今回は春陽文庫の「江戸川乱歩文庫」についてご紹介します。
黒い背表紙に赤い文字、インパクトのある表紙絵を書店でご覧になったことがある方も多いと思います。
児童向けや中絶作品など、特殊なものを除いて、全ての小説が収録されています。
小説のみを読破しようとするのであれば、最も手軽なシリーズです。筆者も、この文庫で読んでいます。
しかし、いろいろ問題もあります。
一番大きいのは「校訂がいいかげん」ということ。
最近、一部の巻のみ新装版が刊行され、その巻末には春陽堂書店版「江戸川乱歩全集」(昭和29~30年)を底本にしているということが書かれています。したがって、乱歩作品の定本とされる桃源社版で削除された文章が残っていたりするのですが、一方で、戦前に検閲で削除された部分がそのまま復活していなかったりもするようです。
創元推理文庫や光文社文庫のように、編集方針が明記されている全集に比べると、信用度はかなり低いシリーズです。
とはいえ。
この文庫で乱歩を読んだ筆者からすれば、「うさんくさいところを含めて乱歩」という気もします。
実際には、乱歩は非常に几帳面な人でしたが、通俗長編などは結末を考えずに書き飛ばしたりもしており(その後で自己嫌悪に陥ったりしますが)、あまり細かい校訂など意識せず、勢いで読んでしまうのが正しい乱歩の読み方ではないかと思います。
そういう意味では、最も肩が凝らずに素直に楽しめるシリーズが春陽文庫版なのです。
新装版が今後も続くのか、目下不明で、その辺も春陽堂らしいのですが、とりあえず旧版に沿って収録作品をご紹介します。冊数が多いため、今回は短編のみ。
全30冊のうち、最初の9冊が短編集です。
これはもともと「江戸川乱歩名作集」というタイトルで刊行されていましたが、昭和62年にカバーを改めて「江戸川乱歩文庫」となりました。ただし本文は「江戸川乱歩名作集」と全く変わっていません。
「陰獣」「ペテン師と空気男」「偉大なる夢」は、他のシリーズでは長編として扱われていることもありますが、このシリーズでは中編という扱いで短編集に入っています。
陰獣
盗難
踊る一寸法師
覆面の舞踏者
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パノラマ島奇談
白昼夢
鬼
火縄銃
接吻
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鏡地獄
押絵と旅する男
火星の運河
目羅博士の不思議な犯罪
虫
屋根裏の散歩者
疑惑
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何者
D坂の殺人事件
一人二役
算盤が恋を語る話
恐ろしき錯誤
赤い部屋
黒手組
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人間椅子
お勢登場
毒草
双生児
夢遊病者の死
灰神楽
木馬は回る
指環
幽霊
人でなしの恋
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月と手袋
地獄風景
モノグラム
日記帳
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心理試験
二銭銅貨
二廃人
一枚の切符
百面相役者
石榴
芋虫
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ペテン師と空気男
堀越捜査一課長殿
防空壕
妻に失恋した男
指
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偉大なる夢
断崖
兇器
表紙画像をご覧いただくとわかるとおり、『ペテン師と空気男』『偉大なる夢』は、現時点では新装版が出ていません。
編集方針は底本同様よくわからず、なぜこのような組み合わせなのか説明できませんが、個人的には『心理試験』の巻に傑作が集中しているように思いますので、最初に読む一冊におすすめです。
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