抹殺を決意。史上最強の男である、イエス・キリスト、宮本武蔵、そしてブルース・リーの3人をあの世から召喚します。(この人選!)

さて、復活した史上最強の男3人との対決は、病院の一室という、えらく地味で狭い空間で始まります。地上最強の男であるにもかかわらず、竜が入院していたためです。

この部屋の空間に一瞬 すさまじい衝撃が走った 武蔵とブルース・リーの体は赤い絵の具をぬったように全身赤くそまっていた!

と、まず2人はあっさり片づけられますが、キリストとの戦いでは(当然のことながら)病院の建物が崩落します。
サイケデリックなコマを随所に散りばめながら、戦いは続き、やがてキリストの顔が割れて、中から悪魔が現れます。世界中のミサイルが発射がされ、一斉に竜の処刑に向かいます。
宇宙規模のイラストが次々と現れ、最後には竜は地球を真っ二つに割ってしまいます。(アラレちゃんが割る地球と違って、リアルで美麗なイラストです)

しかしこのことが おれのしわざだとわかると 世界中からおれの命を消しにきた!!

ということで、竜は戦い続け、世界からは子ども以外、誰もいなくなります。
すると、天から階段が降りてきて、竜は神のもとへ召されます。平和のため、地球を新しく生まれ変わらせるという使命を終えたからです。

……狂ってる。狂っているとしか言いようのない話です。
筆者が持っている双葉社版(2001年発行)には風忍のあとがきも載っていますが、これまたえらくテンションの高い文章で、「この人……やっぱり狂っている」と思わざるを得ません。
ただ、このあとがきでは自身のルーツについても触れており、ファンにとっては貴重な内容です。横尾忠則と鈴木清順。意味不明の漫画になるのも、むべなるかな……。

2021/08/07 追記:
9月に復刊ドットコムから雑誌連載時の内容を再現した「初出完全版」が刊行されるようです。
値は張るけど、買うしかない(むしろ、復刊ドットコムにしてはお安め)。

地上最強の男 竜 [初出完全版]
風忍とダイナミックプロ
復刊ドットコム
2021-09-16

ガバメントを持った少年

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太田出版が1997年に発行した「QJマンガ選書」の一冊。「自薦短篇集」です。
QJ選書は、かなりおかしなマンガばかり刊行していたため、ほかに比べるとずいぶんマトモな漫画だと思ってしまいましたが、実際のところ、「地上最強の男 竜」ほど狂気に満ちた作品はなく、異常な画力を堪能するための短編集と言えます。
この短編集を読んでいて感じるのは、横尾忠則からの強い影響です。
表紙の日本刀を下げた男のイラストは、冒頭に収録された「男は度胸」という短編の一ページですが、これは任侠漫画です。こんな絵で任侠!?と驚きますが、横尾忠則の「憂魂、高倉健」という写真集を見ると、モロに同じ世界観です(いや、横尾忠則の方がだいぶ大人しいのですが……)。
頻出するサイケデリックな構図も、横尾アートの引用というわけなのです。
イラストだけでなく、SF風に展開する奇想天外なストーリーが特徴的で、風忍の著書の中では、最も万人向けでしょう。

雨月ものがたり

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帯に「古典学習にも最適!」などと適当なことが書いてありますが、いったいどんな編集者がこんな本を企画したのか。奇跡の一冊と言ってもよい本です。
内容的には確かに「雨月物語」から代表的な3編(「菊花の約」「浅茅が宿」「蛇性の淫」)を選んで、忠実に漫画化しています。
とはいえ、いつもどおりの曼荼羅風のコマ割りや神秘的な描写が健在です。古典学習に使うには無理があると思いますが、もし間違って買ってしまった高校生がいたとしたら、単なる古典学習以上の生涯忘れられない体験をできることでしょう。

筆者は、風忍の単行本は頑張って全部そろえたのですが(その後、一部は手放してしまいましたが)、氏の厄介なところは、雑誌に掲載されたきりの作品が、伝説的に語られていたりするところです。
オウム真理教を描いた作品(事件直後)や、ゴジラ対骨法の話(そんな無茶な……)など、未だに読んだことないのですが、いずれ古本屋で見つけたいものだと思っています。

地上最強の男 竜 [初出完全版]
風忍とダイナミックプロ
復刊ドットコム
2021-09-16




風忍
清流出版
1996-04

憂魂、高倉健
横尾忠則
国書刊行会
2009-06-01





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