ウワサを聞いて、一度読んでみたかったみすず書房「日本の精神鑑定 増補新版」。
昭和から平成初期にかけて発生した歴史的事件についての精神鑑定を集めた本です。
収録された事件は以下の通り。(リンク先は該当事件のWikipedia記事です)
- 大本教事件
- 阿部定事件(言わずと知れた局部切り取り事件)
- 電気局長刺殺事件
- 若妻刺殺事件
- 聾啞者の大量殺人事件(こちらの記事で紹介した「冤罪と人類」で扱われている事件)
- 大川周明の精神鑑定(東京裁判の最中、前に座る東条英機のハゲ頭をぴしゃぴしゃと叩いたため精神鑑定)
- 俳優仁左衛門殺し事件(片岡仁左衛門一家殺人事件)
- 小平事件(終戦前後の時期に発生した連続強姦殺人事件)
- 帝銀事件(言わずと知れた大量毒殺事件)
- 金閣放火事件(言わずと知れた放火事件)
- メッカ殺人事件
- 「間接自殺」としての強盗未遂事件
- 杉並の「通り魔」事件(神戸連続児童殺傷事件の30年前に発生していた同様の少年事件)
- ライシャワー大使刺傷事件(「私の体の中に日本人の血が流れることになりました」という一件)
- 愛妻焼殺事件
- 横須賀線爆破事件
- 「連続射殺魔」少年事件(言わずと知れた永山則夫事件)
- 妻子五人殺人事件
- ピアノ殺人事件
- 日航機ハイジャック事件
- 新宿西口バス放火事件
- 深川の通り魔事件
- 悪魔祓いバラバラ殺人事件
- 47、XYY男性による反復殺人事件
- 女子中学生殺害事件
ほとんどの事件が、実際の裁判に提出された精神鑑定書そのものを収録しています。
これが、素人が読んでも面白い。
基本的には論文のような硬く正確な記述ですが、場合によってはなかなか文学的に仕上げられていたりもします。
本書自体は出版社がみすず書房であることからもわかる通り、刑法、精神医学、心理学などの研究者向けにまとめられた専門書なのですが、私のような単なる犯罪ノンフィクション好きが手を出してもかなり興味深い一冊となっています。
なかでも、やはり一読の価値があるのは阿部定、金閣寺、永山則夫あたりでしょうか。
いずれも供述が一問一答で並んでいたり、詳細な犯罪事実が綴られていたりで、生々しい内容です。
阿部定は、犯罪事実は概ね映画などで描かれているとおりですが、すべての行動には一応、説明がつく事情があり、意外とマトモな精神状態だったと知りました。
一方の金閣寺は、「金閣寺の美しさに嫉妬した」といった文学的な解釈は本人の供述で明確に「いいえ」と否定され、随分とだらしない即物的な動機が語られています。
というわけで、事件関係者に対しては不謹慎ではありますが、読み物として抜群の面白さです。
しかし、これが高い!
もともと昭和48年に刊行された「日本の精神鑑定」という本があり、平成11年に刊行された「現代の精神鑑定」と合本にして今回の「日本の精神鑑定 増補新版」となっています。
専門書2冊分のボリュームなので1200ページ以上と非常に分厚く、価格は税込み19800円也。
実は私は自分では買わず、図書館で借りました。
ところが、住んでいる市には図書館には10館くらいあるにも関わらず、どこにもこれが所蔵されていなかったんですね。
そこで、購入してもらうべくリクエスト。3ヶ月くらい待ってようやく用意できたと連絡をもらえました。
こんなにも予算を使わせて申し訳ないという気分と、いやいや人口100万人を超える市の図書館がこれを一冊も蔵書してないってのはあかんやろ、と逆に良い事をしたような気分とがせめぎ合ってますが、せっかく買ってもらったからにはちゃんと読もうと、10日間ほどかけて頑張って読みました。