201708推理文壇戦後史112

山村正夫は映画化された『湯殿山麓呪い村』が有名ですが、作家としての活動は今やほとんど忘れられてしまっているのではないでしょうか。
筆者はこの作家を知った当初、探偵作家然とした作風から、もしかして横溝正史と同世代? いや、それはないとしても高木彬光や山田風太郎は同世代だろう、と思っていましたが、とんでもない。1920年生まれの高木彬光に対し、山村正夫は1931年生まれと十も若いのです。昭和生まれの作家です。『湯殿山麓呪い村』を1980年(昭和55年)に発表した時はまだ50手前だったわけです。

では、どこからそんな大御所っぽい雰囲気が出ているのかといえば、その理由はデビューの早さにあります。まだ学生だった1949年(昭和24年)に雑誌「宝石」からデビューしているのです。デビューの時期や経緯を見れば、高木彬光や山田風太郎とほぼ同期ということになるわけです。

小説家としてはあまりパッとした印象のない山村正夫ですが、偉業といえばこの『推理文壇戦後史』を著したことが挙げられます。
これは雑誌「小説推理」に連載され双葉社から単行本が出たものですが、1973年(昭和48年)に1冊目が、続いて『続・推理文壇戦後史』が1978年(昭和53年)、『続々・推理文壇戦後史』が1980年(昭和55年)に刊行されます。
1984年(昭和59年)にはここまでの3冊が創刊間もない双葉文庫へ収録されました。(この頃の双葉文庫は春陽文庫に劣らぬワケのわからない文庫で奥付すら無かった……という話は脱線しすぎなのでやめておきます)

筆者は学生時代、先輩が持っていた文庫版を借りてこのシリーズを読みました。
乱歩を始めとする戦前からの探偵作家と親しく交流した著者ならではのエピソードが満載の、非常に興味深い内容です。
ところが、このころ創元推理文庫に収録された『亜愛一郎の狼狽』に付された権田萬治の解説を読むと『推理文壇戦後史 4』という本の存在が記されていました。
雑誌「幻影城」の創刊から廃刊に至る経緯に触れているので「興味のある方はご覧頂きたい」ということでした。
なんと、続編があったのか。それに、雑誌「幻影城」について山村正夫がどう書いているのかも興味アリアリだったので、調べてみたところ、この最終巻は1989年(平成元年)に刊行されており、文庫化はされていないのでした。

はじめの3冊は、単行本も文庫も古本屋でセット組されたものをよく見かけたため(当時は)、単行本のセットを買いましたが、4巻だけはどうしても見当たりません。ようやく手に入れたのは、インターネットが普及してから、Amazonマーケットプレイスを通じてで、揃えるのに10年近くかかりました。

今も、ネットの古書店を探すと、はじめの3冊はわりと簡単に見つかりますが、4巻だけはかなり高額です。戦後から新本格登場前夜までのミステリ界を概観するには非常によい本なので、どこかの文庫が収録しないかな、とずっと待っていたのですが、昨年、日下三蔵さんが下記のようなツイートをされていました。



論創社からか……ということで、わりと値は張りそうです。できれば、ちくま文庫あたりがよかったな、と思っていましたが、しかし、このツイートから1年以上たってもまだ企画は実現していないようです。
いかなる形であれ、本書の再刊はめでたいことなので、待ち続けたいと思います。