備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

怪談

謎の沖縄恐怖本「沖縄の伝説と民話」(月刊沖縄社)

201804沖縄の伝説と民話206

父は若い頃、仕事のため頻繁に沖縄へ出張していたそうです。
本土復帰前のパスポートが必要だった時期から、筆者が生まれる頃まで、昭和40年代後半から50年代前半にかけてのことです。
このため、実家にはお土産に買ってきたと思われる、琉球人形やよくわからない楽器などが転がっていましたが、沖縄に関する本も2冊だけ本棚に並んでいました。
そのタイトルは

「鉄の暴風」(沖縄タイムス社)
「沖縄の伝説と民話」(月刊沖縄社)

沖縄は人口140万人ほどの規模ながら、出版社は40近くもあり、地元で「県産本」と呼ばれる独自の出版活動が行われています。沖縄県の書店へ行くと、よそでは見かけない珍しい本がズラリと並んでいます。
中でも「鉄の暴風」は沖縄戦の代名詞ともなっている有名な本なので、父がお土産に買ってきたことは理解できます。

しかし、このもう一冊はいったい何なのか? なぜよりによってこんなのを買ってきたのか?
というのは、これがとんでもなく怖ろしい内容の本なのです
筆者は小学生の頃に父の本棚からこれを手に取り、恐怖に震え上がりました。
総ルビで子どもにも読める作りなのですが、載っているのは怖い話ばかり。ともかく挿絵が強烈です。いくつかご紹介しましょう。

与那国島で口減らしのために行われたと伝わる「久部良割くぶらばり」。これは史実ではなかろうというのがほぼ定説になっているようで、本書にもそのようなコラムが付記されていますが、それにしてもこの絵!
201804沖縄の伝説と民話207

人喰い鬼になった兄を殺すため、洞窟を訪れた妹。「鬼餅うにもち」の由来として、地元ではやはり有名な伝説のようです。兄が鬼になった事情は「どうしたはずみでか」としか書かれておらず、謎です。妹の「下の口」が兄に襲いかかるという、小学生男子にはよく理解できないシーンがあります。
201804沖縄の伝説と民話208

一番怖いのがこの絵! 木陰で昼寝をしていた子どもがちんちん丸出しだったため、いたずらに木の棒で突き上げたところ、あとでこんな目に遭った老婆の話。
201804沖縄の伝説と民話209

収録されている話の全部がこんな調子というわけではありませんが、ともかくわが家にあった絵本(?)のなかで最も強烈だったのがこの本なのは間違いありません。
震え上がりながらも気に入って何度も読み返しており、一人暮らしを始めてからこっそり持ち出して自分の本にしてしまいました。

本書の最後には広告ページがあるのですが、そこを見ると何とシリーズの続刊予定として「沖縄の怪奇幽霊伝説」なる本の予告が載っているのです。
「伝説と民話」というだけこんなに怖いのに、これが「怪奇幽霊伝説」になったらどうなるんだ!?
一度は読みたい、と思いながらも、沖縄県産本の入手方法など皆目わからず、月日は流れました。

30歳過ぎてから、勤務先の社員旅行で初めて沖縄を訪れました。
その時は、自由時間は皆から離れて、古本屋巡りにあてました。
この機会を逃して「沖縄の怪奇幽霊伝説」を探すことなどできないだろうと考えたためです。
こんな大昔の本を探しても見つかるわけないよな、ということを考えながら、那覇市内の店を何軒か周っていると同じ月刊沖縄社の「沖縄の怪談」という本が目にとまりました。
結局「怪奇幽霊伝説」は見つからなかったため、こちらの方でもいいか、と思って買ってきたのですが、帰宅後に確認するとなんと! 実は「沖縄の怪奇幽霊伝説」と予告されていた本は「沖縄の怪談」として発行されていたのでした。つまり、買ってきたこの本で正解。
しかし、読んでみると個人的には実家にあった「沖縄の伝説と民話」の方がやはり怖いですね。
読んだ年齢が30過ぎているということもあるかもしれませんが。

それにしても、父が数多くある沖縄県産本の中からこれを選んだ理由は、ほんとに謎です。
いや、実家に電話して聞けば良いだけの話なんですが、40年以上も前のことなのでたぶん覚えていないだろうと思われるのと、「下の口」とか「ちんちん」というキーワードが引っかかって、未だにこの本を親の前で話題にしたことがありません。

というわけで、ネットで検索すると古本を販売しているサイトはいくつか見つかりますので、ご興味のある方は探してみてください。

家庭に常備すべき怪談本「日本現代怪異事典」

201802日本現代怪異事典182

発売から少し経ってしまいましたが、ようやく朝里樹「日本現代怪異事典」(笠間書院)を入手しました。
このブログでわざわざ紹介するまでもない話題の本で、出てすぐに売り切れていたため初版を買い損ね、重版されるのを待って購入しました。
「学校の怪談」に代表されるような、戦後日本で語られた都市伝説のうち怪異にまつわるものを網羅した本です。
筆者が知る限りでは、この手の内容を一冊にまとめた本としては、これまでポプラ社から出ていた「学校の怪談大事典」が最強だと思っていましたが、本書は質量ともに圧倒しています。
また、このような本が笠間書院から出たというのも驚きですね。笠間書院は、茶色い箱に入った国文学関係の硬い本ばかり出している印象を持っていました。価格もこの質と量、そして出版元を考えると本体価格2200円は激安です。笠間書院がふだん出している本は安くて3000円超え、たいていは1万円前後ですもんね。

と、値段のことはどうでも良いのですが、この本は一家に一冊あると本当に便利だと思います。筆者の購入目的は「家庭の医学」のように、わが家に怪談を常備することなのです。

筆者の長男は現在小学3年生なのですが、「怖い話を聞かせて」とせがまれることがよくあります。
よっしゃ、怪談好きのパパに任せておけ、と言えれば良いのですが、実をいうと筆者の脳は「物語を記憶する」という機能が欠損しており、本を読んでいるあいだは「むっちゃ怖い!」「面白い!」と興奮していても、読み終わった瞬間にディテールをほとんど忘れてしまうのです。
短い怪談に於いても然り。
「あの話、怖かったよな。確かあの本に載ってたな」
ということはよく覚えているのですが、さて自身で改めて語ろうとすると細かい部分を思い出せず、ちっとも怖くない話になってしまうのです。

以前、子どもから怖い話をせがまれた時、弱り果てた筆者はこんな話をしました。

『悪魔の人形』
あるところに老人と少女が二人で暮らしていた。ある時、老人は外出先でクマのぬいぐるみを買い、少女への土産として持ち帰った。クマを見た少女は叫んだ。
「あ!クマの人形(あくまのにんぎょう)」

『猫のたましい』
ある老人が、タマという名の猫と、やはりタマという名の犬を飼っていた。
ある晩、夜中に猫のタマがしきりに鳴き続けた。やかましくて眠れない老人はこう言った。
「猫のタマ、しっー!(ねこのたましい)」

『悪の十字架』
ある店の主人が、朝から店を開ける支度をしていた。店の前を通りかかった男が、時計を見ながら言った。
「おじさん、開くの10時か?(あくのじゅうじか)」


えー、以上は出典は忘れましたが、小学生の頃に読んだ本に載っていたダジャレです。息子はタイトルを聞いた段階では「うんうん」と真剣な顔になるのですが、オチを聞くたびに「怖くない!」とがっかり。
しまいには、横で聞いていた妻までもが「あんたはしょうもない本ばっかり棚に並べてるくせに、怖い話もできないの!?」と怒りだしました。
こうなってくると、本当に怖い話をしなければいけませんが、なにぶん記憶だけで語れるレパートリーを持ち合わせていません。ここは、小学生なら確実にビビるであろう最強クラスの怪談を持ち出して、「パパの話は本当に怖いから聞きたくない」と思わせるしか、逃げる方法はない。

そこで語ったのが、この話です。

ある若者グループが海へ出かけ、崖から飛び込んで遊んでいた。ところが、そのうちの一人が溺れて死んでしまった。のちに、その時撮った写真を現像すると、海面から無数の手が伸びているのが写っていた。

有名な怪談で、本書「日本現代怪異事典」でも当然、紹介されていますが、筆者は小学生の頃だったかに初めて聞いて、本当に怖ろしい気分になった記憶があります。
さあ、これでどうだ。
自信満々で聞かせた筆者に対し、長男は
「ああ、それはね、海坊主って言うんだよ。怖くない怖くない」
とニコニコしながら流されてしまいました。

さて、そんな形で撃沈した筆者ですが、もしその時この本が手元にあれば「じゃ、こっちの話は? こんな話もあるぞ」と次々と弾を繰り出すことができたはずです。
いやあ、もっと早くに巡り会いたかった本だな。

まあ、そのような使い方だけでなく、1975年生まれの筆者にとっても、小学生の頃に学校で話題になっていた怪談が大量に紹介されていて、とても懐かしい気分になります。
6年生くらいの時に「紫鏡という言葉を20歳になるまで覚えていると死ぬ」という話を聞いたときは、かなり深刻に悩んだもんですね。20歳のころには無事に忘れてましたが、40過ぎてまた覚えちゃったよ。
こんな大部な本の著者がまだ20代というのも驚きです。巻末の参考文献リストは、そのまま戦後日本怪談史というもいうべきもので、本当に勉強熱心ですばらしいと思います。

日本現代怪異事典
朝里 樹
笠間書院
2018-01-17




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最恐!実話怪談名作エピソード5選

震災と怪談

201708みちのく怪談コンテスト116

戦争や自然災害など、大きな惨事のあとには怪談が生まれます。
このことについてはいろいろな人が分析をしていますが、死者の鎮魂とともに、惨事を物語として語ることで、後世へ記憶を受け継ぐ役割を果たしています。
2011年の東日本大震災のあとも数多くの怪談が生まれ、その一部は書籍やテレビ番組にまとめられつつあります。
それらをご紹介します。
(リンク先は全てAmazonです)

みちのく怪談コンテスト傑作選 2011 (叢書東北の声)
高橋克彦・赤坂憲雄・東雅夫 編
荒蝦夷
2013-08


大震災後、真っ先に怪談集を出版したのは、仙台を拠点に活動する出版社・荒蝦夷でした。
実は荒蝦夷は、怪談界の大御所・東雅夫と組んで、大震災前年の2010年から、遠野物語百周年を記念して「みちのく怪談プロジェクト」というものを始めていました。東北を舞台にした怪談を一般から公募するという企画です。
企画がスタートした矢先に、東日本大震災が発生したというわけなのです。
この大惨事を語りつぐための受け皿として、何ものかの力が「みちのく怪談プロジェクト」を始めさせていたのではないか、と思ってしまうほど奇跡的なタイミングなのですが、結果的にコンテスト第2回目となる2011年版には、震災にまつわる怪談が数多く集められることになりました。
むろん、企画の趣旨は震災に限られておらず、別のテーマの怪談もたくさん収録されていますが、やはり際立つのは震災関連のものでした。
本書の刊行とほぼ同時に、NHKスペシャル「亡き人との“再会” ~被災地 三度目の夏に~」も放映されました。荒蝦夷の書籍と歩調を揃えたのかどうかはわかりませんが、例えば須藤茜「白い花弁」など同じエピソードも番組で紹介されました。
コンテストは翌年に第3回が実施されましたが、これは書籍化されておらず、そのままコンテスト自体は中断しているようです。何年かおきでもよいので、また実施して、集まったエピソードを刊行してほしいものです。

震災後の不思議な話 三陸の怪談
宇田川敬介
飛鳥新社
2016-03-26


昨年刊行されたのが本書です。
著者が現地で取材したエピソードをまとめたものですが、地名や人名を全て伏せているため、荒蝦夷の「署名記事」に比べると迫真性がやや欠けます。
また、感動的なエピソードに絞っている点も、怪談好きの筆者としてはやや白けてしまいま。
とはいえ、一般の出版社(在東北あるいは怪談専門などの特別な事情のない出版社)がこのテーマに進出したというのは、特筆すべきことと感じました。
この年にはもう一冊出ています。



これは怪談集を意図したものではなく、東北学院大学の社会学ゼミの学生が生と死をテーマに震災について取材したレポートをまとめたものです。葬儀や震災遺構の保存といったテーマと並べて、幽霊現象についても書かれています。
学生による学術的なレポートであるため、単なる噂話として処理せず、幽霊が乗ったとされるタクシーが「無賃乗車」と記録されていることを確認するなどしており、話題となりました。物語としての怪談集とは別の視点で東北で起こる怪異に目を向けています。



今のところこのテーマを扱った本としては最新刊です。ノンフィクション作家・奥野修司が取材したものです。
登場している人たちは特に事情がない限り実名とのことで、怪異のスタイルも多岐にわたっており、興味深い内容です。
ただ、やはり「感動」を主軸に据えている点がいただけません。
親しい人を亡くしたあと、その人がまたそっと会いにきてくれたら、それはむろんのこと嬉しいでしょうし、エピソードとしては感動的です。しかし、例えば幽霊を乗せてしまったタクシー運転手などにとっては、怪異は「感動」ではなく「恐怖」です。本書でもこのような「恐怖」体験が全く避けられています。

以下、筆者の「怪談観」ですが、怪談の主眼はやはり「怖い」ことだと思います。
震災の記憶が生々しい今の時点で、恐怖をテーマにした実話怪談をまとめるのは、まだ時期尚早であり、感動をメインに据えてしまうのはやむを得ないことかもしれません。
しかし、後世へ語り継がれる、物語としての強さを持っているのは、「感動」よりも「恐怖」だと思います。
筆者の出身は名古屋なのですが、実家には偕成社からむかし刊行されていた「愛知県の民話」という本がありました。
この本には近世以前から伝わる昔話や民話に混じって、名古屋大空襲や伊勢湾台風にまつわる現代民話も収録されています。
そこまでとんでもなく怖い話ではないのですが、小学生の頃の筆者はこれらの話を「怖い」と感じ、だからこそ、空襲や台風の惨禍を我が事としてリアルに実感することができました。
今の時期に震災を「単なるホラー」として消費するのは不謹慎と批判されても致し方ないとは思います。
しかし、震災の「恐怖」を語りつぐためにはいずれ「怖い」怪談も必要となります。
そのときには、この手の話がはばかることなく書籍にまとめられてほしいと思っています。 
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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