備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

山村正夫

本格ミステリ好きにおすすめ 昭和50年代ミステリ映画DVD紹介

201711乱れからくり138

昭和50年代は、先日記事を書いた野村芳太郎のミステリ映画や一連の横溝映画のほかにも本格ミステリファンが喜ぶようなミステリ映画が数多く製作されています。
その背景には、本格の復権が始まっていた時代があります。
新本格登場前夜ですが、横溝ブーム、雑誌「幻影城」の刊行とそこから輩出された本格ミステリ作家たちの活躍、笠井潔や島田荘司の登場など、すでに復古的な本格ミステリはマニアのあいだでは一つの波となっていました。
この流れの中で、本格ミステリ映画が次々作られたわけですが、ただし今の視点で見ると一つの特徴があります。
それは「論理」より「雰囲気」を重視する姿勢です。
そもそも「本格ミステリ」はエラリー・クイーンに代表されるように犯人が仕掛けるトリックや謎解きの論理を重視しています。しかし、横溝ブームに見られるように、昭和50年代においては、一部のマニアを別として、一般的には論理よりも本格ミステリがまとう雰囲気が重視される傾向がありました。
この風潮の影響を受けているわけです。
とはいえ、今の視点で見ても、本格ミステリファンにとってとても居心地の良い映画が作られていた時代だと思います。筆者はこの頃の映画のDVDが発売されると、なるべく漏らさず買い揃えています。
今回は、横溝正史、野村芳太郎以外の昭和50年代ミステリ映画をご紹介します。

不連続殺人事件(新・死ぬまでにこれは観ろ! ) [DVD]
1977年 ATG


坂口安吾の小説を映画化した曽根中生監督作品です。
脚本は大和屋竺、田中陽造、曾根中生、荒井晴彦という、要するに具流八郎メンバーです。
このメンバーで「不連続殺人事件」を映画化するのは意外なような、意外でないような。つまり、原作小説が意図した論理ゲームには興味はないものの、坂口安吾の文学性には大いに馴染むというわけで、やはり「雰囲気重視」の作品の一つと言えると思います。



任侠映画の名匠として知られる加藤泰監督です。
乱歩の「陰獣」が雑誌連載された際、担当編集者は横溝正史でした。その横溝正史はこの映画が公開された際、絶賛しています(「真説・金田一耕助」に収録)。多分にリップサービスはあったと思いますが、とはいえ、この中で探偵小説的な仕掛けについては全く触れず、男女の機微を描く監督の腕前のみにコメントしています。
ストーリーはかなり原作に忠実な映画となっています。

白昼の死角【DVD】
1979年 東映


角川春樹製作・村川透監督というと、同時期に公開された大藪春彦原作の「蘇る金狼」の印象が強く、同じ組み合わせで高木彬光原作って、いったいどうなの?と思ってしまいますが、予想外に原作に忠実に作っています。原作好きはなかなか楽しめます。

乱れからくり [DVD]
1979年 東宝


東宝のプロデューサーの田中文雄は滝原満というペンネームで第一回幻影城新人賞に寡作入選しており、泡坂妻夫と全くの同期ということになります。その縁でこの映画を企画したものと思われ、「幻影城」誌上には撮影現場のルポも掲載されています。
松田優作と泡坂妻夫って、あまりにかけ離れた印象ですが、それほど違和感はありません。
再現されたからくり屋敷も見ものですが、必見は泡坂妻夫本人が焼き鳥屋の親父役でカメオ出演している点です。泡坂妻夫を神と仰いでいる筆者にとっては、ご本人の映像と肉声とが記録された貴重な映画です。

もどり川 [DVD]
1983年 東宝東和


連城三紀彦の「戻り川心中」を神代辰巳が映画化しています。神代監督の代表作の一つにも数えられる男女の愛憎劇で、やはりミステリ的要素は薄めの仕上がりです。

湯殿山麓呪い村 角川映画 THE BEST [DVD]
1984年 角川春樹事務所


いかにもな角川映画としては後期のものと言えるでしょう。山村正夫の原作を「人魚伝説」「死霊の罠」などで有名な池田敏春が監督しています。
おどろおどろしいタイトルとは逆に現代的な雰囲気に驚かされますが、この辺が角川映画でしょう。原作からはかなりアレンジされていたように思いますが、原作を読んだのがかなり昔なので、実は細かいことはあまり覚えていません。すみません。



山村正夫『推理文壇戦後史』の再刊はまだか

201708推理文壇戦後史112

山村正夫は映画化された『湯殿山麓呪い村』が有名ですが、作家としての活動は今やほとんど忘れられてしまっているのではないでしょうか。
筆者はこの作家を知った当初、探偵作家然とした作風から、もしかして横溝正史と同世代? いや、それはないとしても高木彬光や山田風太郎は同世代だろう、と思っていましたが、とんでもない。1920年生まれの高木彬光に対し、山村正夫は1931年生まれと十も若いのです。昭和生まれの作家です。『湯殿山麓呪い村』を1980年(昭和55年)に発表した時はまだ50手前だったわけです。

では、どこからそんな大御所っぽい雰囲気が出ているのかといえば、その理由はデビューの早さにあります。まだ学生だった1949年(昭和24年)に雑誌「宝石」からデビューしているのです。デビューの時期や経緯を見れば、高木彬光や山田風太郎とほぼ同期ということになるわけです。

小説家としてはあまりパッとした印象のない山村正夫ですが、偉業といえばこの『推理文壇戦後史』を著したことが挙げられます。
これは雑誌「小説推理」に連載され双葉社から単行本が出たものですが、1973年(昭和48年)に1冊目が、続いて『続・推理文壇戦後史』が1978年(昭和53年)、『続々・推理文壇戦後史』が1980年(昭和55年)に刊行されます。
1984年(昭和59年)にはここまでの3冊が創刊間もない双葉文庫へ収録されました。(この頃の双葉文庫は春陽文庫に劣らぬワケのわからない文庫で奥付すら無かった……という話は脱線しすぎなのでやめておきます)

筆者は学生時代、先輩が持っていた文庫版を借りてこのシリーズを読みました。
乱歩を始めとする戦前からの探偵作家と親しく交流した著者ならではのエピソードが満載の、非常に興味深い内容です。
ところが、このころ創元推理文庫に収録された『亜愛一郎の狼狽』に付された権田萬治の解説を読むと『推理文壇戦後史 4』という本の存在が記されていました。
雑誌「幻影城」の創刊から廃刊に至る経緯に触れているので「興味のある方はご覧頂きたい」ということでした。
なんと、続編があったのか。それに、雑誌「幻影城」について山村正夫がどう書いているのかも興味アリアリだったので、調べてみたところ、この最終巻は1989年(平成元年)に刊行されており、文庫化はされていないのでした。

はじめの3冊は、単行本も文庫も古本屋でセット組されたものをよく見かけたため(当時は)、単行本のセットを買いましたが、4巻だけはどうしても見当たりません。ようやく手に入れたのは、インターネットが普及してから、Amazonマーケットプレイスを通じてで、揃えるのに10年近くかかりました。

今も、ネットの古書店を探すと、はじめの3冊はわりと簡単に見つかりますが、4巻だけはかなり高額です。戦後から新本格登場前夜までのミステリ界を概観するには非常によい本なので、どこかの文庫が収録しないかな、とずっと待っていたのですが、昨年、日下三蔵さんが下記のようなツイートをされていました。



論創社からか……ということで、わりと値は張りそうです。できれば、ちくま文庫あたりがよかったな、と思っていましたが、しかし、このツイートから1年以上たってもまだ企画は実現していないようです。
いかなる形であれ、本書の再刊はめでたいことなので、待ち続けたいと思います。
 
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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