45時計塔の秘密052


今回は第45巻「時計塔の秘密」をご紹介します。奥付は昭和45年8月発行となっていますが、実際には昭和48年11月に刊行されたようです。
原作は昭和12年から「講談倶楽部」に連載された「幽霊塔」。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和34年にポプラ社から「名探偵明智小五郎文庫14」として刊行されました。
表紙絵・挿絵とも岩井泰三が担当しています。いずれも本書の描き下ろしです。

原作はよく知られているとおり、黒岩涙香の「幽霊塔」をベースにしています。涙香の「幽霊塔」はさらにイギリスの作家ウィリアムスンの「灰色の女」を翻案したものです。

以前に書いた記事
黒岩涙香の「幽霊塔」

というわけで、この三作品を比較するといろいろ面白いのですが、 それはまたの機会にして、今回は乱歩の「幽霊塔」と、リライト版「時計塔の秘密」とを比べてみます。

原作は北川光雄という青年が主人公で、幽霊塔で出会った美女・野末秋子に心を惹かれ、獅子奮迅の働きで謎に立ち向かい、最後には秋子と結ばれることになります。
ところが、リライト版では北川光雄は少年ということになっています。
光雄は少年なので、秋子に心を惹かれても、原作ほどの冒険はできません。そのパーツを受け持つのが明智小五郎です。リライト版の後半は、原作の光雄の役を光雄少年、明智が分担したりあるいは協力したりしながらこなしていくことになります。
また、原作には森村刑事という名探偵が登場します。名探偵という言うほどには活躍しない印象がありますが、ともかく、登場時点では「名探偵」として華やかに描かれています。
この役目も、当然のことながら明智が担います。
ところが、原作では終盤で森村刑事と北川光雄とが格闘する場面があるのです。明智が両方の役を担っていては、このシーンをどうするのか?
と心配していると、森村刑事役は途中から中村警部が引き継ぎます。ポプラ社のシリーズでは、警察官といえばともかく中村警部です。
ということは……なんと、盟友であるはずの明智小五郎と中村警部とが格闘するという、シリーズ唯一のトラブルが発生するわけです。

そんな感じで、原作のエピソードを全て取り入れることには成功していますが、「少年」と「明智」というお題を無理やり達成するために、なかなか複雑な形で登場人物たちを使いこなしていきます。改変の力技という点では、シリーズ随一でしょう。
子どもの頃、原作を読む前にリライト版を読みましたが、その時点では何の違和感も持ちはしなかったのですけどね。

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