備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

挿絵

杉本一文だけじゃない!人気表紙画集5選

201711戻り川心中139

先日の記事でご紹介しましたとおり、近々、角川文庫版・横溝正史の表紙絵で有名な杉本一文の表紙画集が発売されます。

角川文庫版・横溝正史の表紙絵を収録!「杉本一文『装』画集」待望の刊行!

待ち望んでいた方も多いかと思いますが、ミステリやSFのファンは特に「表紙絵」というものに思い入れの強い人が多いようで、これまでにも人気イラストレーターの表紙画集はいくつか出ています。今回はそれらをご紹介しましょう。(リンク先は全てAmazonです)

薔薇の鉄索: 村上芳正画集
国書刊行会
2013-07-25


本書は税込で5,000円超という価格をものともせず筆者も買いましたが、刊行されたときは「今さら村上芳正!?」と仰天したものです。
村上芳正は70年代を中心に活動していた画家で、有名なのは講談社から出ていた連城三紀彦の諸作でしょう。
連城三紀彦と村上芳正との出会いは講談社の単行本が最初ではなく、雑誌「幻影城」に「花葬」シリーズ第一作のあたる「藤の香」が掲載された際、挿絵を担当しています。
村上芳正は「幻影城」ではかなりの挿絵を担当しており、1978年6-7月合併号(No.44)にて「村上芳正の華麗な世界」と題した特集も組まれています。筆者は中学生のころ、たまたま古本屋で「幻影城」の揃いを見つけ、お年玉をはたいて購入しており、この特集は飽きずに何度も繰り返し眺めたものです。
今や名前を見てもピンとくる読者が減ってしまったのか、刊行から4年も経つのに、Amazonのレビューは一つもついていないという有り様ですが、本書には代表作「家畜人ヤプー」や、連城三紀彦の諸作はもちろん、表紙絵、挿絵、ポスターなどが数多く掲載されています。原画だったり書影だったりといろいろですが、幻想的な華麗な作品を、時間を忘れて眺め続けてしまいます。



スター・ウォーズやマッド・マックスの日本版ポスターが有名な生頼範義ですが、ミステリやSFの表紙絵も数多く手がけており、非常に人気のあるイラストレイターです。
画集もいろいろ出ていますが、本書は代表作を網羅しつつお求めやすい価格で、とりあえず最初の一冊としておすすめできます。表紙絵に限らず、映画ポスターもたくさん収録されており、生頼範義の仕事を概観することができます。

武部本一郎SF挿絵原画蒐集〈上〉1965~1973
武部 本一郎
ラピュータ
2006-03-30


かつて児童書界で挿絵を書きまくっていた武部本一郎の画集です。
こちらの記事で紹介しているポプラ社版乱歩全集もいくつかの巻を担当していますし、有名な絵本「かわいそうなぞう」のイラストも氏の仕事です。
画集はそれほどたくさんは出ておらず、しかも全て入手が難しい状況ですが、いずれ全画業を概観できるような本が出てほしいな、と思っています。

銅版画・江戸川乱歩の世界
多賀 新
春陽堂書店
1988-05


春陽文庫版・江戸川乱歩の表紙を飾るおぞましい銅版画を描いた多賀新の版画集です。
この表紙は子どもの頃、杉本一文以上に強烈でした。不気味だけど見入ってしまう、というわけで、小学生の頃は学校から帰ると一人で部屋へこもり「孤島の鬼」や「心理試験」の表紙絵をジッと見つめ続ける、という毎日を送っていたものです。
この画集を出たときは中学生でしたが、買おうかどうしようかさんざん迷いました。しかし、結局は中学生が買うようなものではなく、そのうちそのうち、と思っているうちに大人になってしまい、それでもこの本は絶版にならずしぶとく書店店頭に並び続け、こちらも負けずと買わずにいたら、最近、とうとう品切れになったようです。
勝った……というような感慨は特になく、やっぱり買っておいたほうが良かったかなあ、と少し後悔しています。とは言え、杉本一文ほど「何が何でも絶対買う!」という気になれなかったのは確かですね。何十年も立ち読みを続けたので、内容はよくわかっていますが。

江戸川乱歩 幻想と猟奇の世界
多賀 新
春陽堂書店
2018-03-26

(2018/2追記:3月に新版が刊行されるようです。負けた……買います)


少年少女昭和ミステリ美術館―表紙でみるジュニア・ミステリの世界
森 英俊
平凡社
2011-10-01


本書は特定の画家の作品集ではなく、かつてポプラ社や偕成社などで出ていた児童向けミステリシリーズの表紙絵を集めたものです。
筆者の年代から見ると古めの本が多いのですが、ドンピシャ世代の本も数多く掲載されています。子どもの頃、近所の市立図書館で「今日はどれを借りようか」と表紙をにらみ続けたころの気分をありありと思い出せる、とても素敵な本です。ただし、本書でトキメクことができるのは、昭和のうちに小学生を済ませた世代に限られるだろうと思います。

「三銃士」原作を読むなら、おすすめの本はどれ? 各社版徹底比較

201706三銃士096

「一人は皆のために、皆は一人のために」という合言葉で有名なアレクサンドル・デュマの「三銃士」。
何度も映像化されてしますし、ミュージカルなどの原作にもなっています。児童向けの世界名作全集などにも必ずと言ってよいほど収録されている作品です。
筆者は大人になってから初めて読みました。それも、まだ5年くらい前のことで、わりと最近です。
実は小学生の頃にも岩波少年文庫版で読もうとしたことがあるのですが、読み始めてすぐに「全然おもしろくない」と思って、そのままになっていたのでした。
そんなわけで、これまでの人生は「三銃士」を面白いという人に対してずっとコンプレックスを抱いていて、アニメも人形劇も、一切観ることはありませんでした。

ところが。
とある本の中で褒められているのを見て、急に読みたくなり手にとったのですが、
……これはむちゃくちゃ面白い! 現代のエンターテインメントと比べても全く遜色のない、華やかでスリリングなチャンバラ小説です。。
逆に、小学生の時にいったいなぜつまらないと思ったのか、まるきり理由がわからなくなりました。
こんなことなら、三谷幸喜の人形劇もチェックしておくべきだった!

というわけで、未読の方にはぜひ一読をおすすめしますが、この小説もいろいろとバージョンが出ています。それぞれの特色をご説明しておきます。

その前に。
冒頭にも紹介した「一人は皆のために、皆は一人のために(un pour tous, tous pour un)」という合言葉ですが、実は邦訳でこの部分が直訳されているものは一つもありません。
筆者が読んだものは「四人はつねに一体となって協力する」と、語呂の悪い言い回しになっていますし、他の翻訳でも「四人は一つ、切っても切れぬ」「四人一体」など、かなり自由に意訳されています。
ふつうに直訳した方が、読者にも「あ、あの有名な合言葉だ!」とわかりやすいと思うのですが、なぜ揃いも揃ってこんな風になっているのか、よくわかりません。
「三銃士」といえば、4人が剣を合わせ、声高らかに「一人は皆のために、皆は一人のために」と叫ぶものだ、というイメージをお持ちの方、残念でした。児童向けのダイジェスト版を除いて、直訳はありません。なおかつ、このシーンでは各々片手を挙げて宣誓するのみで、剣を合わせたりはしません。

さて、いきなり読む気を削ぐようなことを書いてしまいましたが、いやいや「三銃士」の魅力はその程度では全く損なわれませんのでご安心ください。
それでは、数ある翻訳から、何を基準に選べばよいのか。

「ダルタニャン物語」

まず最初におすすめしたいのは、復刊ドットコムから刊行されている鈴木力衛訳の「ダルタニャン物語」です。
「三銃士」は文庫本で2冊ほどの小説なのですが、実はこれは「ダルタニャン物語」という長い長い大河小説の最初のエピソードに過ぎません。「三銃士」のあとに「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵」と続くのですが、それぞれ「三銃士」の倍以上の長さがあるため「ダルタニャン物語」全体では全11巻という長さになっています。
「三銃士」で友情の絆を固めたダルタニャン、アトス、ポルトス、アラミスの4人が、時には対立しつつも切っても切れぬ関係を続け、多くの敵や陰謀と戦い続ける物語です。

今のところ、このシリーズ全てを邦訳したのは鈴木力衛のみです。以前は講談社文庫で刊行されていましたが、それが絶版になったあと復刊ドットコムから単行本で復刊されています。
全11冊のぞれぞれにオリジナルの書名がつけられていますが、この1~2巻が「三銃士」に該当します。




筆者は、シリーズを全部読むつもりで取り掛かったので、この復刊ドットコム版で読みました。
鈴木力衛の翻訳はWikipediaで調べたところ、昭和27年が初刊のようで、現在流通しているものは昭和43年に改訳されています。わりと古いといえば古いのですが、全く気にせず楽しむことができます。
「ダルタニャン物語」を全部読むつもりであれば、選択肢はこれしかないのですが、デメリットとしては単行本なので価格がずいぶん高いということがあります。1冊買う価格で文庫なら上下巻とも揃えてお釣りが来ます。したがって、とりあえず「三銃士」だけ読みたい、という方には向かないでしょう。
どこかの文庫で、まとめて復刊し直してくれると読みやすくなっていいのに、と思うのですが。
ちなみに「三銃士」にこれほど人気があるのに、続編をこれほど読みづらいのは日本くらいで、洋書ではシリーズ全てがペーパーバックで何種類も出ています。フランス語や英語が読める方は、そちらへチャレンジするのも手でしょう。復刊ドットコム版を揃えるよりもかなり安くなります。

(英語版ペーパーバック。いずれもリンク先はAmazon)
The Three Musketeers (Oxford World's Classics)
Alexandre Dumas
Oxford Univ Pr (T)



Twenty Years After (Oxford World's Classics)
Alexandre Dumas
Oxford Univ Pr (T)




文庫版のおすすめ

次に、とりあえず「三銃士」だけ読みたい、という方のために文庫版をご紹介します。
現在入手可能なものは岩波文庫と角川文庫の2種類のみです。(いずれもリンク先はAmazon)

生島遼一・訳


竹村猛・訳


これもWikipediaによれば、生島遼一訳の初刊は昭和22年、竹村猛訳の初刊は昭和36年。どちらも結構な古さです。
生島遼一は岩波文庫版のスタンダールやフローベールなどを訳しており、フランス文学の翻訳家として定評があります。また、竹村猛はデュマの作品ではほかにダイジェスト版ではありますが、岩波少年文庫版の「モンテ・クリスト伯」を訳しています。
実力の拮抗している翻訳家対決ですが、どっちの訳文が読みやすいかといえば、実はどっちも読みやすいです。
その証拠に、生島遼一訳のダイジェスト版は岩波少年文庫から出ており、竹村猛訳は全訳のまま文字遣いだけ少し改めて、偕成社文庫に収録されています。つまりどちらも児童文庫に流用されているのです。
そんなわけで、どちらで読むかは「お好みで」ということになります。

児童向けのおすすめ完訳本

次に、児童向けとして刊行されている完訳を2つご紹介します。

まず、偕成社文庫版は、上述の通り角川文庫版と同じ翻訳の文字遣いを改めたものです。
さらにもうひとつ角川文庫版とは違う点があり、それは挿絵が収録されていることです。
竹村猛・訳
(リンク先はAmazon)


児童書でおすすめはもう一点、福音館古典童話シリーズから出ている朝倉剛訳です。
おすすめのポイントは、まず初刊が昭和45年で、他の翻訳と比べて新しい点。またそもそも児童向けを意識して翻訳されているため、読みやすい文章です。
また、なによりこの本がすばらしいのは、その挿絵です。
筆者は原書の挿絵というものが好きなため、当ブログでこれまで紹介した「レ・ミゼラブル」や「海底二万里」でも、おすすめポイントとして挿絵を重視しています。ただし、それらには原書初版に付された言わば公式の挿絵というものがありました。
しかし、「三銃士」にはそのような位置づけの挿絵は無いようで、偕成社文庫版と福音館古典童話シリーズ版とでは異なった挿絵が使用されています。また、福音館版の挿絵を描いた画家の経歴を見ると「三銃士」が刊行されたときにはまだ生まれていません。つまり、ずっと時代が下ってから描かれた挿絵と思われます。
とはいえ、この福音館版の挿絵はとても素敵で、作品世界の理解に大いに役立つとともに、挿絵だけを眺めていてもうっとりするほどです。

朝倉剛・訳


そんなわけで、「三銃士」の全ての翻訳の中で、個人的にはこの福音館版が最も気に入っているのですが、デメリットとしては、やはり価格が高い。上下揃えると5000円くらいになってしまいます。また、解説によれば僅かに省略した部分がある版を翻訳の底本にしているとのことです。

自分で読むにはやはり価格の点が引っかかってきますが、「お子さんへプレゼント」ということをもし考えているのであれば、福音館版でキマリでしょう。一生、大切にできる本だと思います。
現に、筆者の手元にある福音館版は、子どものころ親に買ってもらったものです。
冒頭に書いたとおり、岩波少年文庫版を途中で放り出していたくせに、こんな高い高い福音館版をどういう経緯で買ってもらったのか全然覚えていません。それをまた読まずにこの年まで放置していた親不孝者です。しかし、30年近く経ってから、ようやくその真価に気づくことができたので、ヨシとしましょう。今更ながら、この高い高い本を買ってくれた両親に感謝感謝です。
筆者の息子がもし「三銃士」を読みたいと言い始めたら、この本をそのままプレゼントして済ませるつもりでいます(やはり親不孝者)。

児童向けダイジェスト

最後に、児童向けダイジェストをご紹介しましょう。
「三銃士」は抜群の面白さで一気読みできますが、とはいえ、文庫本上下巻の長さはあります。海外の小説をあまり読まない方には敷居が高いかもしれません。
映画や舞台などで「三銃士」を見て、原作にも触れておきたい、という程度であれば、ダイジェストを読んでみるというのもアリです。
児童向けダイジェストはかなりたくさんの種類が出ていますが、最もおすすめは講談社青い鳥文庫から出ている藤本ひとみによるものです。



藤本ひとみはもともとコバルト文庫などで少女小説を書いていましたが、その後、主にフランス史を題材とした歴史小説を書くようになりました。
フランスの歴史を背景に華やかでスリリングな世界を描いた「三銃士」を紹介するのに、これほどうってつけの方はいません。
児童向けに書かれたものですが、藤本ひとみファンはもちろん、一般の方が読んでも間違いなく楽しめます。
ただし。本書には一点だけ重大な問題あります。
実は「一人は皆のために、皆は一人のために」の宣誓シーンが省略されているのです。そこだけちょっと残念。まあ、原作ではそれくらい、わりと軽く扱われているセリフなんですけどね。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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