備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

江戸川乱歩入門 その2 明智小五郎事件簿

前回は乱歩の短編を拾い読みするのにおすすめの本をご紹介しました。
今回は別の切り口をご紹介します。

乱歩が生み出した名探偵といえば明智小五郎ですが、「明智が登場する話だけ読みたい」という方向けのシリーズが現在刊行中です。



事件を年代順に並べ直した、ということが売りで、明智シリーズはこれで全て読めるはずです。
とはいえ、明智シリーズで作品の前後が問題になるのは、「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」くらいでは、と思います。と言うのは、この3作では明智夫人である文代さんが、「事件の関係者→婚約者→夫人」とステップアップしていくからです。また、戦後の「化人幻戯」では、小じわが増えたり、白髪が混じったりといった部分で時の流れを感じさせます。
しかし、ほかの作品は、全て完全に独立しているため、年代順に読む必要は全くありません。
むしろ年代順に読んでしまうと「黒蜥蜴の事件のときにはもう結婚してんじゃん」というような不都合な真実が見えてしまったりします。

そんなわけで、個人的にはいかがなものかと思っているこのシリーズなのですが、結構よく売れていますので、やはり「乱歩といえば明智小五郎」という印象は世間で強いようです。
あえてこのシリーズの長所を考えると、豪華な解説陣でしょうか。
今のところ出ている分では、法月綸太郎、大槻ケンヂ、麻耶雄嵩、皆さん、非常に面白い解説を書いています。
今後も有栖川有栖、綾辻行人、北村薫と続きます。

全く入門編的な読み方ではありませんが、解説のために買ってもいいかな、と思わせられます。

ということで、今回はおすすめしているのか、していないのか、いまいちよくわからない内容になってしまいましたが、こんなシリーズも出ていますよ、ということで。
次回に続きます。

関連記事:
江戸川乱歩入門 その1 名作短編集のおすすめ
江戸川乱歩入門 その3 少年探偵団シリーズ
江戸川乱歩入門 その4 長編のおすすめ
江戸川乱歩入門 その5 創元推理文庫版
江戸川乱歩入門 その6 春陽文庫版(短編)
江戸川乱歩入門 その7 春陽文庫版(長編)
江戸川乱歩入門 その8 光文社文庫「江戸川乱歩全集」
江戸川乱歩入門 最終回 講談社「江戸川乱歩推理文庫」

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江戸川乱歩入門 その1 名作短編集のおすすめ

乱歩に初めて出会う場所といえば、一般的には小学校の図書室でしょう。
日が暮れるのにも気づかず、少年探偵団シリーズを読みふけり、そのまま大人向けの乱歩にも手を伸ばし、さらには横溝正史にはまり、現代ミステリを乱読しはじめて後戻りできなくなる……というのは、筆者のことですが、たいていのミステリファンは同じ経緯をたどります。

しかし、不幸にして小学生時代に乱歩と出会わず、大人になってから初めて読んでみようという方もいます。
そういう方の気持ちは残念ながら全くわからないのですが、色々と種類が出ていてどれを読めばよいのか迷うこともあるかと思いますので、各シリーズの特色をご紹介します。

全部読むか? 名作だけ読むか?

まず最初に決めるべきことは、「全作品読むか? それとも名作だけ拾い読みするか?」ということです。
何も読んでいないうちにいきなりそんなことを決めなければいけないのか、と思われるかもしれませんが、全作品読むのであれば、全集で読むのが一番です。同じシリーズで読み進めなければ、作品の重複や漏れが発生することになります。
一方、名作だけ拾い読みするのであれば、名作選のようなものも出ていますので、短編はそれを抑えればOKで、長編は一冊ずつまとまっているものが多いので、好みのバージョンで読んでいけばいいでしょう。
急に決めかねるということであれば、図書館で何かしら短編集を借りてきて読んでみるのがよいでしょう。
筆者自身のことをいえば、学校の図書室にあった少年探偵団シリーズをそろそろ読破しようかという時期に、市立図書館にあった大人向けの江戸川乱歩全集のうち、短編集を一冊借りてきました。読んだことのないタイトルばかり並んでいたからです。
この一冊読み終えたときには、「こうしてはいられない」という気分になり、当時刊行が始まったばかりの春陽文庫「江戸川乱歩文庫」を片端から買っていきました。要するに、全作品読破をすぐさま決意していたというわけです。
私はそんな感じでしたが、とりあえず名作をいくつか読めればいいや、という方のため、今回の記事では定番の名作短編集をご紹介します。

新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』



(リンク先はいずれもAmazon)

やはり新潮文庫「江戸川乱歩傑作選」がド定番でしょう。初版は乱歩存命中の昭和35年です。最も手軽で信頼できる乱歩入門書として、永らく版を重ねています。また、昨年には55年ぶりの続巻『江戸川乱歩名作選』も刊行されました。こちらは「傑作選」の内容を念頭に、それらとともに読んでおくべき名作を日下三蔵氏が選んでいます。
収録作品は以下の通りで、全て間違いなく傑作であり、名作です。

『江戸川乱歩傑作選』
二銭銅貨
二癈人
D坂の殺人事件
心理試験
赤い部屋
屋根裏の散歩者
人間椅子
鏡地獄
芋虫

『江戸川乱歩名作選』
石榴
押絵と旅する男
陰獣
目羅博士
人でなしの恋
白昼夢
踊る一寸法師

創元推理文庫『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』

とはいえ、上記15篇で乱歩を知り尽くすことは不可能です。
特に乱歩はミステリ作家としては短編で評価されており、長編は世間的には有名ではあるものの「通俗長編」などと呼ばれ、短編よりはやや下ということになっています。
というわけで、もう少したくさん短編を読んでおきたい、という方は新潮文庫版はスルーして、創元推理文庫の『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』を選ぶのがおすすめです。
この本は、実は作家デビュー前の北村薫氏が作品の選定をしています。



収録作は以下の通りで、短編だけでなく中編の「陰獣」、長編の「化人幻戯」を含みます。
二銭銅貨
心理試験
屋根裏の散歩者
人間椅子
鏡地獄
パノラマ島奇談
陰獣
芋虫
押絵と旅する男
目羅博士
化人幻戯
堀越捜査一課長殿

ちょっと待てよ、新潮文庫2冊と選定が変わらないうえ、こっちのほうが収録数が少ないではないか、と思われるかもしれませんが、創元推理文庫では、これ以外にも短編集がいくつか出ており、「もっと読みたい」と思った場合は、同じ文庫で短編集を買っていけば重複は発生しません。先のことを考えると効率的です。

創元推理文庫『D坂の殺人事件』

「江戸川乱歩集」の次に買うなら「D坂の殺人事件」で、この2冊で乱歩の代表的な短編はおおむね読んだことにできるでしょう。



二廢人
D坂の殺人事件
赤い部屋
白昼夢
毒草
火星の運河
お勢登場

石榴
防空壕

というわけで、今回は乱歩は拾い読みで、という方におすすめの短編傑作集をご紹介しました。
次回は別の切り口で拾い読みしたい方向けの本をご紹介します。

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江戸川乱歩入門 その4 長編のおすすめ
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江戸川乱歩入門 その6 春陽文庫版(短編)
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エラリー・クイーンのジュブナイルミステリ

かなり昔、ハヤカワ文庫には「Jr」という分類があり、エラリー・クイーンのジュブナイルが収録されていました。
Wikipediaによれば、クイーンのジュブナイルは以下のようなラインナップとのことです。

エラリー・クイーン・ジュニア名義の作品
  • 1941年 黒い犬の秘密 The Black Dog Mystery
  • 1942年 金色の鷲の秘密 The Golden Eagle Mystery
  • 1943年 緑色の亀の秘密 The Green Turtle Mystery
  • 1946年 赤いリスの秘密 The Red Chipmunk Mystery
  • 1948年 茶色い狐の秘密 The Brown Fox Mystery
  • 1950年 白い象の秘密 The White Elephant Mystery
  • 1952年 黄色い猫の秘密 The Yellow Cat Mystery
  • 1954年 青いにしんの秘密 The Blue Herring Mystery
  • 1966年 紫の鳥の秘密 The Purple Bird Mystery (邦訳は早川書房 HMMに連載のみ。単行本・文庫なし。)
    (上記ジュナの冒険シリーズの他に、エラリー・クイーン・ジュニア名義の児童向けミステリ小説が2作あるが日本語未訳である)

  • 現在は、いずれもかなり入手困難な状況で、筆者も古本屋では時々見かけますが、一冊も読んだことはありません。
    よくよく見ると「クイーン・ジュニア」とあることからわかる通り、クイーン作、と謳っているはいえ、実際にはこれは別の作家による代作だということで、今後再刊されることはなかろうと思っていました。

    ところが、今年の夏に角川つばさ文庫という、児童向け文庫から「見習い探偵ジュナの冒険」という本が出ました。
    ハヤカワ文庫版とは全くタイトルが異なりますが、「緑色の亀の秘密(The Green Turtle Mystery)」の新訳です。



    さて、何の説明もなく、しかもシリーズの3作目から刊行されたため、「果たしてシリーズを続けるのか?これ一冊で終わりなのか?」と全国のクイーンファンが注目していたところ、年明けに2冊めが出ました。
    見習い探偵ジュナの冒険 黒い犬と逃げた銀行強盗 (角川つばさ文庫)
    エラリー・クイーン 作
    中村佐千江 訳
    (リンク先はAmazon)


    タイトルからわかる通り、一作目の「黒い犬の秘密(The Black Dog Mystery)」です。

    こんな表紙で出されるとコレクションしづらい、という意見もあろうかと思いますが、このまま順調にいって全てが訳されると本邦初の単行本がこんな表紙で出てしまう可能性もあり、目が離せない状況です。
    ちなみに、少なくとも一冊目をパラパラと見た限りでは、解説はついていないため、代作というような作品に関する情報は全くありません。また、完全訳なのかどうかもよくわかりません。さらに、今後もシリーズが続くのかどうかもわかりません。
    まあしかし、こういうちょっとしたうさん臭さが、かつての偕成社ミステリがそうであったように、児童向けミステリの魅力でもあるでしょう。

    原作は洋書で入手可能です。


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    「三国志」を読むなら、おすすめの文庫はどれ?

    小説・漫画・映画・ゲームなど、日本でも様々な形で親しまれている三国志。
    しかし、「三国志」というタイトルの本は書店にあふれており、原作に挑戦してみようと思ったとき、どれを手にとってよいのか迷うこともあるかと思います。
    「三国志」にはどのような本があるか、代表的なものをご紹介します。

    【正史三国志】

    まず、そもそも「三国志」とは、紀元3世紀末頃に成立したとされる歴史書で、紀元2世紀末から3世紀初頭に掛けての「三国時代」と呼ばれた時代を扱っています。(ちなみに卑弥呼に言及していることで有名な「魏志倭人伝」はこの「三国志」の一部です)
    古い歴史書なので、ぶっちゃけた言い方をすれば、一般の読者が手にとるようなものではないのですが、三国志ファンが多いためか、ちくま学芸文庫から全訳が刊行されています。


    【三国志演義】

    さて、日本で「三国志」というと、一般的には中国の明代(14世紀から17世紀頃。日本の室町時代あたり)に成立した「三国志演義」のことを指します。正史である「三国志」は前述の通り一般読者を対象とはしていないため、内容は事実の羅列であり、物語の形になっていません。この歴史書が扱った時代の史実に伝説や創作を交えたものが「三国志演義」です。作者ははっきりしておらず、羅貫中とされることが多いのですが、定説ではありません。
    現在は、文庫では岩波文庫と講談社学術文庫、および角川ソフィア文庫から翻訳が出ています。
    いずれの訳で読むべきか?
    岩波文庫版が定番となっており、名訳とされていますが、かなり古い訳で、読みづらい部分もあります。
    角川ソフィア文庫版は、80年代にNHKでテレビ放映された「人形劇 三国志」の原作ともなった立間祥介の訳です。岩波文庫版よりは遥かに読みやすい文章です。
    講談社学術文庫版は、訳が新しく、さらさらと読めます。加えて、巻末に各巻の読みどころがまとめられているため、長い物語のなかで迷子になっても、すぐにあらすじを確認できるのが便利です。
    岩波文庫版8冊に対して、角川ソフィア文庫版・講談社学術文庫版は4冊ですが、角川・講談社は一冊ずつが分厚いので、いずれも同じ程度のページ数です。
    岩波文庫は江戸時代に日本で初めて刊行された「三国志演義」の翻訳である「繪本通俗三國志」の挿絵を収録しています。対して講談社学術文庫版はおおよそ同じ時期の中国の刊本から挿絵を取っており、このへんでも好みが分かれそうです。角川ソフィア文庫版には挿絵はありません。
    価格は岩波文庫版・角川ソフィア文庫版が6300円程度と同じような価格ですが、講談社学術文庫版は揃えると8000円近くになり、少々高めです。
    個人的には、「読みやすい」「解説がある」「挿絵がある」と三拍子そろった講談社学術文庫版がおすすめですが、安いほうがよいという方は、角川ソフィア文庫版でも全く間違いはありません。

    【日本人の書いた三国志】

    「三国志演義」あるいは「正史三国志」をもとに、日本人が書いた歴史小説もいくつかあります。
    最も有名なのは吉川英治の「三国志」でしょう。ちょうど日中戦争の時期に執筆されたもので、現代の日本では「三国志演義」の翻訳を読んだ人より、吉川英治を読んだ人のほうが圧倒的に多いと思われます。
    これは「三国志演義」をベースに、吉川英治独自の創作も加え、日本人に読みやすいよう書き改めたものです。
    あちこちの出版社から文庫が出ていますが、講談社から出ている吉川英治歴史時代文庫版が最もスタンダードです。(全8巻)



    近年では、北方謙三の「三国志」がよく読まれています。こちらは「正史三国志」をベースにしているということですが、北方謙三流の男らしい物語に仕立てられています。

    文庫版三国志完結記念セット(全14巻)
    北方 謙三
    角川春樹事務所
    2002-12-01


    関連記事:
    待望の新訳刊行! 井波律子『水滸伝』(講談社学術文庫)

    山田風太郎の最高傑作5選!?(エッセイ・ノンフィクション編)


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    ミステリ作家・時代小説作家として評価の高い山田風太郎ですが、エッセイ・ノンフィクションでも傑作を残しています。今回は、小説以外の代表作をご紹介します。

    『戦中派不戦日記』(講談社文庫など)/『戦中派虫けら日記』(ちくま文庫など)

    新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)
    戦中派虫けら日記―滅失への青春 (ちくま文庫)
    (リンク先はいずれもAmazon)
    「戦中派不戦日記」は山田風太郎が医学生だった昭和20年の日記を一年分全文収録したもので、昭和46年に発表されました。また、それに続いて昭和48年に発表された「戦中派虫けら日記」は昭和17年から昭和19年にかけて、二十歳前後の時期の日記を収録しています。
    さまざまな切り口で読むことができる書であり、戦中の庶民の生活史、精神史として実に貴重な記録です。

    筆者が興味を持って読んでいる「戦中派」の人物として、ほかに吉村昭と笠原和夫がいます(いずれも山田風太郎の5歳年下で、敗戦時に18歳)。この人たちの作品やエッセイなどを読んでいると、戦後日本に対して強烈な違和感を抱きながら生きていて、それを作品にも反映しているということが共通しています。
    徹底した軍国主義教育を受け、神州不滅を信じていたものが、一夜にして価値観が逆転し、昨日まで徹底抗戦を訴えていた人びとが、今度は平和主義を謳いはじめる。
    山田風太郎は「戦中派不戦日記」のあとがきで「いまの自分を『世をしのぶ仮の姿』のように思うことがしばしばある」と書いています。
    昭和史に興味を持つ者としては、必読の2冊といえます。
    この2冊の日記が高い評価を得ていたことから、晩年になってから、過去の日記が次々と単行本化されました。さすがに全部は読んでいられないので、筆者は途中で買うのをやめてしまいましたが、このあたりも、ミステリ文壇史的には貴重な史料かもしれません。

    『同日同刻』(ちくま文庫)

    同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)
    (リンク先はいずれもAmazon)
    戦前・戦後とでそのような価値観の大逆転を生むに至った太平洋戦争に対して、これをリアルタイムで体験した人びとはどのように認識していたのか。昭和16年12月8日の日米開戦、昭和20年8月15日の敗戦とに焦点をあて、「当時の敵味方の指導者、将軍、兵、民衆の姿を、真実ないし、真実と思われる記録だけをもって再現して見たい」ということで書かれたノンフィクションです。
    戦後になって、作られた言葉、飾られた言葉は要らない。戦争中に何が起きていたのか、その真実だけを見たい、という作家の執念を感じます。
    昭和54年に発表されました。

    『人間臨終図巻』(徳間文庫・角川文庫)

    人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫)
    人間臨終図巻2<新装版> (徳間文庫)人間臨終図巻3<新装版> (徳間文庫)
    人間臨終図巻4<新装版> (徳間文庫)
    (リンク先はいずれもAmazon)
    実は筆者が初めて読んだ山田風太郎作品は本書です。
    もちろん、ミステリ好きとして、山田風太郎はいずれ何か読んでみようと思っていたのですが、本書をパラパラ眺めると乱歩の臨終についても記述があり、なんとなく買ってきた記憶があります。
    一読、あまりの面白さに仰天しました。内容は、古今東西の偉人・著名人を死亡年齢順に並べ、どのような臨終であったかをひたすら列挙しただけのもの。
    人の死に様を読んで「面白い」とは甚だ不謹慎ですが、しかし、山田風太郎は不謹慎にも、あまりにも面白すぎる書き方をしています。著者の筆にかかれば、どんな偉人であっても、生物学的な死は容赦なく訪れ、あっけなく世を去っていきます。死ぬのが怖くなくなる、ということはありませんが、死に対して奇妙な親しみを感じてしまうようになります。
    山田風太郎の代表作として、現在も絶大な人気を誇る作品です。

    『風眼抄』(角川文庫・中公文庫)

    風眼抄 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)
    (リンク先はいずれもAmazon)
    さて、ここまで割りと重めの作品を紹介してきましたが、「風眼抄」はうって変わって、山田風太郎の小説家としてのイメージそのままのエッセイ集です。どうでもよいバカ話もあれば、インテリの側面も垣間見せる、魅力あふれる内容で、ファンにはたまらないでしょう。
    個人的に最も気に入っているのは大下宇陀児の追悼記事として書かれた「大下先生」。文壇でも愛されている様子がわかります。
    また、「漱石と放心家組合」の章は、誰も気づいていなかった(と言われる)「吾輩は猫である」の謎に触れた文章として、割りと有名です。

    『あと千回の晩飯』(朝日文庫・角川文庫)


    晩年に連載されたエッセイです。この頃の山田風太郎は、もう死ぬ、もう死ぬ、と言いながらも、まだまだ執筆を続け、実際にはそれから5年ほど生き延びましたが、老いをテーマにした内容は「人間臨終図巻」と同じく、不謹慎な面白さに満ちています。
    タイトルは比喩的なものかと思いきや、実際に食べ物の話ばかり書いてあり、そのあたりも興味深い内容です。

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    筆者:squibbon
    幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
    好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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