「ミステリを読みたいけど、何を読めばよいか教えてほしい」と尋ねられることがよくあるのですが、なかなか一口では答えられません。
単に面白い小説を読みたいだけなのか? あるいは体系的に読み進めてミステリマニアになりたいのか?
そこで、「読者層」にあわせてミステリを分類し、それぞれのおすすめリストを作ってみることにしました。
「本格ミステリ編」は、ミステリマニア養成講座のつもりです。ミステリの評論を読んだり、あるいはミステリ好きのコミュニティで活動したりしようと思うと、やはりミステリの世界で「共通了解事項」とされている知識は持っていた方がよいかと思います。そのためにはどの辺の作品を読めばよいか、という観点で選定しました。
「ハードボイルド編」は、ハードボイルド、冒険小説、警察小説をまとめています。こちらもマニア養成講座のつもりですが、本格ミステリとハードボイルド、冒険小説とでは読者層が異なるため(もちろん、両方とも大好き、という人も大勢いますが)、リストを分けることにしました。
「エンターテインメント編」は、いわゆる「広義のミステリ」です。ジャンルとしての「ミステリ」に特に強いこだわりを持つことなく、面白い小説ならなんでもいい、という読者におすすめのものです。物語のメインが謎解きであっても、読者が謎解きよりも物語そのものを重視していると考えられるものは、「本格」ではなく「エンターテインメント」としています。また、社会派ミステリやホラーもここへ入れています。
分類は作品ごとではなく、作家ベースで行っています。
例えば、東野圭吾や米澤穂信はブレイク前には「本格ミステリ」の読者に支持されていましたが、現在の読者層はもっと広がっていると考えられるため、「エンターテインメント編」へ分類しています。
逆に、高木彬光や都筑道夫などは本格ミステリ以外のエンターテインメントも、かつてはたくさん書いていました。しかし、それらは一般的にはほとんど忘れられ、現在の読者層はコアな本格好きがメインと思われます。したがって「本格ミステリ編」へ分類しています。
結果的に、現役のベストセラーはエンターテインメントで、そうでなければ本格、というような形になってしまっていますが、それを狙ったわけではありません。
個々の作家紹介は稿を改めます。
しかし、そもそも「エンターテインメント」とはミステリに限らず小説一般に当てはまるもので、他の娯楽小説と、ここで対象としている「広義のミステリ」とは、どう区別するのか。
作品の内容に基づいて厳密に判定するということは不可能なので、おおざっぱに次の基準を設けました。
・ミステリの賞を受賞している(ホラー・サスペンスの賞も含む)
・このミスへランキングされるなど、ミステリファンのあいだでミステリと認識されてる
ミステリとSFとは近接したジャンルで、両方を書いている作家も多いのですが、ファンのあいだではやはり「竹本健治はミステリ作家」「山田正紀はSF作家」と認識されているかと思います。了見が狭いかも知れませんが、SF作家の書いたミステリやホラーは、単体の作品で評価されているとしても、今回のリストからは除外しています。(いずれSFで同じようなリストを作ったら、そちらへ入れます)
入れるべきかどうか悩んだ作家も多くいます。例えば栗本薫はデビュー時はミステリ畑でした。また、古くは海野十三も探偵小説家としてデビューし、のちにSF小説の祖となります。
しかし、栗本薫のファンは現在ではSF読者がメインと思われます。また、海野十三は「必読」というほど重要視されている作品は特にないかな、という考えで外しています。
それから、本格とエンタメはそれぞれ100作品、ハードボイルドは50作品をあげていますが、これはキリのよい数にしたほうがリストとして美しいから、ということで作為的に数を揃えています。このため、泣く泣く落としたものや、逆に、別に入れなくてもいいのに入っている作品も数篇あります。
と、いろいろいいわけを重ね、我ながら突っ込みどころの多いリストだと思います。
とはいえ、「ミステリ」をキーワードにして読書の幅を広げていきたいという方には、ある程度はチェックリストとして使えるものになっているのでは、と自負しています。
次回以降、それぞれのリストの内容について解説していきます。ミステリ初心者の方は、そちらも解説も併せて目を通していただければ幸いです。
最後にもう一ついいわけ。
「必読」と謳っていますが、これはキャッチーなタイトルを狙っただけです。リストのすべてを本気で必読と思っているわけではありません。
「エンターテインメント編」は順番を気にせずに適当に読んでもらえばよいと思いますが、「本格ミステリ編」も、このリストにあるような作家を読んでいこうと考えている時点で、じゅうぶん立派なミステリマニアだと思います。
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