手元に中学生の頃からずっと宝物のように大事にしている一冊の雑誌があります。
小説新潮の臨時増刊として平成元年春に発行された「昭和名作推理小説」という本です。
昭和が終わったタイミングで、「江戸川乱歩から逢坂剛まで昭和の名作短編40」と銘打って刊行されました。
当時は個人的には乱歩を読み尽くし、横溝ブームの真っ最中という状態でしたが、新聞に掲載された広告にポツポツと「聞いたことがあるな」という作家名があったため買ってきたのでした。
それからしばらくは、ずっと貪るように読んでいました。
中学生というタイミングで読んだということもあるかと思いますが、やはり今になって振り返っても、このラインナップはすごすぎます。ミステリ初心者がガツンとやられるのも無理はありません。
ネットで検索してみましたが、この本の目次はヒットしませんので、ここで収録作品を紹介しておきましょう。(星印はこの特集のための書き下ろしエッセイ)
嘘 | 渡辺温 | |
夜の街 | 城昌幸 | |
死後の恋 | 夢野久作 | |
押絵と旅する男 | 江戸川乱歩 | |
殺された天一坊 | 浜尾四郎 | |
絶景万国博覧会 | 小栗虫太郎 | |
悪魔の指 | 渡辺啓助 | |
かいやぐら物語 | 横溝正史 | |
五人の子供 | 角田喜久雄 | |
骨仏 | 久生十蘭 | |
天狗 | 大坪砂男 | |
原子病患者 | 高木彬光 | |
張込み | 松本清張 | |
落ちる | 多岐川恭 | |
作並 | 島田一男 | |
白い密室 | 鮎川哲也 | |
吉備津の釜 | 日影丈吉 | |
案山子 | 水上勉 | |
十五年は長すぎる | 笹沢佐保 | |
葬式紳士 | 結城昌治 | |
死火山の灰 | 黒岩重吾 | |
敵討ち | 山田風太郎 | |
犯罪講師 | 天藤真 | |
ナポレオンの遺髪 | 三好徹 | |
雪どけ | 戸川昌子 | |
やさしい密告者 | 生島治郎 | |
神獣の爪 | 陳舜臣 | |
山のふところに | 仁木悦子 | |
科学的管理法殺人事件 | 森村誠一 | |
盲目物語 | 土屋隆夫 | |
人形の家 | 都筑道夫 | |
特急夕月 | 夏樹静子 | |
雲雀はなぜ殺された | 日下圭介 | |
復讐は彼女に | 小泉喜美子 | |
紳士の園 | 泡坂妻夫 | |
菊の塵 | 連城三紀彦 | |
無邪気な女 | 阿刀田高 | |
遠い国から来た男 | 逢坂剛 | |
糸ノコとジグザグ | 島田荘司 | |
気まぐれな鏡 | 佐野洋 | |
三冊の文庫本 | 青柳友子 | ★ |
「ピエールとリュース」と「また逢う日まで」 | 赤川次郎 | ★ |
パンダ狂騒曲 | 井沢元彦 | ★ |
なりたくて | 内田康夫 | ★ |
ヘアリキッドの匂い | 大沢在昌 | ★ |
「義」のために | 笠井潔 | ★ |
まぼろしの土地 | 菊村到 | ★ |
色川さん、大好き | 黒川博行 | ★ |
鶴見事故 | 小池真理子 | ★ |
ダーティな美学 | 河野典生 | ★ |
英雄の最期 | 小杉健治 | ★ |
三浦和義の溜息 | 小林久三 | ★ |
わたしの高橋和己 | 佐々木譲 | ★ |
だれかのために死ねますか? | 志水辰夫 | ★ |
納豆の食べ方 | 高橋克彦 | ★ |
青いペンキを地球に塗って | 多島斗志之 | ★ |
二つの戦争体験 | 伴野朗 | ★ |
逆しま | 中井英夫 | ★ |
九時間の落差 | 楢山芙二夫 | ★ |
熱血って何 | 乃南アサ | ★ |
昭和三十八年の夏 | 原尞 | ★ |
新人類ではない | 東野圭吾 | ★ |
パリゴロ | 藤田宜永 | ★ |
ダニエル・リペス | 船戸与一 | ★ |
明るい東京 | 三浦浩 | ★ |
鉄道少年とサヨナラした日 | 本岡類 | ★ |
あの夕焼け/洞爺丸台風の襲った日 | 森真沙子 | ★ |
女の時代・幕開けの闇 | 山崎洋子 | ★ |
巨匠との出会い | 山村正夫 | ★ |
千年の長さ | 由良三郎 | ★ |
「名作」の基準 | 長谷部史親 | ★ |
「落ちる」「葬式紳士」「紳士の園」「無邪気な女」「糸ノコとジグザグ」……最も衝撃を受けたのはこの辺ですが、これらすべて、タイトルを知らなかったのはもちろん、多岐川恭、結城昌治、泡坂妻夫、阿刀田高、島田荘司という作家で初めて読んだ作品ということになりました。
エッセイの方も、笠井潔、原尞、中井英夫など、錚々たる顔ぶれがそれぞれに印象的な一文を寄せており、何も知らない中学生に、いきなりこんなものを読ませちゃいけない、というレベルの内容です。
その後、新潮文庫からはこの特集がもとになったと思われる「昭和ミステリー大全集」という全3冊のアンソロジーが刊行されましたが、ラインナップが変わってしまったうえ、エッセイも収録されておらず、がっかりしたものです。
ページは全て茶色くなってしまいましたが、死ぬまで処分できない一冊です。
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