
今回は第35巻「地獄の道化師」をご紹介します。昭和46年4月の刊行です。
原作は昭和14年に雑誌「富士」に連載された同題の「地獄の道化師」。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和34年「名探偵明智小五郎文庫9」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は岩井泰三が担当。いずれのイラストも本書の描き下ろしです。
原作の掲載誌である「富士」というのは、講談社の雑誌「キング」が、戦時中、敵性語を避けるため誌名を変更していたものです。したがって、「黄金仮面」や「大暗室」と同じ雑誌に掲載されたということになります。
誌名が変更されていることからもわかる通り、この頃は世の中が対米英戦へと向かいつつある時期で、探偵小説への圧力も強くなってきており、この年を最後に乱歩の戦前の長編連載は終わることになります。
そのいったこともあってか、長編としては非常に短い仕上がりです。
また、冒頭は「蜘蛛男」、犯人像は「妖虫」の焼き直しような感じで、あまりパッとしない作品です。
原作もリライト版も、大きな筋にほとんど変更はありません。明智先生も小林君も原作にちゃんと登場するので、とてもリライトしやすかった作品の一つでは、という気がします。
作品が短いため、本書には短編「心理試験」のリライト版も掲載されています。こちらも氷川瓏の筆になります。原作を忠実に、そして簡潔に要約しており、子どもの頃に読んだときも、非常に面白く感じたことをよく覚えています。本書の価値は、どちらかというとメインの「地獄の道化師」よりも、「心理試験」の方にあるように思います。
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