備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

巌窟王

ドラマ「モンテ・クリスト伯」登場人物名は原作をどう生かしているか。

ドラマ「モンテ・クリスト伯」について、前回の記事(原作ファンとしてドラマ「モンテ・クリスト伯」を擁護する)は第2回までの感想でしたが、第3回も原作ファンもニヤリとさせるシーン満載で、とても楽しめました。

その話の前に、登場人物名について気づいたことを書いてみます。
19世紀フランスを舞台にした原作を現代日本へ置き換えるに当たり、役名はもちろん全員、日本名になっていますが、なかなかうまく原作の人物名を活かしています。(原作の名前の表記は翻訳によって違うため、ここではWikipediaに準じています)

エドモン・ダンテス  → 柴門暖(さいもんだん
ファリア神父  → ファリア真海(ふぁりあしんかい)
フェルナン → 南条幸男(なんじょう)
ダングラール → 神楽清(かぐら
ィルフォール → 入間公平(いるま)
ノワルティエ → 入間貞吉(いるまていきち)
モレル → 守尾(もりお)
カドルッス → 寺角類(てらかどるい)
ベルトゥッチオ → 土屋(つちや
エデ → 江田愛梨(えだ

ということで、原作の名前から何文字か引用しつつ、現代的な名前をつけています。この辺、原作ファンとしてはニヤニヤしっぱなしです。
で、肝心のメルセデスはというと「すみれ」。
ぜんぜんかぶってないやんか、と言いたくなりますが、名字が「目黒」

ルセデス → 目黒すみれ(ぐろ)

一文字だけですが、なんとかクリアしています。

このように、登場人物表を作って見るだけで、いかに原作をきちんと追いながら話を進めているかがわかります。
第3回も原作のエピソードを細かく組み直して、よく気を配っていました。ディーン・フジオカ好きの妻は「急に話が怖くなった」と言っていましたが、怖いポイントはほぼ原作通りなのです。

まず、冒頭のボートでの遭難は、原作ではフェルナンの息子・アルベール(青年)が山賊のヴァンパにさらわれるエピソードが該当します。モンテ・クリスト伯によって救出され、アルベールがお礼に自宅へ招き、そこで伯爵はフェルナン、メルセデスと再会します。
ドラマには、すみれの登場を待つ間、壁に貼られている似顔絵を眺めるシーンがありますが、これは原作でも壁にかけられた肖像画を見て、現在の姿を想像するシーンがあり、これを再現したものです。
入間の妻がアレルギーの発作を起こすシーンは、原作ではヴィルフォールの妻が乗った馬車が暴走するエピソードに該当します。
入間が神楽の妻とのあいだにできた子を庭へ埋め、それを土屋が目撃していたというエピソードは原作そのままです。

さて、原作と異なる点は晩餐会のメンバー。原作では南条(フェルナン)は参加しておらず、その他の人物が何人が招待されています。
また、江田の役柄は、原作で伯爵の手足となって動き回っている何人かの手下の役を一人にまとめているようです。原作でも復讐のために重要な役目を務めますが、それよりも伯爵に寵愛される愛人という印象の方が強いです。
この辺、どのような意図があっての改変なのか、今後の展開に期待です。

なお、晩餐会では魚料理が出ていましたが、原作でもここで出された料理は魚です。こんな細かいところまで原作へのリスペクトが感じられて、原作ファンとしては嬉しいところです。

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原作ファンとしてドラマ「モンテ・クリスト伯」を擁護する

4月19日から放映の始まったドラマ「モンテ・クリスト伯」。
以前にこちらの記事で書いたように大好きな小説なので、ドラマもどんな出来なのか見てみました。
これはなんと、ビックリするくらい原作に忠実ですね。
いや、舞台を現代の日本へ置き換えている時点で「忠実」とは言えないかも知れませんが、舞台や人物の設定以外は、原作へのリスペクトが感じられ、とても好感を持ちました。

ところが、ネットで感想を見ているとあまり評判は良くないようです。
Googleで「モンテ・クリスト伯」と検索すると、小説ではなくドラマの情報ばかりヒットする状況ですが、並んでいるのは
「『モンテ・クリスト伯』支離滅裂すぎでもはやギャグ」
「ディーン『モンテ・クリスト伯』初回5.1%! 「想像を絶するダメ演技」と酷評相次ぐ」
なんていう記事が目立ちます。
これはまずい!
せっかく見始めたドラマが打ち切りになってはたまりません。
というわけで、緊急で擁護する記事を投稿することにします。(ちなみに第2話まで見た時点での感想です)

まず、視聴者の多くが突っ込んでいる最大のポイント。
投獄前と脱獄後とで、全然顔が変わっていないのに、誰も暖に気づかないのはおかしい、というもの。
はい、これは、確かにそのとおりです。弁護の余地なし。
……と言ってしまうと話が終わってしまうのですが、しかし考えてみてください。
第2話以降、ディーン・フジオカがずっと老けメイクをしていたとしたら、そんなドラマ見たいですか?
ドラマに求められるのはリアルな描写ではありません。主演スターのファンを満足させることも重要です。となると、それぞれの場面に適したディーン・フジオカの「かっこよさ」を引き出すことが優先されます。
暖が守尾社長のもとを訪れ、なんとか自分に気づいてもらおうと話を振るのに全く気づいてもらえない……というシーンをもって、「親しい人にもわからないくらい変貌している」というエクスキューズは済ませています。したがって、視聴者にはその事実を前提として受け入れ、余計な突っ込みをしないことが求められるわけです。
皆さん、ぜひ次回以降は「暖の容貌は変わってしまった」という事実を受け入れた上でドラマをご覧ください。

次に、やはり現代日本を舞台にしていることへの違和感。
これもしかし、筆者としてはむしろ、かなり頑張って変換していることに感心しました。
「ナポレオンの手紙」が「テロリストの手紙」に。
実際、19世紀フランスの王党派にとって、ボナパルト党はテロリストだったんでしょう。
ナポレオンの手紙は、受取人であるノワルティエ氏の息子・検事代理のヴィルフォールによって燃やされますが、ドラマでもヴィルフォールに該当する入間公平がライターの火で燃やしてしまうので、「おお、ここまで再現!」とちょっと感動しました。
現代日本においては、土牢に十年以上も放り込まれたあげく、さらにそこから脱出するなんていう展開は全く不可能ですが、テロ事件に関係したとして他国へ送致されたとなると、まああり得なくもないでしょう。いや、あり得ないか。

獄中で出会うのはファリア神父ですが、やっぱり神父が出てくるんだろうか、と思っていたら名前が「ファリア真海」! これも原作へのリスペクトと言えます。
脱獄方法も原作と全く同じ。
ただ、細部では少し異なる部分があります。
原作では、神父の死体を自分のベッドへ寝かせて身代わりにしますが、ドラマでは穴の中のまま。これでは、看守に見つかってしまうのでは、と少し心配になりました。
原作では海へ投げ込まれる際、重りは縄で足に結ばれていますが、ドラマでは鉄の鎖。よくぞ息が切れる前に外せたもんです。
……と、いろいろ書いていると擁護記事でなくなってきそうですが、そういう細かいところ以外は、現代的な形に変換しつつも正確に原作をなぞっていて、感心しています。

原作では財宝はモンテ・クリスト島の洞窟に隠されており、これを探し出すだけで100ページくらい費やしていますが、ドラマではシンガポールの銀行へ行って、暗証番号を伝えるだけであっさり受け取ってしまいます。まあ、この辺は長い原作を適度に端折るためには許容範囲内かと思います。
守尾社長への恩返しも、原作では非常に劇的な展開をしますが、ドラマではあっさり。とは言え、これはエピソードとしてちゃんと挿入しているだけでもエライもんです。
事件の真相も、獄中で神父が推測した話を、脱獄後にカドルッスに会って確認しますが、ドラマでも同じく、寺角が真相を語ります。なかなか細かいところまで気を配っています。

第2話の終わりではクルーザーに乗って姿を現し、正体不明の財力を見せつけます。
この「クルーザー」、単に金持ちの象徴として出てきているわけではありません。
原作でも、帆船を買い取り、それを乗り回しているのです。そこを再現しているものと思われます。

さて、次は第3話。いよいよ復讐の幕開けです。
原作の面白さは、緻密に計算された復讐の段取りと、それを叶えるために湯水のように金を使っていくゴージャスさです。無尽の財力で敵を追い詰めていく姿が、読者には「痛快」と映ります。
この辺はドラマでも期待できそうです。
ただ気になるのは、原作では投獄から復讐の開始まで23年も経っているのですが、ドラマでは14年です。
フェルナンとメルセデスのあいだに出来た息子・アルベールは青年に成長していますが、ドラマで南条とすみれとのあいだに生まれた娘(息子じゃない!)は、まだ子供と思われます。
アルベールほどガッツリと伯爵にからむわけにいかないので、その辺、どうするつもりなんだろう?

もしかすると第3話以降で急に原作から離れていってしまうかも……という不安を抱きつつも、今のところはかなり楽しんで鑑賞しております。





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19世紀フランスの文豪アレクサンドル・デュマの代表作「モンテ・クリスト伯」は、日本では「巖窟王」(巌窟王、岩窟王)のタイトルで親しまれています。
子ども向けの名作全集には必ず収録される定番の小説ですが、原作は岩波文庫版で全7冊にもおよぶ長大な物語です。
無実の罪により、14年の歳月を牢につながれ、恋人を奪われた船乗りのエドモン・ダンテスは、獄中で出会った神父の導きにより脱獄に成功、モンテクリスト島に隠された財宝を手に入れます。そして、大富豪モンテ・クリスト伯爵と名乗り、パリ社交界にデビュー。自分を陥れた者たちに対して復讐劇を繰り広げていくのです。
一つ一つのエピソードがスリリングであり、定期的に山場がありますので、長い小説ではありますが、途中で飽きることはありません。
巨万の富を背景にした伯爵の豪快な金の使い方には、ついつい筒井康隆の「富豪刑事」を思い出してしまい、笑ってしまうほどです。冷酷に一歩一歩計画をすすめる一方、人間的な感情の動き、失われない高潔な精神も見られ、物語に深みを与えています。

そんなわけで、子どもの頃にダイジェスト版を読んだ方も、あるいは全くどんな話なのか知らないという方にもおすすめできる、エンターテインメントの古典です。
とはいえ、完訳やらダイジェスト版やらいろいろ出ているうえ、「モンテ・クリスト伯」と「巖窟王」がどういう関係なのか、という点で混乱もあるようなので、いくつか出ている翻訳を、まとめてみます。

岩波文庫『モンテ・クリスト伯』(全7冊) 山内義雄・訳

モンテ・クリスト伯 7冊美装ケースセット (岩波文庫)
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実は、これだけ有名な作品にもかかわらず、現在、文庫で読める完訳は、岩波文庫版しかありません。過去には、次に紹介する講談社文庫版もありましたが、今は絶版です。
山内義雄訳は日本では定番の訳とされ、永く読み継がれていますが、とはいえ翻訳されたのが戦前のため、やや読みづらい部分もあります。そこが逆に格調高い雰囲気をかもし、名訳であるという評価もあります。
いずれにしても、文庫で手軽に読むのであれば、現時点でこれしか選択肢はありません。電子書籍版もあります。

モンテ・クリスト伯 1 (岩波文庫)
アレクサンドル・デュマ
岩波書店
2014-12-18


講談社文庫『モンテ=クリスト伯』(全5冊) 新庄嘉章・訳

モンテ=クリスト伯 1 (講談社文庫 て 3-1)
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かつては講談社文庫からも全訳が出ていましたが、現在は絶版です。筆者は中学生の頃に購入したこのバージョンで読んでいます。
こちらも割りと古い訳ですが、岩波文庫版よりは、はるかに読みやすいかと思います。
古本であれば容易に入手できます。
また、Kindle版も発売されました。



新井書院『モンテ=クリスト伯爵』 大矢タカヤス・訳

モンテ=クリスト伯爵 (オペラオムニア叢書) (オペラオムニア叢書 1)
アレクサンドル デュマ
新井書院
2012-06-27

リンク先はAmazon商品紹介ページ。

今のところ最も新しい訳は本書です。大矢タカヤス氏は他にもバルザックやヴェルヌの翻訳などをあちこちの出版社で手がけており、信頼できる訳者です。
難点は、一冊にまとまっており、大変な厚さになっていること。電車の中で読んだりするのは少々しんどいかと思います。
また、なぜか横書きで印刷されており、これも読みづらいのでは?という気もしますが、これは慣れの問題でしょう。できるだけ文章を詰め込むための措置でしょうか。単行本ですが、Oxford classicsのようなペーパーバックを模した造本となっており、個人的にはもう少し高級感が欲しかったようにも思います。
このような難点を補って余りあるのが、岩波文庫版よりとにかく読みやすい訳文であること。それから、分厚い単行本ではありますが、価格は3694円+税と、岩波文庫を7冊揃えるより圧倒的に安くなっています。
また、挿絵を収録しているのも大きな魅力です。

『モンテ・クリスト伯』 泉田武二・訳

モンテ・クリスト伯(1)
アレクサンドル・デュマ
グーテンベルク21
2015-04-17


現在、電子書籍のみ入手可能ですが、かつて「講談社スーパー文庫」として、大判の一巻本で出ていたものです。筆者は目を通したことはありませんが、山内義雄訳よりははるかに新しい訳のはずなので、電子書籍に抵抗のない方は、こちらで読むのもアリでしょう。
全5冊で、すべて揃えても、新井書院版よりちょっと安めです。

ダイジェスト版について

「モンテ・クリスト伯」はこれだけ長い小説でありながらほとんど無駄な部分がなく、スラスラと読めますので、読むならやはり完訳がおすすめです。しかし、これだけの長さに挑戦するのもなかなか大変ですので、そんな方は児童向けのダイジェスト版を読んでみてはいかがでしょうか。

・岩波少年文庫版 竹村猛・編訳
モンテ・クリスト伯 (上) (岩波少年文庫 (503))
モンテ・クリスト伯 (中) (岩波少年文庫 (504))
モンテ・クリスト伯 (下) (岩波少年文庫 (505))
リンク先はAmazon商品紹介ページ。

児童向けといえども3冊にわかれており、完訳よりは手軽に、しかしたっぷりとこの大長編にトライできます。
訳者の竹村猛は、デュマの作品ではほかに「三銃士」を完訳しており、角川文庫と偕成社文庫とに収録されています。デュマの翻訳については信用できます。

・講談社青い鳥文庫『巖窟王』

巌窟王 (講談社青い鳥文庫)
アレクサンドル デュマ
講談社
1989-05-10


岩波少年文庫よりさらに短く、1冊にまとまっています。訳を担当しているのは矢野徹。「カムイの剣」などの小説や、SFの翻訳などで有名ですが、児童向けの翻訳も手がけており、これもその一冊です。

・集英社 少年少女世界名作の森『巖窟王』
巌窟王―少年少女世界名作の森〈15〉
リンク先はAmazon商品紹介ページ。

集英社の児童向け名作全集の一冊。ポイントは天野喜孝氏の挿絵。筆者は小学生の頃にこの本で、初めてこの物語に触れましたが、天野氏の挿絵は今でも強烈に印象に残っています。

コミック版

あらすじだけを手軽に知りたい、という場合にはコミック化されたものもいくつか出ています。

モンテ・クリスト伯爵 (ジェッツコミックス)
森山絵凪
白泉社
(電子書籍版もあります)




いずれもコンパクトに1冊にまとまっています。
筆者はどちらも読んでいませんが、ジェッツコミックの方は原作ファンからも評判が良いようです。

黒岩涙香『巖窟王』

最後に、こちらをご紹介します。
リンク先はAmazon商品紹介ページ。中古本のみ販売されています。


この小説が日本で「巖窟王」というタイトルで親しまれているのは、明治時代に初めて「モンテ・クリスト伯」を訳した黒岩涙香がこのように名づけたためです。
涙香の訳は「翻案」と言われ、現在のように原著を厳密に訳すのではなく、日本人が読みやすいように人名・地名を日本風に置き換えたり、文章を書き直したりしています(「モンテ・クリスト伯」→「巖窟島伯爵(いわやじま)」)。また、完訳ではなく原作を半分程度にまで刈り込んでいます。
そもそも「巖窟王」という訳題が普及するきっかけとなった本を読んでみたい、という方には、何年か前に出た、はる書房版は印刷もきれいで読みやすく、日本人が初めて接した「モンテ・クリスト伯」を手軽に楽しむことができます。

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原作ファンとしてドラマ「モンテ・クリスト伯」を擁護する
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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