
今回は第34巻「緑衣の鬼」をご紹介します。昭和45年8月の刊行です。
原作は「講談倶楽部」に昭和11年に連載された同題の「緑衣の鬼」。イギリスの作家イーデン・フィルポッツの「赤毛のレドメイン家」を下敷きとした小説です。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和33年「名探偵明智小五郎文庫3」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は武部本一郎が担当。昭和42年「名探偵シリーズ」版からの流用です。
「赤毛のレドメイン家」は、乱歩が激賞したおかげ今でも海外ミステリの古典としてよく知られています。
乱歩が感心したポイントして、登場する男女の恋愛が事件の進展や解決へ大きく影響を与えるということがあります。「緑衣の鬼」原作版でも、その点はしっかりと、というかむしろ強調しすぎなきらいがあるくらい書き込まれています。
その恋に狂う探偵小説家・大江白虹の役割を、リライト版「緑衣の鬼」では小林君が努めます。原作の折口幸吉の役を務めるのが「大江少年」。芳枝さんとの関係が「姉の友だち」という点で大江白虹の役を一部引き継ぎますが、物語自体には折口と同じく、ほとんど登場しません。(そもそも、「赤毛のレドメイン家」には折口に相当する人物はいないのですが)
また、原作の「緑衣の鬼」には明智は登場せず、乗杉龍平という探偵が登場します。「赤毛のレドメイン家」という原作があるため、明智を出しづらかったのかも知れませんが、あるいは読者に「もしかして探偵が犯人?」と疑わせるために明智ではない名探偵を出してきた可能性もあります。というのは、原作では恋に惑う大江白虹が、「お前が犯人だ」と乗杉に詰め寄るのです。
しかし、リライト版では、大江役を小林君が努め、乗杉役を明智が努めているため、小林君が明智先生を告発することなどできません。また、小林君は少年なので、もちろん未亡人に恋心を抱いたりはせず、したがって、曇った目で推理を披露することもありません。
このため、原作では重要となっているこのシーンでは、突然登場してきたド田舎の警察署長さんが、明智先生に「犯人はお前だろう」と、詰め寄ることになります。
恋に目がくらんだのではなく、単なる田舎者でよくわかっていなかっただけ。恋愛ミステリのクライマックスがえらくショボい展開になってしまいました。
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