
数ある島田荘司作品の中で、最も好きなのは「異邦の騎士」だ、という方は多いでしょう。
かくいう、筆者もその一人で、中学生の頃に初めて読んでから、これまでに何度読み返したことか。
この小説の舞台は1978年の東急東横線沿線に設定されています。文中には70年代の香りが濃厚に漂い、1975年生まれの筆者としては、その辺にも興味をそそられます。
15年ほど前、渋谷から横浜へ移動する途中、主人公とヒロインとが暮らしたとされている元住吉の駅へ降りてみたことがあります。駅舎の建て替えが施工される直前のことで、改札を出た途端、目の前に広がる「異邦の騎士」の世界そのままの光景に、現実から飛んでしまったような気分になり、頭がクラクラしました。
あの時、カメラを持たずに出かけたことを未だに悔やんでいます。
というわけで、今回、ストリートビューで舞台地を再訪しましたが、景色が多少変わっているとはいえ、やはりいたるところに当時の空気は感じられます。
改札口を出ると地下だった。階段をあがって地上の街に出る。ケーキ屋がまず目につく。その向いに不動産屋がある。
建て替え前の元住吉駅は、改札口が地下にあり、東西の出口へつながっていました。このシーンが駅の東口なのか西口なのか書いてありませんが、15年前に訪れた際、東口に小さなケーキ屋と、その向かいの不動産屋がありましたから、恐らく東口でしょう。ケーキ屋に入って「20年くらい前に石川良子というアルバイトはいませんでしたか?」と聞きたくなりましたが、完全に異常者なのでやめました。このケーキ屋は、ストリートビューで見る限り、もうないようです。向かいの不動産屋は「ピタットハウス」が該当するにように思われます。
ランプハウスに良子はいた。店と通りを隔てた反対側に銀行があるのだが、その前に煉瓦を箱型に積んだちょっとした植込がある。
この「ランプハウス」という喫茶店は駅の西口側に実在しました。数年前に閉店して建物も建て替わったようです。ストリートビューで見える「富士そば」の入っている建物が跡地です。向かいに三菱東京UFJ銀行があります。
次は、作中を少しさかのぼって、主人公と良子との引っ越し途中。
良子の指示に従って走っていくと、道が多摩川べりに出た。たそがれ時が迫っていた。陽が、川原の草原と川面を隔てた、対岸のビルの頂まで落ちかかっている。
多摩川べりのどの辺りなのか、正確に特定できませんが、高円寺から元住吉まで車で走るとなると、この多摩川丸子橋緑地あたりになろうかと思います。ちょうど川の西側にビルが立ち並んでいるのが見えます。
次に、主人公と良子との横浜デート。横浜の観光名所があちこち描かれますが、その中からここを。
元町を右へ折れ、路地を右へ左へとしばらく歩き、それからゆるい石段をぶらぶらあがっていくと、外人墓地の横に出た。墓地の黒い金属柵の前に、薄グリーンのペンキ塗りの木造西洋館があった。
外人墓地脇にある山手十番館と思われます。
最後は、一気に飛んでクライマックス。
荒川の土手へ行った。ゆうべ見当をつけておいた、四ツ木橋のガード下の暗がりに身をひそめる。
地名が明記されているので、ここに間違いありません。ランニングしている井原をここで狙います。また、二十代の御手洗潔が鉄の馬に跨り、颯爽と現れたのもこの辺りです。
さて、本当は元住吉で良子が主人公を待って2時間も、もたれていた駅の柱が、この小説の一番のキモだと思っているのですが、それはもうありません。15年前に訪れた時は「お!ここだここだ」とえらく興奮したものですが、そのときにカメラを持っていなかったことを悔やむばかりです。
また、主人公と良子が住んだアパートも、モデルになった建物があったようで、一時期ネットでは盛り上がっていましたが、筆者はどこにあったのかよく知らず、そうこうしている間に、このアパートも取り壊されて、今は無いそうです。
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