備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

Jホラー

月刊「シナリオ」2018年3月号「霊的ボリシェヴィキ」誌上鑑賞

201802シナリオ177

2月10日から高橋洋監督・脚本の映画「霊的ボリシェヴィキ」の上映が始まります。
今月5日に発売された月刊誌「シナリオ」にこの映画のシナリオが掲載されたため、一足早く「誌上鑑賞」してみました。ネタバレ無しのレポートです。

そもそも「霊的ボリシェヴィキ」とはなんぞや?
あまりに異様なこの言葉、元は40年近く前にオカルト研究家の武田崇元氏(現在は八幡書店社長)が提唱した概念ということです。高橋洋はこの言葉に興奮し、タイトルに冠した映画を製作するのが悲願だったとのこと。
詳しくは学研の雑誌「月刊ムー」公式サイトに掲載された以下の対談を読んでいただきたいのですが、正直なところ筆者にはさっぱり理解できません。

「20年の時を超えて甦る概念『霊的ボリシェヴィキ』とは? 高橋洋×武田崇元 対談」
http://gakkenmu.jp/column/14585/

ということなので、また「発狂する唇」「ソドムの市」「狂気の海」路線の難解なものを覚悟していたのですが、シナリオを読んでみると意外や意外、映画そのものはとてもシンプルな怪談でした。「リング」「女優霊」と同じくらい、気軽に見てよさそうです。
物語は「あの世に触れたことがある」という共通点を持った人々が集まり、百物語形式で一人ずつ自身の経験した怪異を語る、という心霊実験の様子を描きます。
当初の構想では、この怪談一つ一つを再現映像のようにインサートしていくつもりだったそうですが、予算の問題など紆余曲折を経て、全てを役者の「語り」に委ねることになったそうです。物語も「実験」が描かれていますが、映画の仕組みそのものも実験的であります。この辺が成功しているかどうかは本編を鑑賞しないとなんとも。
とはいえ、それぞれの怪談はとてもよくできていて、怪談好き、ホラー好きであればゾッとできる、レベルの高いもの、あるいは高橋洋の考える「恐怖」をよく反映したものが並びます。
高橋洋ファンとして「おや」と思ったのは、ある怪談の中で、母親が自宅の二階の窓から怖ろしい表情で少女を見下ろしているというシーン。以前に書いた記事の中で「高橋洋の実家の二階が怖い」という話を書きましたが、またもや二階が!と思っていたところ、上記リンク先の対談で、やはり実家の二階が念頭にあったという話をしていますね。

この映画、筆者の地元で見られるのはまだだいぶ先なのですが、楽しみに待ちたいと思っています。
パンフレットも充実しているらしいので、ぜひ入手したいものだと思っています。

ところで、月刊「シナリオ」の今号は、他にも「怪猫トルコ風呂」のシナリオも掲載されていました。これはとっても嬉しいオマケ!(オマケじゃありませんが)
この映画は1975年に東映東京撮影所が製作した映画ですが、タイトルの「トルコ風呂」が引っかかって、半ば封印作品のようになっているものです。名画座などではたまにかかるようですが、テレビ放映・ソフト化はされていません。筆者も未見だったのでこれは嬉しい!
将来的にも価値の出る号でしょう。

シナリオ 2018年 03 月号 [雑誌]
日本シナリオ作家協会
2018-02-05


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「地獄は実在する 高橋洋恐怖劇傑作選」2月9日発売予定!

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2月に要注目の新刊が刊行予定です。Amazonでの予約受付がスタートしていました。



以前に下記の記事でも紹介したJホラーブームの立役者、脚本家・高橋洋のシナリオ集です。(追記:当初2月5日と告知されましたが、9日に延びたようです)

90~00年代Jホラー懐古 第6回 Jホラーブームの申し子たち

この記事は特に高橋洋について書き始めたわけではなかったにもかかわらず、気がついたら高橋洋の話ばかり書いてしまっていたわけですが、まあそのくらい、ファンにとっては熱狂的になってしまう脚本家なわけです。
高橋洋はこれまで、ホラーを中心にかなりの数の作品を発表していますが、著書は多くはなく、筆者が知る限りでは以下の4冊のみです。



映画の魔
青土社



はじめの2冊は、タイトル通り、大ヒット作「リング」シリーズのシナリオです。
以前の記事にも書いたとおり、映画「リング」を見て受けた衝撃は、個人的にはとても凄まじいものでしたが、しかし、その時点では高橋洋という脚本家がいったいどんな人なのか、「女優霊の脚本と同じ人」ということ以外、何も知りませんでした。
「リング2」は「らせん」とはパラレルワールドとなる「リング」の続編、ということで当然、劇場へ観に行ったのですが、前作とはまるで違うチンプンカンプンの世界で、全く煙に巻かれた気分でしたが、今にして思えば、これこそが高橋洋の真骨頂だったわけです。
(なお、この文庫の「リング」に付されたあとがきのタイトルが、今回のシナリオ集と同じく「地獄は実在する」となっています。「リング」の映画本編で使われなかったフレーズから取られたものということです)

次の「映画の魔」はエッセイ集ですが、ここへ来てようやく高橋洋の「思想」が見えてきました。「わけわかんなあ」と思っていた高橋洋作品ですが、これを読むと「えー!!そんなこと考えていたの!?」と、更に衝撃度が増す仕組みになっています。
さらに「映画の生体解剖」は、高橋洋に輪をかけてとんでもない映画の見方をしている稲生平太郎(作家であると同時に、本名の横山茂雄名義で英文学、幻想小説の研究もしている方)との対談ですが、これはもう筆者などは全然知らない映画の話ばかりしており、まるで話にはついていけません。「どう考えてもそれはないだろ」と思うような変態的な解釈ばかりが飛び交っている様を「芸」として楽しむ本かと思います。

というわけで、映画と同様、かなり狂った本ばかり出している高橋洋ですが、シナリオ作品がまとまった形で本になったことはなく、待望の刊行です。

収録作は以下のラインナップということです。
・女優霊 1996年
・インフェルノ蹂躙 1997年
・蛇の道 1998年
・ソドムの市 2004年
・狂気の海 2007年
・恐怖 2010年

「女優霊」「ソドムの市」「狂気の海」については、以前の記事で熱く語りましたので、その他の作品についても少し紹介しましょう。

「インフェルノ蹂躙」は、筆者は未見です。日活からオリジナルビデオとして発売された「エロティックサスペンス」で、レンタルショップで借りるしか見る方法がない作品ですが、DVDにはなっていないため、鑑賞はかなり難しい状況です。
「蛇の道」は盟友・黒沢清監督作です。当時、黒沢清とのコンビで劇場公開作なのかオリジナルビデオなのかよくわからないプログラムピクチャーをいくつか製作していますが、その中でも最悪の後味が伝説的に語られている一作です。
「恐怖」もまた問題作ですね。「感染」「予言」「輪廻」「叫」と続く一瀬隆重プロデュース「Jホラーシアター」の一作として公開されたため、大作感のあるホラーを期待して観に行った方も多いかと思いますが、内容は「ソドムの市」「狂気の海」に続く全くの高橋洋作品。期待とのギャップに物議を醸しましたが、高橋洋ファンには熱狂的に迎えられました。

というわけで、今やあまりレンタルショップでも見かけない、レアな作品が並んでいます。
高橋洋は自身で監督もしますが、やはり軸足は「脚本家」にあり、氏の思想を知るには映像を見るよりもまず、脚本を読み、セリフとストーリーを堪能することが重要かと思います。
万人には決して勧められない内容かと思いますが、高橋洋ファンはこの機会を逃さないほうが良いでしょう。
出版元の幻戯書房(げんきしょぼう)は、角川源義(角川書店創業者)の娘である辺見じゅん(角川春樹・角川歴彦の姉)が創業した出版社で、文学書がメインですが、映画の本もたくさん発行しています。どこの書店でも取り扱っていますが、新刊が入荷しない書店も多いと思いますので、大型書店かネット書店で購入する、あるいは事前に予約しておくことをおすすめします。

また、2月にはこれまた内容が全く見当もつかない、しかし怪作であることだけは間違いのない「霊的ボルシェヴィキ」が公開されますが、月刊誌「シナリオ」にシナリオが掲載されるそうです。

シナリオ 2018年 03 月号 [雑誌]
日本シナリオ作家協会
2018-02-05


以下、シナリオ集に収録予定作品のDVD、Amazon販売ページ。
女優霊 [DVD]
バンダイビジュアル

蛇の道 [DVD]
東芝デジタルフロンティア

<ホラー番長シリーズ> ソドムの市 [DVD]
アット エンタテインメント

狂気の海 [DVD]
ALPHA ENTERPRISE Co.,Ltd(IND/DAS)(D)

恐怖 [DVD]
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


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今更ながら映画「クリーピー 偽りの隣人」(黒沢清監督)を擁護する
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90~00年代Jホラー懐古 第6回 Jホラーブームの申し子たち
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今更ながら映画「クリーピー 偽りの隣人」(黒沢清監督)を擁護する



ここ数年、子どもの相手に時間を取られてなかなか映画を見られず、周回遅れで、なんとか話題作のみ追いかけている状態なのですが、2016年公開の映画「クリーピー 偽りの隣人」を年末に見ました。

黒沢清監督のホラー映画は2007年の「叫」以来となるのでしょうか。かなり久しぶりで、見なければ、とずっと気にしていました。
ようやく見ることができたわけですが、随所に「これぞ黒沢映画」と思えるシーンが満載。香川照之、竹内結子、西島秀俊ら主役陣の演技も抜群で、堪能しました。あまりに興奮して、立て続けに2回も見てしまったほどです。

ところが!
鑑賞後にネットで世間の評判を検索してみたところ、酷評の嵐ではありませんか。
例えばAmazonでDVDのレビューを見ると、星1つの件数が星5つの倍くらいになっているという、あり得ない状態になっていました。
しばらくマトモに映画を見ていなかったせいで、オレの鑑賞眼は狂ったか? と思ってしまいましたが、いやいや。雑誌などの、信頼できる批評を確認すると、皆さん絶賛しています。
つまり、ホラー映画をほとんど見ない人、黒沢清をよく知らない人にとっては「わけがわからない」という印象を与えてしまっているようなのですが、少しでもホラー映画の素養があれば、これはかなりの傑作だとわかるハズなのです。
というわけで、今回の記事は、映画「クリーピー 偽りの隣人」がつまらなかった、という方へ向けて、どこが面白いのか解説します。
とは言え、監督の発言なんかをちゃんとチェックしているわけではないので、正しい解釈かどうかはわかりませんが。あくまで、筆者が感じた面白さ、ということで。
それから、原作は読んでおりません。原作ファンの方が「せっかくあんなに面白い原作をこんな風にしてしまって!」と怒っている評価もよく目にしますが、それに対しては何も言えません。中途半端な記事ですみません。
なお、ネタバレは気にしませんので、ご注意ください。

まず、この映画を見る前の予習として、最低限チェックしておくべきものが2つあります。
それは、トビー・フーパー監督の映画「悪魔のいけにえ」(1974年)と、豊田正義によるノンフィクション「消された一家」(新潮文庫)です。



「悪魔のいけにえ」はホラー映画の名作として名高い作品ですが、黒沢清監督のフェイバリット映画でもあります。いたるところで「悪魔のいけにえ」については言及しています。
テキサスをドライブする若者たちがとある一軒家へ立ち寄ると、そこには殺人一家が住んでいて、チェーンソーで片端から切り刻まれる、という話です。
外観はふつうの民家なのですが、内部は人肉加工場と化しており、末っ子の殺人鬼=通称レザーフェイスは鉄の引き戸の向こう側から、突然登場します。
同じく「クリーピー」に登場する一軒家も見た目はありきたりな民家なのですが、玄関を入って廊下を曲がると鉄の引き戸があり、その向こうでは身の毛もよだつ惨劇が繰り広げられています。
Webでレビューを見ていると、「こんなふつうの民家に鉄扉を備えた地下室があるのは非現実的だ」という評価をよく見ますが、ここは現実的かどうかなんてことは問題ではありません。
「悪魔のいけにえ」のオマージュなのです。黒沢監督のファンであればすぐにそれがわかって、「あり得ない!」と怒るどころか、「キターッ!」と喜ぶところです。
はじめのうちは民家の内部を見せず、玄関先のみが映るシーンが続きますが、ここではJホラー風に「この家には何かヤバイものがある」という不穏な空気のみが表現されています。
それが、ようやく廊下の先へ案内された途端に、待ち受けるのは鉄の扉!
それまでコタツに寝転んで画面を見ていた筆者は、ここで正座に切り替えましたね。
また、そういう目で見ると、真空パックを作るために登場する巨大掃除機も「そりゃ、いくらなんでもやりすぎでしょ」と思いながらも、妙に嬉しくなってしまう小道具です(デカイけど)。ここまで身軽に現実から遊離してくれたら、テンション上がりますよ。淡々と取り扱う藤野涼子のなんと魅力的なこと!



「消された一家」は、北九州で発生した殺人事件を取材したもので、これまた犯罪を扱ったノンフィクションとしては有名なロングセラーです。
犯人はなんでもないふつうの家族の中へ巧みに入り込み、いつの間にか精神的な主導権を握り、やがて家族同士で殺し合いをさせて崩壊へと導きます。先年の尼崎の殺人事件でも全く同じ展開がありましたが、常識的な感覚ではまるで理解できない事件です。
「クリーピー」で香川照之が演じている「西野」は、明らかにこの「消された一家」の犯人を意識して造形されたキャラです。原作もそうなのか、黒沢清のアイデアなのかその辺はわかりませんが、「あんなおかしな奴の言いなりになる竹内結子や藤野涼子はあり得ない!」という評価に対しては「いや、現実にあったことですよ」ということになります。
ただ、この犯人のやり口はそれなりに手数を踏んでおり、丁寧に描いていると、それだけで一本の映画になってしまいます。(というか、現に一冊のノンフィクションが書かれています)
そこで、この映画では手順を省略するための必殺技を繰り出します。
西野はしきりに注射器を取り出して、被害者へ謎の薬品を注射します。この薬品も「そんな薬ないだろ!」という批判の的になっていますが、これこそが、必殺技なのです。
どういうことかというと、この薬品は「犯人の手口をまとめたもの」と思われます。
つまり、注射を打たれるシーンを一発入れることで、「こいつも落とされた」という描写を瞬時に済ませられる仕組みです。
「消された一家」を読んでいれば、この辺にはすぐに気づくことができると思います。

というわけで、レビューを見ていて、よく批判されている部分については、「悪魔のいけにえ」と「消された一家」の2つさえチェックしておけば、「誤解はとけますよ」と言いたいです。本当はもっと詳細に論じたいのですが、黒沢監督の著書をひっくり返しながら分析するのが面倒なので、今回はこんなところで。

ところで、筆者がこの映画で最も感動したのは、ラストの竹内結子の絶叫ですね。
それまで抑えられていた恐怖を全て一度に吐き出すような、あるいは狂気への一線を越えつつあった状態から真人間へ生まれ変わるための産声であるかのような、全く想像を絶する叫びです。ここは、確実に「悪魔のいけにえ」ラストの絶叫を凌駕していますね。
映画「リング」冒頭で殺されるのを見たときから、ずっと竹内結子ファンを自任していましたが、実際こんなにすごい女優さんだったのか、と今さらながら思い知らされました。このシーンを味わうためだけでも見る価値はある映画です。

 逆に筆者がこの映画で「ん?」と思ったのは一箇所だけ。刑事の笹野高史が何も警戒せずにノコノコと問題の一軒家へ入っていくシーンです。ここも割りと批判されていますが、ここだけは筆者もどういう意図なのかよくわかりませんでした。とは言え、この映画全体の中においては瑣末な部分です。

以前に「クリーピー」をご覧になって「どうも納得できなかった」という方は、以上のことをご理解いただいた上で、改めてもう一度、鑑賞していただければと思います。
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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