筋肉少女帯の曲を読み解くには、音楽の知識よりも読書の知識のほうが要求されます。
これから何回かにわたって、筆者なりに読み取った元ネタや歌詞の背景をご紹介していきます。
目指すのは詩の解釈ではなく、元ネタ探しです。大槻ケンヂの詩は、いったいどんな深い意味が込められているのかと思えば、単にお気に入りのネタを引用しているだけ、ということがよくあります。特に若いファンの方は、そのあたりについてゆけず、おかしな解釈をしているのを見かけるため、おせっかいながら、筆者が知っている範囲でご紹介しておこうと思った次第です。
大槻ケンヂ本人が、元ネタについて発言している部分もあれば、単に筆者が推測しているだけの部分もありますので、オーケン本人の発言がある場合はなるべく出典をメモしておこうと思います。
活動一時休止前の最後のアルバムからさかのぼっていきます。
そんなわけで、1回目は「最後の聖戦」から。
ジャケットを描いているのは漫画家の小林源文です。この人はミリタリー漫画の専門で、あまり普通のコミック誌では見かけません。アルバム「最後の聖戦」のジャケットは猫やウサギが戦っているイラストですが、これは「Cat Shit One」という漫画から。「Cat Shit One」はベトナム戦争を舞台にした本格的な戦争漫画ですが、登場するアメリカ人はウサギ、ベトナム人は猫として描かれています。イラストはこのアルバム用の描き下ろしのようです。
1.カーネーション・リインカネーション
輪廻転生は大槻ケンヂの作品に頻出するテーマですが、この曲もその一つ。【猫をカン袋にさ つめ込んで】
服部良一が作詞した童謡「山寺の和尚さん」の歌詞から
山寺の和尚さんが
毬はけりたし 毬はなし
猫をかん袋に 押し込んで
ポンとけりゃ ニャンとなく
【猫とシュークリームを詰め替えて】
元ネタがあるのかわかりませんが、特撮の「ケテルピー」という曲に「猫かと思ってよく見りゃパン」という歌詞があり、同じような発想かな、と思います。
【ワトソン君】
言うまでもなく、シャーロック・ホームズの助手。このアルバムは全体的にホームズがテーマとなっており、各曲にホームズネタが散りばめられています。
2.トキハナツ
鬱状態のときの心境を歌ったものだそうです。身中に巣食う憂鬱を、飼い犬にたとえています。【バスカービル家の犬】
ホームズの第3長編「バスカヴィル家の犬」から。闇夜に光り、人を襲う不気味な魔犬。「人生はねバスカービル家の犬だ」というまとめ方はちょっと意味がわかりませんが……
3.境目のない世界
【ネジ式】つげ義春の漫画「ねじ式」が念頭にあると思われます。
【ルイス・キャロルとアリス】
言うまでもなく「不思議の国のアリス」のこと。
【ライナスと毛布】
スヌーピーで有名なアメリカのコミック「ピーナッツ」に出てくる少年ライナスがいつも抱いている毛布のこと。「ライナスの毛布」は心理学用語となっており、持っていると安心するお気に入りのもののことを言います。
【ホームズとパイプ】
ホームズネタ
4.お散歩ネコちゃん若き二人の恋結ぶ
作詞は「茉莉花」となっていますが、オーケンの詩集『花火』のあとがきによれば「テロリストの娘さん」とのことです。6.友と学校
『花火』によれば、「実際にこんな状況があったのです」とのこと。7.221B戦記
タイトルの「221B」は、ホームズのロンドンでの住所「ベイカー街221-B」から。大槻ケンヂ以外に3人のボーカルが登場します。
水木一郎は言うまでもなく、アニメソングの帝王。神谷明は「北斗の拳」ケンシロウ役などで有名な声優。宮村優子は「新世紀エヴァンゲリオン」のアスカ役などで当時人気絶頂だった声優。
【フランダースの犬】
イギリスの作家ウィーダの児童向け小説を原作とした1975年のアニメ。「世界名作劇場」の枠では最高視聴率を記録したヒット作。悲劇的なラストシーンで知られています。
【こんないいお天気の日に】
中原中也の詩「別離」の一節「こんなに良いお天気の日に お別れしてゆくのかと思ふとほんとに辛い」からの引用思われます。この一節はデビューアルバム「仏陀L」の一曲「サンフランシスコ」でも引用されています。
8.タチムカウ
【人間の証明】歌詞とは内容的にあまり関連がありませんが、森村誠一のベストセラー「人間の証明」と、それを映画化して大ヒットした角川映画が元ネタ。
【リンゴ売り窓の外】
井上陽水の曲「氷の世界」冒頭の一節「窓の外にはリンゴ売り」から。「氷の世界」は「筋少の大水銀」で筋少もカバーしています。
【なぁ兄弟?】
次曲「青ヒゲの兄弟の店」へつながる。
【一人一殺】
大槻ケンヂが意識したかわかりませんが、昭和初期に起こったテロリスト集団「血盟団」のスローガン。
10.山と渓谷
ここでも「ドーナツ」登場。6曲目「友と学校」に出てくるドーナツからの連想かと思います。11.ペテン
『花火』によれば、この曲冒頭の「もう十分に君は苦しんだ 今から楽しめよ開放の鐘だ」は、バンド解散を決意しての歌詞とのこと。
【ペテン師】
「仏陀L」にも「ペテン師、新月の夜に死す!」という曲があります。乱歩の「ぺてん師と空気男」からの連想と思われます。
【ライヘンバッハの滝】
スイスにある滝。ホームズは短編「最後の事件」の中で、宿敵モリアーティ教授と対決し、ここの滝壺へ落下して死にます。コナン・ドイルはこれをもってホームズの物語を終了にするつもりでしたが、読者からの抗議が激しく、「空き家の冒険」で復活させます。実は「バリツ」という武術を使って教授に勝ち、生き延びていた、という話。
【死んじゃったと思ってた?】
上記、ホームズの復活を茶化しています。
【胎児よお前はなぜ踊る ママの夢わかって怖いのか?】
夢野久作『ドグラ・マグラ』の冒頭歌「胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか」から。
【ワルサーP38】
ルパン三世が使用したことで有名なドイツの拳銃。ここでは「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」に登場することから連想した可能性もあります。
最後の聖戦ツアー
なお、このアルバムの発表後に筋肉少女帯はツアーを行い、その模様はビデオで発売されました。ツアータイトルは「最後の聖戦ツアー その後は養蜂と読書の日々」で、ビデオタイトルは「science fiction double feature 筋肉少女帯 Live & PV-clips」です。
【養蜂】
シャーロック・ホームズが引退後に養蜂家となったことから。これは「最後の挨拶」に出てくるエピソードです。今にして思えば、このツアータイトルから活動休止を予想すべきでした。(筆者は当時、全く何も気になりませんでした)
【science fiction double feature】
映画「ロッキー・ホラー・ショー」の冒頭の楽曲のタイトルから。「SF映画2本立て」という意味。
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