乱歩に初めて出会う場所といえば、一般的には小学校の図書室でしょう。
日が暮れるのにも気づかず、少年探偵団シリーズを読みふけり、そのまま大人向けの乱歩にも手を伸ばし、さらには横溝正史にはまり、現代ミステリを乱読しはじめて後戻りできなくなる……というのは、筆者のことですが、たいていのミステリファンは同じ経緯をたどります。

しかし、不幸にして小学生時代に乱歩と出会わず、大人になってから初めて読んでみようという方もいます。
そういう方の気持ちは残念ながら全くわからないのですが、色々と種類が出ていてどれを読めばよいのか迷うこともあるかと思いますので、各シリーズの特色をご紹介します。

全部読むか? 名作だけ読むか?

まず最初に決めるべきことは、「全作品読むか? それとも名作だけ拾い読みするか?」ということです。
何も読んでいないうちにいきなりそんなことを決めなければいけないのか、と思われるかもしれませんが、全作品読むのであれば、全集で読むのが一番です。同じシリーズで読み進めなければ、作品の重複や漏れが発生することになります。
一方、名作だけ拾い読みするのであれば、名作選のようなものも出ていますので、短編はそれを抑えればOKで、長編は一冊ずつまとまっているものが多いので、好みのバージョンで読んでいけばいいでしょう。
急に決めかねるということであれば、図書館で何かしら短編集を借りてきて読んでみるのがよいでしょう。
筆者自身のことをいえば、学校の図書室にあった少年探偵団シリーズをそろそろ読破しようかという時期に、市立図書館にあった大人向けの江戸川乱歩全集のうち、短編集を一冊借りてきました。読んだことのないタイトルばかり並んでいたからです。
この一冊読み終えたときには、「こうしてはいられない」という気分になり、当時刊行が始まったばかりの春陽文庫「江戸川乱歩文庫」を片端から買っていきました。要するに、全作品読破をすぐさま決意していたというわけです。
私はそんな感じでしたが、とりあえず名作をいくつか読めればいいや、という方のため、今回の記事では定番の名作短編集をご紹介します。

新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』



(リンク先はいずれもAmazon)

やはり新潮文庫「江戸川乱歩傑作選」がド定番でしょう。初版は乱歩存命中の昭和35年です。最も手軽で信頼できる乱歩入門書として、永らく版を重ねています。また、昨年には55年ぶりの続巻『江戸川乱歩名作選』も刊行されました。こちらは「傑作選」の内容を念頭に、それらとともに読んでおくべき名作を日下三蔵氏が選んでいます。
収録作品は以下の通りで、全て間違いなく傑作であり、名作です。

『江戸川乱歩傑作選』
二銭銅貨
二癈人
D坂の殺人事件
心理試験
赤い部屋
屋根裏の散歩者
人間椅子
鏡地獄
芋虫

『江戸川乱歩名作選』
石榴
押絵と旅する男
陰獣
目羅博士
人でなしの恋
白昼夢
踊る一寸法師

創元推理文庫『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』

とはいえ、上記15篇で乱歩を知り尽くすことは不可能です。
特に乱歩はミステリ作家としては短編で評価されており、長編は世間的には有名ではあるものの「通俗長編」などと呼ばれ、短編よりはやや下ということになっています。
というわけで、もう少したくさん短編を読んでおきたい、という方は新潮文庫版はスルーして、創元推理文庫の『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』を選ぶのがおすすめです。
この本は、実は作家デビュー前の北村薫氏が作品の選定をしています。



収録作は以下の通りで、短編だけでなく中編の「陰獣」、長編の「化人幻戯」を含みます。
二銭銅貨
心理試験
屋根裏の散歩者
人間椅子
鏡地獄
パノラマ島奇談
陰獣
芋虫
押絵と旅する男
目羅博士
化人幻戯
堀越捜査一課長殿

ちょっと待てよ、新潮文庫2冊と選定が変わらないうえ、こっちのほうが収録数が少ないではないか、と思われるかもしれませんが、創元推理文庫では、これ以外にも短編集がいくつか出ており、「もっと読みたい」と思った場合は、同じ文庫で短編集を買っていけば重複は発生しません。先のことを考えると効率的です。

創元推理文庫『D坂の殺人事件』

「江戸川乱歩集」の次に買うなら「D坂の殺人事件」で、この2冊で乱歩の代表的な短編はおおむね読んだことにできるでしょう。



二廢人
D坂の殺人事件
赤い部屋
白昼夢
毒草
火星の運河
お勢登場

石榴
防空壕

というわけで、今回は乱歩は拾い読みで、という方におすすめの短編傑作集をご紹介しました。
次回は別の切り口で拾い読みしたい方向けの本をご紹介します。

関連記事:
江戸川乱歩入門 その1 名作短編集のおすすめ
江戸川乱歩入門 その2 明智小五郎事件簿
江戸川乱歩入門 その3 少年探偵団シリーズ
江戸川乱歩入門 その4 長編のおすすめ
江戸川乱歩入門 その5 創元推理文庫版
江戸川乱歩入門 その6 春陽文庫版(短編)
江戸川乱歩入門 その7 春陽文庫版(長編)
江戸川乱歩入門 その8 光文社文庫「江戸川乱歩全集」
江戸川乱歩入門 最終回 講談社「江戸川乱歩推理文庫」

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