30大暗室037

今回は第30巻「大暗室」をご紹介します。昭和45年10月の刊行です。
原作は「キング」に昭和11年から連載された同題の「大暗室」です。
「黄金仮面」「妖虫」につづいての「キング」での長編連載であり、乱歩自身、「おそろしく大時代的」と語っていますが、善玉悪玉の命懸けの闘争という筋立てをみると、相当な気合を込めて連載したのでは、と感じられます(成功しているかどうかはともかくとして)。
リライトは氷川瓏が担当しています。筆者が持っている本(1998年37刷)では「はじめに」でも氷川瓏と明記されていますが、当初は武田武彦がリライトしたと紹介されていたようです(筆者が子どもの頃に図書館で借りた本にも武田武彦と書いてあったように記憶しています)。
初出は昭和31年「日本名探偵文庫21」としてポプラ社から刊行されました。
(2017/12/20追記 中川右介「江戸川乱歩と横溝正史」によれば、武田武彦版の「大暗室」は昭和31年に小学館の雑誌「小学六年生」に連載されたもので、ポプラ社から出た氷川瓏版とは別に存在するようです。また名張図書館発行の「江戸川乱歩執筆年譜」には初出の単行本について「代作(氷川瓏。乱歩は武田武彦と記録。)」という記述があります)


表紙絵は柳瀬茂、挿絵は山内秀一が担当しています。いずれも昭和42年に刊行された「名探偵シリーズ」版からの流用です。

さて、このポプラ社のシリーズ中、最も派手な改変が施されているのが本書でしょう。
原作は、天使・有明友之助と悪魔・大曾根竜次の闘争物語でしたが、本書ではなんと明智小五郎と怪人二十面相の戦いということになっています(有明と大曾根はそれぞれの変名)。
怪人二十面相が人を殺すなんて……と、小学生時分に読んだ時はショックを受けたものです。
大筋では原作通りの展開なのですが、明智と二十面相とを導入したことで、親子二代にわたる因縁ではなく、大曽根竜次一代の物語となっています。また、原作では大人だった人物が少年・少女になっていたり、小林君が登場したりと、細かいところを挙げはじめるとキリがありません。

ところで、このたび30年ぶりに原作を読み返してみたのですが、リライト版がこの小説を明智と二十面相の物語に置き換えたのは、案外、的を得た処理だったかも、と思いました。
というのは、二十面相の悪事というのは、全体を通して明確な動機がありません。いったい何の意図があって子ども相手に幼稚な悪さばかりしているのか。全体を通し特に説明がなく、バイキンマンが執拗にアンパンマンを攻撃しているのと同じくらい謎なのですが、大曾根の悪事は、それと同じで、全く理由がないのです。
にもかかわらず、大曾根は壮大な悪を夢見て、有明は明朗快活に戦う。これは二十面相と明智の関係と同じだ、と気づいた氷川瓏はエライ、と今さらながら思いました。

Amazon販売ページ(古本は入手できます)
30大暗室037
江戸川 乱歩
ポプラ社
1970-10


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