備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

必読

国内名作ミステリ必読リスト(エンタメ編・解説)

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先日掲載した「国内名作ミステリ必読リスト100(エンターテインメント編)」の解説記事です。

ジャンル分けについては「名作ミステリ必読リストについて」に書いたとおりで、「本格ミステリ編」「ハードボイルド編」との大きな違いは、メインの読者がミステリマニアではない、という点です。

京極夏彦を「本格編」へ入れているのに、森博嗣がこちらの「エンタメ編」へ来ているのはなぜ?と聞かれると、明確な答えはありません。ざっくりとした「印象」が基準になっていることは否定できませんので、その辺はご容赦ください。
とはいえ、ミステリというジャンルにこだわりはなく、「本格とは?」とか「ハードボイルドとは?」というようなうるさい議論とは無縁に読書を楽しみたいという方には、おすすめしやすい作家が集まったリストになっているかと思います。

また、社会派ミステリについては、現在は忘れられつつあっても歴史的な名作とされているものはこちらのリストへ入れています。
かつて松本清張らが一世を風靡した「社会派ミステリ」は今やすたれたと思われているかも知れませんが、実際にはその系譜は宮部みゆきなど、ミステリ界のメインストリームに位置するベストセラー作家たちに引き継がれているというのが、筆者の認識です。
それから、ホラーも「本格」でも「ハードボイルド」でもないので、こちらへまとめています。ホラー小説にはSF系の作家とミステリ系の作家とがいますが、ミステリの賞を受賞している、このミスに入選しているなど、ミステリ界で人気があるかどうかで判別しています。この基準により、瀬名秀明は入っていないのに、貴志祐介や鈴木光司が入っているという結果になっていて、これはこれで、我ながらいかがなものかと思わないでもないのですが……


大下宇陀児
社会派の祖というべき存在が大下宇陀児です。「石の下の記録」(1948年)で探偵作家クラブ賞を受賞。

木々高太郎
戦前の探偵小説界において「探偵小説芸術論」を展開しました。「人生の阿呆」(1936年)で探偵小説作家では初めて直木賞を受賞。戦後は松本清張の登場にも一役買っています。

松本清張
改めて紹介するまでもありませんが、探偵小説の歴史を終わらせ、社会派ミステリの時代を築いた巨人。今も著作のほとんどが入手可能で、熱心なファンが大勢います。

多岐川恭
乱歩賞でデビューし、短編集「落ちる」(1958年)で直木賞受賞。

水上勉
松本清張と並び社会派の旗手として活躍し、今も人気があります。初期の作品以外はミステリを離れてしまったため、あまりミステリ作家とは認識されていませんが、「飢餓海峡」(1962年)は著者の代表作であるだけでなく、社会派ミステリというジャンルの代表作でもあり、いま読んでも感動します。

梶山季之
さまざまなジャンルでベストセラーを連発し活躍しました。作家デビューした「黒の試走車」(1962年)は産業スパイ小説で、この手のビジネスマン向けエンターテインメントを中間小説誌に大量に発表しました。
古本業界を舞台にした「せどり男爵数奇譚」(1974年)は著者の作風からすると異色作ですが、古本を巡る人間の業をこれでもかと描き、今も古本小説の代表作と扱われています。

西村京太郎
デビュー当時はトリッキーな本格が多く、「殺しの双曲線」(1971年)や「名探偵なんか怖くない」(1971年)などがその頃の代表作で、今も本格ミステリマニアには愛されています。
「終着駅殺人事件」(1981年)で推理作家協会賞を受賞した頃からはトラベルミステリーを連発するようになり、量産型ベストセラー作家の代表格となっています。

森村誠一
「高層の死角」(1969年)で乱歩賞を受賞してデビュー。本格ミステリから社会派まで幅広い作風でベストセラーを量産しました。角川映画も大ヒットした「人間の証明」(1975年)が代表作。

赤江瀑
幻想文学の第一人者。といっても、前衛的なものではなく、ベストセラーも多数書いています。「オイディプスの刃」(1974年)で角川小説賞を受賞し、映画化もされました。
今も熱心なファンが多いのですが、著作は入手が難しいものが増えてきました。

辻真先
ジュニア向けの「仮題・中学殺人事件」(1972年)シリーズで人気を博し、「アリスの国の殺人」(1982年)で推理作家協会賞受賞。軽いタッチのユーモアミステリが多いのですが、マニアからも愛されている作家です。

皆川博子
以前はそれほど知られている存在ではなかったのですが、「死の泉」(1997年)で大ブレイク。「開かせていただき光栄です」(2011年)で本格ミステリ大賞受賞。幻想文学、幻想ミステリの分野の第一人者です。

小峰元
「アルキメデスは手を汚さない」(1974年)で乱歩賞を受賞。筆者としては、ミステリ的にはいかがなものかと思っているのですが、若者の生態を描いた小説として乱歩賞史上空前のベストセラーとなりました。東野圭吾が、むかし読んだ小説として紹介したことから、数年前にリバイバルヒットしたりもしています。

赤川次郎
いわずとしれた大ベストセラー作家。量産型の作家なので、読書好きからは軽く見られている傾向もあるのですが、いやいや、優れた作品をたくさん発表しています。エッセイなどを読むとミステリはもちろん、映画、演劇などあらゆる文化に造詣が深く、これだけのアウトプットをできるバックボーンがどれほど巨大であるかを感じられます。「マリオネットの罠」(1977年)、「三毛猫ホームズの推理」(1978年)、「ひまつぶしの殺人」(1978年)あたりは本気でおすすめです。
最近はバランス感覚のあるリベラルな発言で知られ、時事問題について新聞にもときどき投稿しています。

阿刀田高
最近は古典文学の案内人と思われているかも知れませんが、初期は「ナポレオン狂」(1979年)など切れ味抜群の短編で日本のロアルド・ダールと呼ばれていました。

小池真理子
現在は恋愛小説の書き手というイメージが強いのですが、初期の短編は「イヤミス」の元祖で、恐ろしい話ばかりです。推理作家協会賞を受賞した「妻の女友達」(1989年)がその代表作。ホラー小説「墓地を見おろす家」(1988年)は日本初のキング風モダンホラーとされています。最近は「無伴奏」(1990年)「恋」(1995年)などの路線の作品が人気を博しています。

東野圭吾
紹介するまでもない、現代のエンターテインメントで最大のベストセラー作家。「放課後」(1985年)で乱歩賞を受賞してからしばらくは地味な存在でしたが、「名探偵の掟」(1996年)「どちらかが彼女を殺した」(1996年)あたりで本格ミステリファンのあいだで人気急上昇。「白夜行」(1999年)で押しも押されぬベストセラー作家の地位を築いています。その後も「容疑者Xの献身」(2005年)で直木賞を受賞し、同時に本格ミステリベスト10の1位になるなど、一般受けしつつも、本格ミステリマニアのあいだでも相変わらず高く評価されています。

中島らも
劇作家・コラムニストとして活躍していましたが、小説もちょこちょこと書いていました。短編に傑作が多いのですが、推理作家協会賞を受賞した「ガダラの豚」(1993年)は、これ以上面白い小説というものはこの世にないのでは?とまで思ってしまうくらい、波瀾万丈、ハチャメチャな大エンターテインメント。筆者は文庫化されたときに全3巻まとめて買ったのですが、1巻目のみ持って旅行へ出かけてしまい、電車の中であっという間に読み終え、続きを我慢できずに旅先で2巻、3巻を買い直しました。

小野不由美
十二国記などで知られるベストセラー作家。ホラー小説「屍鬼」(1998年)や、ホラーミステリ「黒祠の島」(2001年)は、ミステリ読者必読です。

乃南アサ
第一回日本推理サスペンス大賞の優秀作に入選してデビュー。「凍える牙」(1996年)、「結婚詐欺師」(1996年)などのエンターテインメント作品で人気を博しています。

宮部みゆき
これまたいわずとしれた大ベストセラー作家。松本清張から社会派を、山本周五郎から人情話を引き継ぎ、エンターテインメント作品を量産しています。ミステリ関係の代表は「魔術はささやく」(1989年)、「火車」(1992年)、「模倣犯」(1995年)、「理由」(1996年)あたりでしょう。

帚木蓬生
帚木蓬生は冒険小説のリストへ入れようか迷いましたが、冒険小説ファンよりは、どちらかという一般読者の方が多いかな、という印象でこちらのリストへ入れました。歴史や医療が得意なテーマで「三たびの海峡」(1992年)「逃亡」(1997年)などが代表作でしょう。

鈴木光司
たくさん小説を書いていますが、やはり「リング」(1991年)のインパクトに尽きるでしょう。日本のホラー小説の起爆点となっただけでなく、映画版はその後大ブームとなったJホラーの原点となりました。「らせん」「ループ」も筆者はリアルタイムの読者として熱心に読みましたが(サイン会にも駆けつけた)、今は忘れられつつあるような印象。

井上夢人
岡嶋二人解散後、「ダレカガナカニイル…」(1992年)でソロデビューしてから井上夢人名義で活躍しています。
岡嶋二人を「本格編」へ入れたのに、なぜ井上夢人は「エンタメ編」?と思われるかも知れませんが、SF要素を加え、超絶技巧を駆使した作風に転換し、本格ミステリとは言い難くなっているように感じるからです。「オルファクトグラム」(2000年)がその代表作。最近の「ラバー・ソウル」(2012年)はベストセラーになっています。

恩田陸
ホラー小説「六番目の小夜子」(1992年)でデビューし、「三月は深き紅の淵を」(1997年)でミステリファンのあいだでの評価が決定的となりました。その後もコンスタントに話題作を発表し、「夜のピクニック」(2004年)と昨年の「蜜蜂と遠雷」で本屋大賞を2度受賞するなど、ミステリファンだけでなく広く読書好きに支持されています。

浅田次郎
紹介するまでもない、現代を代表する「文豪」と言ってよいでしょう。デビュー当初は「元自衛官・元ヤクザ」という触れ込みで、うさん臭さ全開。しかし「プリズンホテル」(1993年)などの「ヤクザ小説」のあまりの面白さにあっという間にベストセラー作家となり、今や日本ペンクラブ会長です。
「蒼穹の昴」(1996年)シリーズがライフワークとなっています。

貫井徳郎
デビュー作「慟哭」(1993年)は当初からミステリファンのあいだでは高評価でしたが、文庫化された際に大ブレイク、その後もロングセラーとなっています。代表作といえる作品が多く、ファンによって挙げるタイトルが異なってくると思いますが、ここでは「愚行録」(2006年)を挙げておきます。

桐野夏生
サスペンス小説の書き手として国際的に評価されています。乱歩賞でデビュー後、「OUT」(1997年)でブレイク。ハードボイルドタッチの作風から男性作家と勘違いしている人もたまにいますが、女性です。この人も代表作といえる作品が多いのですが、ここでは「柔らかな頬 」(1999年)をご紹介しておきます。

天童荒太
出世作「家族狩り」(1995年)はスプラッタホラーとして売り出され、筆者も当時はゲテモノ作家だと思って敬遠していましたが、やはりちゃんと読んできちんと評価する人がいるもので、あんな表紙の本で山本周五郎賞を受賞。その後、「永遠の仔」(1999年)で大ブレイク。「家族狩り」も文庫化の際にはまるきり別物に改装されました。

森博嗣
第一回メフィスト賞を「すべてがFになる」(1995年)で受賞。当初からミステリファンのあいだで熱狂的に支持されていましたが、やがてミステリ以外にも作風を広げ、ベストセラー作家となっています。

乙一
「夏と花火と私の死体」(1996年)で17歳でデビュー。「GOTH」(2002年)、「銃とチョコレート」(2006年)など話題作をコンスタントに発表しています。山白朝子、中田永一など別名義でも作品を発表しています。

奥田英朗
ミステリ作家というイメージはあまりなく、エンターテインメント小説の書き手としか言いようがないのですが、このミスによく選ばれるためリストへ入れておきます。「最悪」(1999年)「オリンピックの身代金」(2008年)が代表作。

貴志祐介
「黒い家」(1997年)で日本ホラー小説大賞を受賞。ホラー小説のほか、本格ミステリの「硝子のハンマー」(2004年)、SFの「新世界より」(2008年)など、幅広いエンターテインメントを次々発表しています。

乾くるみ
メフィスト賞を受賞後、しばらくは本格ミステリファン向けの作品を発表していましたが、「イニシエーション・ラブ」(2004年)がベストセラーとなって一般読者にも大ブレイク。映画化もされました。

山田宗樹
横溝正史賞を受賞してデビュー。ミステリにこだわらない幅広い作品を発表しています。あまりにいろいろな作風を披露しているため代表作を絞るのが難しいのですが、映画化もされた「嫌われ松子の一生」(2003年)をここではあげておきます。

池井戸潤
いわずとしれた大ベストセラー作家。乱歩賞でデビューしてしばらくはそれほど売れている雰囲気はなかったのですが、ブレイクしたのは「空飛ぶタイヤ」(2006年)あたりからでしょうか。ドラマ「半沢直樹」の原作となった「オレたちバブル入行組」(2004年)や、「鉄の骨」(2009年)、「下町ロケット」(2010年)など、ここ数年次々ドラマ化され、新作が出ると必ずベストセラーになっています。

高見広春
「バトル・ロワイアル」(1999年)一作しか発表していないのですが、ミステリ界のみならず、世間一般でも広く読まれました。ホラー、アクション、青春、恋愛と、エンターテインメントの全てをぶち込んだような小説で、筆者も何度も読み返したものですが、あまりに偉大な作品でデビューしてしまったプレッシャーからなのか、あるいは全てを書き尽くした満足感からなのか、この一作きりで終わっています。

伊坂幸太郎
新潮ミステリ倶楽部賞を受賞したデビュー作「オーデュボンの祈り」(2000年)は、あまりに馬鹿げた設定の本格ミステリで、いったい何を考えているんだこの人は、と強烈な印象が残ったものですが、まさかその後、今のようなベストセラー作家になるとは想像もできませんでした。
「重力ピエロ」(2003年)「アヒルと鴨のコインロッカー」(2003年)とガラリと作風が変わり、エンターテインメント好きに人気を博すようになりました。人気作品はたくさんありますが、代表作を絞るならやはり本屋大賞・山本周五郎賞を受賞した「ゴールデンスランバー」(2007年)かなと思います。

舞城王太郎
「煙か土か食い物」(2001年)でメフィスト賞を受賞してデビュー。三島由紀夫賞を受賞するなど、純文学方面でも高く評価されています。「ディスコ探偵水曜日 」(2008年)で、久しぶりにミステリの世界へ復帰。

米澤穂信
デビューしてしばらくは「インシテミル」(2007年)本格ミステリファンに支持されていましたが、今や広くエンターテインメント好きに読まれるベストセラー作家です。「満願」(2014年)で山本周五郎賞受賞。

さて、そろそろ書くのが疲れてきたので、以下の作家の紹介文は省略。
いずれも現在、非常によく売れている作家さんたちなので、今さら筆者が紹介するまでもなく、ググってもらえば、もっと良い紹介記事が見つかりますよ! という身もふたもないことを書いて、オシマイにします。

柳広司
「ジョーカー・ゲーム」(2008年)

朱川 湊人
「かたみ歌」(2005年)

桜庭一樹
「赤朽葉家の伝説」(2006年)
「私の男」(2007年)

辻村深月
「凍りのくじら」(2005年)
「鍵のない夢を見る」(2012年)

道尾秀介
「向日葵の咲かない夏」(2005年)
「シャドウ」(2006年)
「カラスの親指」(2008年)

薬丸岳
「友罪」(2013年)

海堂尊
「チーム・バチスタの栄光」(2006年)

近藤史恵
「サクリファイス」(2007年)

湊かなえ
「告白」(2008年)

飴村行
「粘膜人間」(2008年)

小林泰三
「アリス殺し」(2013年)

国内名作ミステリ必読リスト(ハードボイルド編・解説)

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先日掲載した「国内名作ミステリ必読リスト50(ハードボイルド・冒険小説・警察小説編)」の解説記事です。

ジャンル分けについては「名作ミステリ必読リストについて」に書いたとおりですが、今回も掲載する作家の選択基準をまずご説明します。
このリスト「本格ミステリ編」と同じく、単に面白い小説を求めている読者よりも、「ミステリマニア養成講座」を目指しています(ただしこちらも初心者向け)。したがって、ミステリの歴史における価値を最重視しています。
「本格ミステリ編」と「ハードボイルド編」との違いは、一般論として「ハードボイルド作家」「冒険小説作家」と認識されているかどうかで分けています。厳密な定義はありません。
例えば結城昌治は「ひげのある男たち」「長い長い眠り」など初期はユーモアミステリと呼ばれ、本リストでは「本格ミステリ編」へ分類されるべき作品ですが、現在では結城昌治といえばハードボイルドの草分けとして評価が最も高いものになっています。
とはいえ、本格ミステリもハードボイルドも「謎解き」が主眼であることに違いはなく、本格ミステリもハードボイルドも等しく愛しているミステリ読者や作家は大勢います。
なんとなく、という分類しかできないため、異論はあるかもしれません。

大藪春彦
乱歩の推挽を得て「野獣死すべし」(1958年)でデビュー。「蘇える金狼」(1964年)など、数多くのベストセラーを書いています。しかし、今は著作のほとんどが入手困難で、「蘇る金狼」まで新刊本で手に入らないというのは困ったものだと思います。

結城昌治
個人的にはユーモアミステリの「ひげのある男たち」(1959年)などの方が好きなのですが、「暗い落日」(1965年)に始まる真木シリーズは国産ハードボイルドの草分けとされ、今も熱心なファンがたくさんいます。
スパイ小説「ゴメスの名はゴメス」(1962年)は迫真の展開の中にも、結城昌治らしいユーモアが随所に現れています。「夜の終わる時」(1963年)では悪徳警官小説の先駆けとなり、推理作家協会賞を受賞しました。

高城高
国産ハードボイルド草分けの一人でありながら、短編がメインだったためか、ほとんど忘れられていました。2006年に仙台の出版社「荒蝦夷」が「X橋付近」(1955年)を復刊したことから人気が再燃し、その後、創元推理文庫から作品集が刊行されています。

河野典生
河野典生はハードボイルドらしいハードボイルドは推理作家協会賞を受賞した「殺意という名の家畜」(1963年)くらいで、ほかに幅広い作風を披露しましたが、結局、今はハードボイルド作家として名を残しています。

生島治郎
日本のハードボイルド・冒険小説の祖とされています。「黄土の奔流」(1965年)は中国大陸を舞台とした日本初の本格的な冒険小説で、いま読んでも大興奮の傑作です。ハードボイルド刑事小説「追いつめる」(1967年)で直木賞を受賞しました。

中薗英助
スパイ小説「密航定期便」(1972年)が有名ですが、今やほとんど忘れられています。

小鷹信光
翻訳家ですが、日本のハードボイルド史を語る上で絶対に外せない名前です。オリジナル小説は「探偵物語」(1979年)のみ。これは松田優作主演テレビドラマの小説版です。一応、原案ということになっていますが、ドラマとは全く違うシリアスなハードボイルドです。

船戸与一
日本の冒険小説において最も巨大な存在。
中途半端な紹介文は書けません。

逢坂剛
「カディスの赤い星」(1986年)など冒険小説をメインに活躍していますが、「百舌の叫ぶ夜」(1986年)は驚愕のサスペンス小説として、以前からファンのあいだでは人気がありました。最近、ドラマ化されたことでシリーズ全体がベストセラーになりました。

志水辰夫
長らく新作を見ず、事実上の引退状態であるうえ、旧作もほとんど手に入りませんが、「飢えて狼」(1981年)、「裂けて海峡」(1983年)は80年代冒険小説のまさに必読書。シミタツ節と呼ばれた独特の作風は圧倒的な人気を誇っていました。このミス1位となった「行きずりの街」(1990年)はハードボイルドの名作として、いまもよく読まれています。

北方謙三
今や「三国志」「水滸伝」のイメージの方が強くなってしまい、それはそれで良いのですが、かつては「逃がれの街」(1982年)、「檻」(1983年)など、80年代冒険小説ブームの担い手の一人でした。

大沢在昌
「新宿鮫」(1990年)発表以来、不動のベストセラー作家です。2作目の「毒猿 新宿鮫II」(1991年)がシリーズのみならず、著者の代表作と言って良いでしょう。個人的には「天使の牙」(1995年)がいちばん好きです。90年代中頃の大沢在昌は本当にどれもこれもすさまじい面白さでした。

佐々木譲
幅広い作品を発表していますが、柱はやはり冒険小説と警察小説でしょう。このミスの常連作家です。
「ベルリン飛行指令」(1988年)、「エトロフ発緊急電」(1989年)などの太平洋戦争シリーズはジャック・ヒギンズに比肩しうる日本冒険小説の最高峰。警察小説では「警官の血」(2007年)が代表作です。

原尞
あまりに寡作で、新作が出ただけで話題を独占をしてしまう作家ですが、それにしてももう10年以上新作が出ていない状態で、もう書かないんでしょうか。「そして夜は甦る」(1988年)でデビュー。「私が殺した少女」(1989年)で直木賞受賞。「このミス」が始まった頃は、原尞の時代でした。チャンドラーの影響を強く受けた作風ですが、謎解きの要素も強く、本格ミステリファンからも熱心に支持されています。

稲見一良
癌と闘病しながら非常に短い作家生活でしたが、「ダック・コール」(1991年)などは非常に高く評価され、今も読み継がれています。

高村薫
高村薫は「エンターテインメント編」へ入れた方がよかったかな、とも思いますが、かつてのミステリファンからの熱狂的な支持を考えると、やはりハードボイルド編へ。とはいえ、ご本人はミステリというジャンルには愛はないと公言し、物議をかもしたこともありました。「マークスの山」(1993年)、
「レディ・ジョーカー」(1997年)でそれぞれ「このミス」1位。


樋口有介
ソフトな印象のハードボイルド「彼女はたぶん魔法を使う」(1990年)でブレイク。ストーリーそのものよりも作品世界が愛されているように感じます。

真保裕一
幅広いエンターテインメントを発表していますが、徹底した取材に基づく作風で知られています。「ホワイトアウト」(1995年)で大ブレイク。「奪取」(1996年)は偽札造りの物語ですが、これも圧倒的な筆力でハマります。

藤原伊織
「テロリストのパラソル」(1995年)は乱歩賞と直木賞をダブル受賞した史上唯一の作品。

藤田宜永
今もコンスタントに力作を発表していますが、代表作となるとやはり「鋼鉄の騎士」(1995年)でしょうか。この頃の新潮ミステリ倶楽部は冒険小説の牙城といった雰囲気がありました。

馳星周
本名で書評活動を行っていましたが、「不夜城」(1996年)で作家デビュー。これを読むと「新宿鮫」の新宿が安全な場所に思えてしまう、と言われた、ノワール小説の第一人者です。山田風太郎の大ファンで、対談もしていますが、その後、山田風太郎の別のインタビューで「馳星周?覚えてないね」などと言われているのを読んで、気の毒でならなかった……というのが、個人的にはこの作家について最も印象に残っているできごとです。

黒川博行
数年前に、「疫病神」(1997年)シリーズの新作で直木賞を受賞しましたが、もう30年以上も活躍している大ベテランです。昔はもうちょっと爽やかなサスペンスの書き手という印象でしたが、いつの間にかコテコテ大阪弁のハードボイルドが代表作になっていました。

横山秀夫
現在の警察小説の第一人者。いずれの作品も非常に人気がありますが、「半落ち」(2002年)と「64」(2012年)が今のところ代表作でしょう。

福井晴敏
ミステリのカテゴリに入れてしまってよいのか?と思うくらい、ここ最近はガンダム関係の活動ばかり目立っていますが、デビューは乱歩賞です。個人的に「亡国のイージス」(1999年)の映画が大好きなのですが、さらにいえば、DVDの映像特典の中で、イージス艦を喜々として見学している福井晴敏の姿が大好きです。

さて、「本格ミステリ編」と同様、2000年代以降の解説は省略します。ハードボイルド・冒険小説・警察小説というジャンルで今もっとも活躍している作家、人気のある作品はこのあたりでしょう。
今まさにブレイク中で、今後もさらに人気があがっていくことが予想されるのは柚月裕子ですね。

垣根涼介
「ワイルド・ソウル」(2003年)


高野和明
「ジェノサイド」(2011年)


今野敏
「果断 隠蔽捜査2」(2007年)


月村了衛
「機龍警察」(2010年)


柚月裕子
「孤狼の血」(2015年)

国内名作ミステリ必読リスト(本格ミステリ編・解説)

201706占星術殺人事件088

先日掲載した「 国内名作ミステリ必読リスト(本格ミステリ編)」の解説記事です。

ジャンル分けについては前回記事「名作ミステリ必読リストについて」に書いたとおりですが、では、掲載する作家はどのように選択したか。
前回記事にも書いたとおり、このリストは単に面白い小説を求めている読者よりも、「ミステリマニア養成講座」を目指しています(初心者向け)。したがって、ミステリの歴史における価値を最重視しています。
「面白い」ということも基準の一つであることは確かですが、それよりも「後世へどれほど強い影響を与えたか」ということを意識しました。影響が強ければ強いほど、ミステリの歴史においては重要ということになります。
リスト終盤は90年代から2000年代にデビューした作家たちとなり、この方たちはまだ「後世へ影響を与える」ということはできていません。したがって逆に「過去の本格ミステリから強い影響を受けている」と考えられる作家、そしてまた、毎年恒例の「本格ミステリ・ベスト10」などで重要視されている作家を選びました。

黒岩涙香
日本初のミステリとしてたびたび言及されるのが黒岩涙香の「無惨」(1889年)です。
また、涙香は海外文学の翻案で知られ、乱歩に多大な影響を与えました。
当ブログ関連記事:「灰色の女」から乱歩版「幽霊塔」への伝言ゲーム

小酒井不木
乱歩の師匠のような存在です。乱歩のデビュー作「二銭銅貨」に推薦文を寄せました。自ら創作を始めるのは乱歩のデビュー後ですが、「疑問の黒枠」(1927年)は日本初の長編本格ミステリとされています。

江戸川乱歩
紹介するまでもない巨大な存在です。今回のリストでは新旧の『東西ミステリーベスト100』にランクインしたものを掲載しました。
当ブログ関連記事:カテゴリ「江戸川乱歩」

横溝正史
日本の本格ミステリを語る上で絶対に欠かせない存在。議論の余地なく必読の作家です。
今回のリストは、乱歩と同じく新旧『東西ミステリーベスト100』ランクイン作品に加え、筆者が本格ミステリとして高く評価している「悪魔が来りて笛を吹く」を掲載しました。
当ブログ関連記事:
「犬神家の一族」は本格か?
横溝正史「悪魔が来りて笛を吹く」の舞台をGoogleストリートビューで巡る
映画「悪霊島」のロケ地をGoogleストリートビューで巡る

甲賀三郎
戦前に「本格派」と呼ばれた作家です。短編の代表作「琥珀のパイプ」(1924年)は簡単に読めますが、長編の代表作「姿なき怪盗」(1932年)は長らく文庫では出ておらず、読むがなかなか難しい状況です。筆者は春陽文庫版を古本屋で買って読みました。
創元推理文庫か、河出文庫か、ちくま文庫が復刊するべき。

角田喜久雄
角田喜久雄はミステリよりも「髑髏銭」など時代小説が有名で、今も読まれていますが、ミステリ史においては戦後すぐに「高木家の惨劇」(1947年)を発表したことが特筆されています。横溝正史の「本陣殺人事件」「獄門島」などと同時期の本格ミステリです。

夢野久作
いわずとしれた日本三大奇書の一つ「ドグラ・マグラ」(1935年)の著者。
他にも有名な短編がたくさんありますが、とりあえずはこれを読んでおけばOKでしょう。

浜尾四郎
戦前においては珍しい理知的・論理的な本格探偵小説「殺人鬼」(1931年)で知られています。
ヴァン・ダインから影響を受けたと公言する作家は戦前戦後現代を通じて数多くいますが、最も良い影響を受けているのが浜尾四郎でしょう。

小栗虫太郎
日本三大奇書の一つに数えられる「黒死館殺人事件」(1934年)の著者。
いろいろな版が出ていますが、筆者としてはデビュー作「完全犯罪」(1933年)も一緒に読めるうえ、雑誌連載時の挿絵も掲載されている創元推理文庫版がオススメです。

久生十蘭
「小説の魔術師」とも呼ばれた作家で、いろいろなジャンルの小説を執筆しており、国書刊行会から「定本久生十蘭全集」が出ているので、その気になればすべての作品を読めます。
ミステリ的には「顎十郎捕物帳」(1939年)は謎の提示と解明に主眼を置いた本格探偵小説として知られています。また「魔都」(1948年)は、「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」に比肩する戦前を代表する長編探偵小説とされています。

蒼井雄
「船富家の惨劇」(1935年)は、これも戦前では数少ない本格ミステリで、クロフツの影響を受けて書かれたといわれています。この作品はやがて鮎川哲也へ影響を与えます。


大阪圭吉
戦前を代表するトリックメーカー。20年ほど前にちょっとした大阪圭吉ブームがあり、本格ミステリ好きは誰も彼もが読んでいたものですが、創元推理文庫から出ていた短編集はいつの間にか品切れになっており、ブームは終わってしまったんだなあ、と感じます。代表作「とむらい機関車」(1936年)は、まだ『日本探偵小説全集12 名作集2』で読めます。


坂口安吾
ミステリ専業作家ではありませんが、無類の本格ミステリファンとして知られ、いくつかの名作を残しています。「不連続殺人事件」(1947年)が中でも最も有名。創元推理文庫版では雑誌連載時に他のミステリ作家へ喧嘩を売りまくっていた雑文が一緒に収録されており、楽しめます。

高木彬光
戦後デビューの本格ミステリ作家として最重要の作家です。代表作は今も光文社文庫がしっかりフォローしてくれています。本格ミステリ以外にも幅広い作品を執筆しており、個人的に一番好きなのは「白昼の死角」(1959年)なのですが、これは本格ではないですね。

山田風太郎
忍法帖など時代小説が有名ですが、本格ミステリの読者からも熱狂的に支持されています。ここのリストにあげた「妖異金瓶梅」(1954年)、「十三角関係」(1956年)、「明治断頭台」(1979年)あたりはミステリ好きは必読かと思います。

土屋隆夫
本格ミステリ冬の時代であった昭和30~40年代にも黙々と本格を発表し続けた貴重な存在。
地に足の着いた現実的な作風ですが、論理的な謎解きが楽しめます。「危険な童話」(1961年)や「影の告発」(1963年)など、代表作は過去に何度も何度も文庫になっているのですが、今はすべて品切れとなっており、このまま忘れられてしまうのはいかがなものかと危惧しています。

岡田鯱彦
本業は国文学者であり、源氏物語の世界を舞台にした代表作「薫大将と匂の宮」(1955年)で知られています。

鮎川哲也
乱歩の事実上の引退と時を同じくしてデビューし、新本格の登場まで、社会派ミステリ最盛期の時代に、ひたすら本格ミステリにこだわり続けた伝道師。現代のミステリ作家のあいだでは神格化されている存在です。「黒いトランク」(1956年)、「黒い白鳥」(1959年)、「りら荘事件」(1968年)などの代表作は過去にあちこちの文庫へ収録されていますが、今は創元推理文庫と光文社文庫とで読めます。

仁木悦子
初めて一般公募を行った第三回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。「猫は知っていた」(1957年)など軽やかで論理的な作風で今も親しまれています。

福永武彦
ミステリ専業作家ではありませんが、「加田伶太郎」のペンネームで探偵「伊丹英典」の活躍する短編を発表しました。

日影丈吉
「宝石」でデビューしていますが、どちらかというと幻想小説の書き手という印象の強い作家です。「内部の真実」(1959年)は戦地を舞台にした本格ミステリの傑作として知られています。

佐野洋
都筑道夫との「名探偵論争」がよく知られています。かつては数多くの小説を発表していた人気作家でしたが、今やほとんど忘れられてしまっているのが残念です。「轢き逃げ」(1970年)は今読んでも面白い、佐野洋の作風を代表する傑作です。

戸板康二
本業は歌舞伎の評論家ですが、乱歩の推薦でミステリも発表していました。
「團十郎切腹事件」(1959年)、「グリーン車の子供」(1976年)がよく知られていますが、のちの北村薫などにつながる「日常の謎」の先駆者です。中村雅楽という歌舞伎役者が名探偵として登場します。

小泉喜美子
幅広い作風で知られていますが、現代においては「弁護側の証人」(1963年)が本格ミステリの名作として読み継がれています。

笹沢左保
大変な多作家であり、時代小説やサスペンス小説でよく知られているため、現代の読者には笹沢左保が本格ミステリ作家といわれてもピンとこないかも知れませんが、デビュー当初は、綾辻行人を遡ること30年近く前に「新本格派」と呼ばれ、非常にトリッキーな作品を次々発表していました。デビュー作「招かれざる客」(1960年)などが有名です。

陳舜臣
歴史小説の大家というイメージがありますが、デビューは乱歩賞を受賞したミステリ「枯草の根」(1961年)であり、初期は端正な本格ミステリを発表していました。この頃の作品を今はほとんど読めないのが残念です。

都筑道夫
鮎川哲也や土屋隆夫を並び、社会派ミステリの時代を生き抜いた本格派ですが、トリッキーで実験的な作風でミステリの人工性を徹底的に楽しんでいました。特に「猫の舌に釘をうて」(1961年)や「七十五羽の烏」(1972年)などは伝説的な存在と言ってよく、現代のミステリ作家にも多大な影響を与えています。「血みどろ砂絵」(1968年)など、論理的な短編も数多く発表しました。
「なめくじに聞いてみろ」(1968年)は、本格ミステリではなくアクション小説ですが、筆者が個人的に偏愛しているためリストへ加えています。法月綸太郎『生首に聞いてみろ』のタイトルの元ネタです(内容は全く関係ありません)。

天藤真
ユーモアミステリの第一人者。数多くの長編を発表していますが、今も読まれているのは「大誘拐」(1978年)くらいでしょうか。しかし、これは名作中の名作として、国産ミステリのベストを選ぶときには必ずあがってくるタイトルです。筆者も中学生の頃に大興奮して読みました。

中井英夫
日本三大奇書の一つとされる「虚無への供物」(1964年)の著者。三大奇書の中では最も読みやすく、作中で実在のミステリ作家に言及するなど、前半はミステリ愛に溢れているかのように見えます。
しかし、作者の狙いは「アンチミステリ」であり、後半は悲壮な展開となります。
講談社文庫と創元ライブラリから出ていますが、解説がしっかりしている創元ライブラリ版をおすすめします。いやそれどころか、創元ライブラリの解説を読まなければこの作品は完結しない、と言っても良いくらいです。

竹本健治
さて、この辺りから「現代ミステリ作家」になってきます。「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」「虚無への供物」に続く「第四の奇書」とされる「匣の中の失楽」(1978年)は、著者のデビュー作であり、今や幻といわれる探偵小説専門雑誌「幻影城」に連載されたものです。今も本格ミステリ好きのあいだではバイブルとされています。
「ウロボロスの偽書」(1991年)はミステリとは言い難い異形の物語ですが、著者の周囲の本格ミステリ作家が実名で大勢登場し、ミステリ好きにはその辺りも興味深く楽しめる作品です。
当ブログ関連記事:竹本健治を初めて読む方へおすすめの本を紹介

泡坂妻夫
竹本健治や連城三紀彦と同じく、雑誌「幻影城」からデビューしました。
筆者が最も崇拝しているミステリ作家です。
特に「亜愛一郎の狼狽」(1978年)にはじまる亜愛一郎シリーズは何度読み返したことか!
こんな記事も書いていますので、シリーズを読了された方はご覧ください。
関連記事:亜愛一郎辞典

笠井潔
幻影城作家とほぼ同時期に長編「バイバイ、エンジェル」(1979年)でデビューし、その後も「本格」に強くこだわったミステリを発表し続けています。評論活動も活発に行い「大戦間ミステリ」「本格ミステリ第三の波」などの用語を提唱しています。

連城三紀彦
一般的には恋愛小説で知られていますが、デビューは幻影城新人賞であり、凝った作風のミステリを数多く発表しており、熱狂的な読者が大勢います。「幻影城」発表作品を中心とした短編集「戻り川心中」(1980年)は、現代ミステリにおいて必読の名編が並びます。ほかにどんでん返しだらけの「夜よ鼠たちのために」(1983年)などが代表作。

島田荘司
現代本格ミステリにおける最重要作家。初期は読者の度肝を抜く大掛かりなトリックを連発し、日本中のミステリマニアを虜にしました。島田荘司を超えるトリックメーカーは後にも先にも、国内はもちろん海外を見渡しても見当たらないように思います。うっかりすると島田荘司の作品ばかりでリストが埋まりかねないため、「後発の作家へ特に強い影響を与えた作品」ということで「占星術殺人事件」(1981年)、「斜め屋敷の犯罪」(1982年)、「北の夕鶴2/3の殺人」(1984年)、「奇想、天を動かす」(1989年)の4作品を選びました。
当ブログ関連記事:
島田荘司「異邦の騎士」の舞台をGoogleストリートビューで巡る
大予測! 島田荘司『樹海都市』収録作品

岡嶋二人
島田荘司と同時期にデビューし、新本格登場前夜に活躍しました。徳山諄一と井上泉の合作ペンネームであり、平成元年にコンビ解消後は井上泉は井上夢人と改名し、ミステリを書き続けています。デビューは「焦茶色のパステル」(1982年)で乱歩賞受賞。本格というジャンルに強くこだわるわけではありませんが、トリック重視の作風は本格好きに支持されました。「99%の誘拐」(1988年)は誘拐ミステリの傑作、そして当時の最先端ハイテク技術を駆使した実験作として、今も人気があります。

綾辻行人
いよいよ新本格の時代です。
綾辻行人デビューから30年経つのに未だに「新本格」もないんじゃないか、とか、講談社ノベルスだけの宣伝文句なのでは、とか、そもそも「新本格派」と括られることに抵抗している作家も多かったりと、この用語はいろいろ議論が絶えませんが、筆者としてはこの時代を象徴する言葉として「新本格」はふさわしいものだと思っています。
綾辻行人も代表作と言える作品は多いのですが、今回は新版「東西ミステリーベスト100」にランクインしたものをそのまま掲載しています。

法月綸太郎
新本格と呼ばれる作家たちの中で、最も「本格」に強くこだわっているのが法月綸太郎です。その姿勢はかつては評論にも現れていました。
ところが! なんと数年前に集計された新版「東西ミステリーベスト100」には法月綸太郎が一つもランクインしていないのです。驚愕しました。
どの作品も安定しており、特別突出した作品がないため票がバラけたのではないかと思われますが、この結果を見たときには「もう一度、投票をやり直してください!」と文藝春秋へ電話をかけたくなりましたね。
思うに、これは本名にも問題があると思います。法月綸太郎の本名は山田純也さんというのですが、山田風太郎の本名は山田誠也で、よく似ています。そして、山田風太郎は前回、旧版の「東西ミステリーベスト100」で一つもランクインしなかったのです。当時は角川文庫や現代教養文庫でなどで、代表作をいくらでも読むことができたにもかかわらず。この現象は、二人の本名が似ていることに原因があるのではないかと筆者としてはニラんでいるのですが……というのは、もちろん単なる暴言です。

歌野晶午
綾辻行人や法月綸太郎と同時期に講談社ノベルスから島田荘司の推薦でデビューし、押しも押されもせぬ新本格の一人です。初期から本格好きのあいだでは評価されていましたが、「葉桜の季節に君を想うということ」(2003年)の発表を機に、一般にも読者層が広がりました。

折原一
個人的には叙述トリックのみで成り立つ作品を本格ミステリとは考えていないのですが、しかし折原一の作品は好きです。あまりのストーリーテリングの上手さに、叙述トリックが仕込まれているとわかっていても騙されます。この作家も代表作は多いのですが、とりあえず「倒錯のロンド」(1989年)と
「沈黙の教室」(1994年)を掲載しました。

我孫子武丸
綾辻行人、法月綸太郎に続いて講談社ノベルスからデビューし、新本格の一人とされていますが、幅広い作風を披露しています。「殺戮にいたる病」(1992年)はサイコホラーと叙述トリックを組み合わせたもので、発表当初は「無責任社会派」などとも呼ばれたりしましたが、代表作とされています。

山口雅也
北村薫、有栖川有栖らとともに東京創元社からデビューした山口雅也は当初は「新本格」とは呼ばれていなかったのですが、今はごっちゃになっている印象ですね。
山口雅也も本格愛に満ちた作家で、決して大衆に迎合しない孤高の作風を守っている印象があります。デビュー作「生ける屍の死」(1989年)は死者が蘇る世界において論理的な本格ミステリを構築するという実験作ですが、見事に成功をおさめ、東京創元社が選んだ70年代以降の日本ミステリランキングで1位、このミスの「ベスト・オブ・ベスト」で2位など、現代日本ミステリの最高傑作とされています。

北村薫
覆面作家としてデビューした北村薫は、「空飛ぶ馬」(1989年)に始まる「円紫さんシリーズ」で「日常の謎」の代名詞となりました。
実は女性ではなくおじさんだったと判明したのちは、実作以外にも本格ミステリの語り部としてアンソロジーの編纂などでも活躍しています。創元推理文庫の「日本探偵小説全集」は作家デビュー前の北村薫が編集したもので、以前は編纂者として本名が記載されていましたが、現在では北村薫名義になっています。

有栖川有栖
「孤島パズル」(1989年)で東京創元社からデビューしたため、当初は「新本格」とは呼ばれていなかったのですが、今や綾辻行人と並ぶ新本格を代表する作家と認識されています。さまざまな作風を披露していますが、柱となっているのは、クイーンや鮎川哲也の影響を受けたガチガチの論理ミステリです。「双頭の悪魔」(1992年)がやはり代表作でしょう。

芦辺拓
第一回鮎川哲也賞を受賞してデビューしました。本格ミステリを数多く執筆しており、代表作を絞りづらいのですが、ここでは「グラン・ギニョール城」(2001年)をご紹介しておきます。


麻耶雄嵩
この辺りから「新本格第二世代」と呼ばれる作家たちになります。麻耶雄嵩はその代表格でしょう。
デビュー作「翼ある闇」(1991年)を始めとして、「本格ミステリ」にあまりに強くこだわるあまりに異形な作品を数々発表しています。
当ブログ関連記事:原作解説!「貴族探偵」はなぜ推理をしないのか?


二階堂黎人
二階堂黎人は黄金期本格への愛を強く表明し続ける作家です。初期の代表作のほとんどが品切れになっている現状が残念ですが、世界最長の本格ミステリといわれる「人狼城の恐怖」(1996年)を紹介しておきます。

加納朋子
第3回鮎川哲也賞を「ななつのこ」(1992年)で受賞してデビュー。「日常の謎」に分類される内容で、デビュー作を読んだ時は「北村薫のパクリか?」と思ってしまったものですが、その後は幅広い作風を展開し、一般読者からも人気を得ています。

京極夏彦
このリストを作るにあたって京極夏彦は「エンターテインメント編」へ入れようかとも思ったのですが、あれこれ悩んだ挙句、結局「本格ミステリ編」へ。京極作品が本格か?と問われるとYesとは言い難いのですが、それでもやはり「必読の本格ミステリ」から京極作品を外すわけにはいきません。
何の解説にもなっていないのですが、日本ミステリの歴史において、ある時代をスタートさせた人物、つまり先達から受けた影響よりも遥かに大きな影響を、後進へ与えた人物を挙げるとするならば、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張、島田荘司、京極夏彦ということになるかと思います。

倉知淳
作品の雰囲気は、もっと一般受けしてもよさそうな読みやすいものなのですが、あまりに寡作のため本格ミステリのファン以外にはなかなか覚えてもらえない。そんな印象があります。とはいえ、デビューしてから20年以上経ち、作品数はけっこう多くなっています。どの作品も本格ですが、特に「星降り山荘の殺人」(1996年)は都筑道夫「七十五羽の烏」へのオマージュ作品として話題になりました。

西澤保彦
個人的な印象ですが、最も脳天気に「本格ミステリ」を遊んでいるのが西澤保彦です。いや、これだけ奇天烈なアイデアを生みだすのは、ご本人にしたら大変なことだろうと思いますが、本格ミステリの可能性を徹底的に追求しているにもかかわらず、「ガチガチの」という形容詞は全く無縁に自由自在にやりたいことをやっていて、とても楽しめます。初期作品は必読書揃いですが、「七回死んだ男」(1995年)がやはり代表作でしょう。

さて、以下は2000年以降に活躍を始めた作家さんたちで、未だミステリ史的な評価というものはありませんので、コメントは省略します。ただ、現代の本格ミステリがどうなっているのかを知るには、この辺が必読かな、と思います。
この中で個人的に注目しているのは森川智喜です。ライトノベル風の装丁が多いため、スルーしている方も多いかも知れませんが(筆者も「スノーホワイト」が本格ミステリ大賞をとるまではそうでした)、アクロバティックな論理ゲームと、ユーモアに満ちたストーリーテリングは近年の若手作家で随一だと思います。

殊能将之
「ハサミ男」(1999年)

大倉崇裕
「福家警部補の挨拶」(2006年)

大山誠一郎
「アルファベット・パズラーズ」(2004年)

三津田信三
「厭魅の如き憑くもの」(2006年)

円居挽
「丸太町ルヴォワール」(2009年)

森川智喜
「スノーホワイト」(2013年)
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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