今回は第40巻「恐怖の魔人王」をご紹介します。昭和47年8月の刊行です。
原作は昭和6年から雑誌「講談倶楽部」に連載された「恐怖王」。
リライト版の本書は書き下ろしです。口絵に「江戸川乱歩・原作/氷川瓏・文」とリライト担当者が明記されていますが、これは前巻「死の十字路」と同じく、本書の刊行が乱歩の没後だったからではないかと思われます。
表紙絵・挿絵は岩井泰三が担当しています。
個人的に「恐怖王」は乱歩作品のワーストだと思っています。
死んだ娘と結婚写真を撮る冒頭のシーンは、後年になって横溝正史「病院坂の首縊りの家」にも影響を与えたか?と思われるような名場面ですが、良いのはそこだけ。
あとは曲芸飛行で空中に「Kyofuo」と文字を描いたり、意味不明のドタバタした展開が続き、結局、何が何やらよくわからない、しかしどうでもいいや、という感じで終わってしまいます。
この作品が連載された頃は、乱歩の人生で最も多作だった時期です。「孤島の鬼」「蜘蛛男」「黄金仮面」など力作を続けて執筆する一方、「猟奇の果」で大失敗したり(でも、個人的には割りと好き)、「盲獣」で変態を極めたり、話題に事欠きません。
「恐怖王」も多忙の余り、何も考えずに書き始め、ともかく完結だけはさせた、という作品です。
リライト版では「恐怖王」が「魔人王」と変わり、空中の怪文字も「MJINO」となっています。だから、どうでもいいっちゅうねん。しかも、「マジンオー」ではなく「マジノ」としか読めません。
なぜわざわざ改名をしたのか?
おそらくは、少年探偵団シリーズに「仮面の恐怖王」というタイトルの作品があるため、重複を避けたのかと思います。
ストーリー自体はほぼ変わらず、原作の探偵小説家・大江蘭堂の役を明智小五郎が務めます。
ところが、この大江蘭堂は、わりとおっちょこちょいで、最終的に彼が事件を解決したとはとても言えません。このため、リライト版では史上最も役に立たない明智が登場することになってしまいました。(とはいえ、大江蘭堂よりは若干マシな扱い)
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