ぼうぼうあたま016

「もじゃもじゃペーター」という絵本をご紹介します。
これは原題を"Der Struwwelpeter"というドイツの絵本です。
子どもの教育のためのお話が並んでいるのですが、内容はなかなか強烈で、マッチで火遊びしていた少女は全身火だるまになり、何度注意されても指をしゃぶり続ける男の子は、部屋へ飛び込んできた「服屋さん」にハサミで指をちょん切られてしまいます。
というような教育に良いのか悪いのかイマイチわからない本ですが、本国ドイツでは非常に人気があり、amazon.deで検索すると、ポップアップ絵本やパロディやなど、たくさんの本が上がってきます。
筆者は以前、ポップアップ絵本を取り寄せてみましたが、服屋さんのハサミがチョキチョキ動いたりと、かなり悪趣味な出来栄えでした。

日本語版は3種類出ており、それぞれ訳文とイラストが異なります。



まず、日本で最初に翻訳されたものの復刻版。これは現在、銀の鈴社から『ぼうぼうあたま』というタイトルで出ています。訳者は「いとうようじ」となっていますが、実はこれは帝国海軍で大佐だった伊藤庸二という人です。この人は技術将校でレーダーの研究などをしていました。同盟国であったドイツに留学経験があり、そこで知ったStruwwelpeterを昭和11年に翻訳したのでした。
本書の特徴としては、まず翻訳が古い。戦前の訳なので当然ですが、これが実は奇妙な味わいをかもしており、個人的には非常に気に入っています。また、イラストは細密で美しいのですが、これは著者であるホフマンの死後に、別の画家によって描き直されたものです。本国ではこのイラストが最もスタンダードなものとなっています。



次に、ほるぷ出版から刊行された『もじゃもじゃペーター』。このタイトルは"Der Struwwelpeter"の訳題として、日本ではスタンダードなものとなっています。1985年発行のため、読みやすい訳文です。イラストは『ぼうぼうあたま』に比べるとずいぶん下手くそなのですが、実はこれこそ作者ホフマンが描いたオリジナルのイラストなのです。そういう意味では、貴重な一冊です。



最後に、生野幸吉・訳、飯野和好・絵の『もじゃもじゃペーター』。もとは1980年に集英社から発行されましたが、しばらく絶版となり、2007年にブッキング(復刊ドットコム)にて復刊されています。
これはイラストが飯野和好氏によるものであり、ホフマンのイラストを参考にはしていますが、もっとも「ふつうの絵本」という印象を受けます。「もじゃもじゃペーター」というタイトルでの翻訳は本書が最初ではないでしょうか。

実は、現在のところ「もじゃもじゃペーター」の2冊はいずれも絶版となり、新刊書店で買えるのは「ぼうぼうあたま」のみとなっています。さすがにドイツ本国ほどの人気は日本では維持できていないようです。
とはいえ、筆者は「ぼうぼうあたま」バージョンを訳文・イラストともに一番気に入っていますので、おすすめするのに問題はありません。



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