備忘の都

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原作

「三銃士」原作を読むなら、おすすめの本はどれ? 各社版徹底比較

201706三銃士096

「一人は皆のために、皆は一人のために」という合言葉で有名なアレクサンドル・デュマの「三銃士」。
何度も映像化されてしますし、ミュージカルなどの原作にもなっています。児童向けの世界名作全集などにも必ずと言ってよいほど収録されている作品です。
筆者は大人になってから初めて読みました。それも、まだ5年くらい前のことで、わりと最近です。
実は小学生の頃にも岩波少年文庫版で読もうとしたことがあるのですが、読み始めてすぐに「全然おもしろくない」と思って、そのままになっていたのでした。
そんなわけで、これまでの人生は「三銃士」を面白いという人に対してずっとコンプレックスを抱いていて、アニメも人形劇も、一切観ることはありませんでした。

ところが。
とある本の中で褒められているのを見て、急に読みたくなり手にとったのですが、
……これはむちゃくちゃ面白い! 現代のエンターテインメントと比べても全く遜色のない、華やかでスリリングなチャンバラ小説です。。
逆に、小学生の時にいったいなぜつまらないと思ったのか、まるきり理由がわからなくなりました。
こんなことなら、三谷幸喜の人形劇もチェックしておくべきだった!

というわけで、未読の方にはぜひ一読をおすすめしますが、この小説もいろいろとバージョンが出ています。それぞれの特色をご説明しておきます。

その前に。
冒頭にも紹介した「一人は皆のために、皆は一人のために(un pour tous, tous pour un)」という合言葉ですが、実は邦訳でこの部分が直訳されているものは一つもありません。
筆者が読んだものは「四人はつねに一体となって協力する」と、語呂の悪い言い回しになっていますし、他の翻訳でも「四人は一つ、切っても切れぬ」「四人一体」など、かなり自由に意訳されています。
ふつうに直訳した方が、読者にも「あ、あの有名な合言葉だ!」とわかりやすいと思うのですが、なぜ揃いも揃ってこんな風になっているのか、よくわかりません。
「三銃士」といえば、4人が剣を合わせ、声高らかに「一人は皆のために、皆は一人のために」と叫ぶものだ、というイメージをお持ちの方、残念でした。児童向けのダイジェスト版を除いて、直訳はありません。なおかつ、このシーンでは各々片手を挙げて宣誓するのみで、剣を合わせたりはしません。

さて、いきなり読む気を削ぐようなことを書いてしまいましたが、いやいや「三銃士」の魅力はその程度では全く損なわれませんのでご安心ください。
それでは、数ある翻訳から、何を基準に選べばよいのか。

「ダルタニャン物語」

まず最初におすすめしたいのは、復刊ドットコムから刊行されている鈴木力衛訳の「ダルタニャン物語」です。
「三銃士」は文庫本で2冊ほどの小説なのですが、実はこれは「ダルタニャン物語」という長い長い大河小説の最初のエピソードに過ぎません。「三銃士」のあとに「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵」と続くのですが、それぞれ「三銃士」の倍以上の長さがあるため「ダルタニャン物語」全体では全11巻という長さになっています。
「三銃士」で友情の絆を固めたダルタニャン、アトス、ポルトス、アラミスの4人が、時には対立しつつも切っても切れぬ関係を続け、多くの敵や陰謀と戦い続ける物語です。

今のところ、このシリーズ全てを邦訳したのは鈴木力衛のみです。以前は講談社文庫で刊行されていましたが、それが絶版になったあと復刊ドットコムから単行本で復刊されています。
全11冊のぞれぞれにオリジナルの書名がつけられていますが、この1~2巻が「三銃士」に該当します。




筆者は、シリーズを全部読むつもりで取り掛かったので、この復刊ドットコム版で読みました。
鈴木力衛の翻訳はWikipediaで調べたところ、昭和27年が初刊のようで、現在流通しているものは昭和43年に改訳されています。わりと古いといえば古いのですが、全く気にせず楽しむことができます。
「ダルタニャン物語」を全部読むつもりであれば、選択肢はこれしかないのですが、デメリットとしては単行本なので価格がずいぶん高いということがあります。1冊買う価格で文庫なら上下巻とも揃えてお釣りが来ます。したがって、とりあえず「三銃士」だけ読みたい、という方には向かないでしょう。
どこかの文庫で、まとめて復刊し直してくれると読みやすくなっていいのに、と思うのですが。
ちなみに「三銃士」にこれほど人気があるのに、続編をこれほど読みづらいのは日本くらいで、洋書ではシリーズ全てがペーパーバックで何種類も出ています。フランス語や英語が読める方は、そちらへチャレンジするのも手でしょう。復刊ドットコム版を揃えるよりもかなり安くなります。

(英語版ペーパーバック。いずれもリンク先はAmazon)
The Three Musketeers (Oxford World's Classics)
Alexandre Dumas
Oxford Univ Pr (T)



Twenty Years After (Oxford World's Classics)
Alexandre Dumas
Oxford Univ Pr (T)




文庫版のおすすめ

次に、とりあえず「三銃士」だけ読みたい、という方のために文庫版をご紹介します。
現在入手可能なものは岩波文庫と角川文庫の2種類のみです。(いずれもリンク先はAmazon)

生島遼一・訳


竹村猛・訳


これもWikipediaによれば、生島遼一訳の初刊は昭和22年、竹村猛訳の初刊は昭和36年。どちらも結構な古さです。
生島遼一は岩波文庫版のスタンダールやフローベールなどを訳しており、フランス文学の翻訳家として定評があります。また、竹村猛はデュマの作品ではほかにダイジェスト版ではありますが、岩波少年文庫版の「モンテ・クリスト伯」を訳しています。
実力の拮抗している翻訳家対決ですが、どっちの訳文が読みやすいかといえば、実はどっちも読みやすいです。
その証拠に、生島遼一訳のダイジェスト版は岩波少年文庫から出ており、竹村猛訳は全訳のまま文字遣いだけ少し改めて、偕成社文庫に収録されています。つまりどちらも児童文庫に流用されているのです。
そんなわけで、どちらで読むかは「お好みで」ということになります。

児童向けのおすすめ完訳本

次に、児童向けとして刊行されている完訳を2つご紹介します。

まず、偕成社文庫版は、上述の通り角川文庫版と同じ翻訳の文字遣いを改めたものです。
さらにもうひとつ角川文庫版とは違う点があり、それは挿絵が収録されていることです。
竹村猛・訳
(リンク先はAmazon)


児童書でおすすめはもう一点、福音館古典童話シリーズから出ている朝倉剛訳です。
おすすめのポイントは、まず初刊が昭和45年で、他の翻訳と比べて新しい点。またそもそも児童向けを意識して翻訳されているため、読みやすい文章です。
また、なによりこの本がすばらしいのは、その挿絵です。
筆者は原書の挿絵というものが好きなため、当ブログでこれまで紹介した「レ・ミゼラブル」や「海底二万里」でも、おすすめポイントとして挿絵を重視しています。ただし、それらには原書初版に付された言わば公式の挿絵というものがありました。
しかし、「三銃士」にはそのような位置づけの挿絵は無いようで、偕成社文庫版と福音館古典童話シリーズ版とでは異なった挿絵が使用されています。また、福音館版の挿絵を描いた画家の経歴を見ると「三銃士」が刊行されたときにはまだ生まれていません。つまり、ずっと時代が下ってから描かれた挿絵と思われます。
とはいえ、この福音館版の挿絵はとても素敵で、作品世界の理解に大いに役立つとともに、挿絵だけを眺めていてもうっとりするほどです。

朝倉剛・訳


そんなわけで、「三銃士」の全ての翻訳の中で、個人的にはこの福音館版が最も気に入っているのですが、デメリットとしては、やはり価格が高い。上下揃えると5000円くらいになってしまいます。また、解説によれば僅かに省略した部分がある版を翻訳の底本にしているとのことです。

自分で読むにはやはり価格の点が引っかかってきますが、「お子さんへプレゼント」ということをもし考えているのであれば、福音館版でキマリでしょう。一生、大切にできる本だと思います。
現に、筆者の手元にある福音館版は、子どものころ親に買ってもらったものです。
冒頭に書いたとおり、岩波少年文庫版を途中で放り出していたくせに、こんな高い高い福音館版をどういう経緯で買ってもらったのか全然覚えていません。それをまた読まずにこの年まで放置していた親不孝者です。しかし、30年近く経ってから、ようやくその真価に気づくことができたので、ヨシとしましょう。今更ながら、この高い高い本を買ってくれた両親に感謝感謝です。
筆者の息子がもし「三銃士」を読みたいと言い始めたら、この本をそのままプレゼントして済ませるつもりでいます(やはり親不孝者)。

児童向けダイジェスト

最後に、児童向けダイジェストをご紹介しましょう。
「三銃士」は抜群の面白さで一気読みできますが、とはいえ、文庫本上下巻の長さはあります。海外の小説をあまり読まない方には敷居が高いかもしれません。
映画や舞台などで「三銃士」を見て、原作にも触れておきたい、という程度であれば、ダイジェストを読んでみるというのもアリです。
児童向けダイジェストはかなりたくさんの種類が出ていますが、最もおすすめは講談社青い鳥文庫から出ている藤本ひとみによるものです。



藤本ひとみはもともとコバルト文庫などで少女小説を書いていましたが、その後、主にフランス史を題材とした歴史小説を書くようになりました。
フランスの歴史を背景に華やかでスリリングな世界を描いた「三銃士」を紹介するのに、これほどうってつけの方はいません。
児童向けに書かれたものですが、藤本ひとみファンはもちろん、一般の方が読んでも間違いなく楽しめます。
ただし。本書には一点だけ重大な問題あります。
実は「一人は皆のために、皆は一人のために」の宣誓シーンが省略されているのです。そこだけちょっと残念。まあ、原作ではそれくらい、わりと軽く扱われているセリフなんですけどね。

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「レ・ミゼラブル」原作を読むなら、おすすめの文庫はどれ? 各社版徹底比較!

日本では「ああ無情」のタイトルで知られ、子ども向けの名作全集などには必ず収録されるユゴーの「レ・ミゼラブル」。完訳に挑戦しようと思うと、何種類かの文庫が出ており、どれを手に取ろうか迷われるのではないでしょうか。それぞれの訳の特色をまとめてみます。

「レ・ミゼラブル」はフランスの小説家ヴィクトル・ユゴーが19世紀半ばに執筆した大長編です。
貧しさのあまりパンを盗んだジャン・バルジャンが、ミリエル神父との出会いで改心して……と、子ども向けの抄訳などではこの辺のヒューマニズムの部分のみが強調されていたりしますが、全て読んでみると、サスペンスあり、アクションありのエンタテインメントで、退屈することなく読み切ることができます。ただし、一部を除いては。
「一部を除いて」というのは、これは「ノートル=ダム・ド・パリ」など、他の小説にも見られるユゴーの悪癖で、本筋と関係のない歴史や風俗について延々と語り続けている部分があるのです。
例えば、主要登場人物2人が出会うのがワーテルローの戦いのさなかなのですが、それだけのことを書くために、ユゴーが古戦跡を訪れて抱いた感慨から始まり、おもむろに百ページくらい費やして戦いの詳細を綴っていきます。読んでいると、明らかに伏線でもなんでもなく、本筋と全く関係ないことがわかります。
ストーリーを求める読者には退屈極まる部分ですが、しかしユゴーは「これは物語の作者の権利である」と傲然と言い放つのです。
全5部からなりますが、各部の冒頭にこのような文章が入っています。筆者は、この辺はすっ飛ばして読みました。

というわけで、現在入手可能な文庫についてご紹介していきましょう。

岩波文庫版 豊島与志雄・訳


(リンク先はAmazon)

岩波文庫からは豊島与志雄訳が全4冊で刊行されています。
名訳として読み継がれている豊島訳ですが、最初に刊行されたのは大正期で、さすがに文体の古さは否定できません。(とはいえ、同時代に刊行された他の翻訳家による海外文学と比べれば、圧倒的に読みやすいのですが)
どれくらい古いか?ということを読んでみたければ、実は豊島訳の「レ・ミゼラブル」はまるまる青空文庫にも収録されています。豊島与志雄が亡くなったのがもう60年以上も前なので、訳文の著作権が切れているのです。
というわけで、敢えて豊島訳を読みたい、ということでなければ他の文庫をおすすめしますが、一つ、岩波文庫版には他にない大きな長所があります。それは、挿絵を全て収録していることです。
ミュージカルのポスターにも使用されている少女コゼットのイラストなど、「レ・ミゼラブル」の挿絵は有名であり、作品理解の助けにもなりますが、他の文庫では収録されていません。
ついでに言うと、全巻揃えて最もお安いのも岩波文庫版です。

新潮文庫版 佐藤朔・訳


(リンク先はAmazon)

新潮文庫版は佐藤朔の訳で全5冊で出ています。
かなり昔から刊行されており、日本では最もよく読まれているスタンダードな訳と言えるでしょう。
ただし、初訳は50年以上前であり、岩波文庫版よりははるかに新しいものの、新訳というわけではありません。また、挿絵もありません。
手に入りやすく、価格も手頃で読みやすい、定番のバージョンです。

ちくま文庫版 西永良成・訳


(リンク先はAmazon)

ちくま文庫版は最も新しい訳で、2012年から2014年にかけて全5冊で刊行されました。
筆者はこれで読んだのですが、なぜ完結までに足掛け2年もかかったのか? 事情は特に明らかにされていないのですが、おそらくは訳者の体調不良か何かで、4巻と5巻とのあいだが1年も空いてしまったのです。
順調にスイスイ読んでいた筆者には、この1年は長いものでした。新訳に手を出さず、新潮文庫で読めば良かった、と思ったものです。とはいえ、無事に完結してくれたのでホッとしました。
さすがに最新訳だけあって、文体も読みやすく、注釈も適切に挿入されており、おすすめできます。
難点は、他の文庫に比べてずいぶんとお高いという点ですが、そもそも高価格で有名な、ちくま文庫のファンである筆者にとっては、そこはあまり問題になりませんでした。
これで挿絵が入っていたら本当に完璧なバージョンになるのですが、挿絵は入っていません。
(2018年追記:どうやらちくま文庫版は初刷のみで品切れになってしまったようで、現時点では古本しか入手できません)

角川文庫版 永山 篤一 ・訳

レ・ミゼラブル (上) (角川文庫)
レ・ミゼラブル (下) (角川文庫)

(リンク先はいずれもAmazon)

角川文庫版は完訳ではなく、上下2冊の抄訳です。
本記事の冒頭に書いたとおり、ユゴーの小説は余計な部分が多いため、完訳にこだわらず、抄訳で済ませるのも決して悪くはない選択肢です。実際、ミュージカル版が映画化されたとき、最も売れていたのは角川文庫版でした。
筆者は読んでいないので、どの程度はしょっているのか正確にわかりませんが、パラパラと眺めた印象では、大事なところはきちんと残していますので、ストーリーの全体を追うには不足は無いように思いました。

おまけ 鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』(文春文庫)


(リンク先はAmazon)

さて、岩波文庫以外の文庫には挿絵はついていないのですが、それを補うのにうってつけの本が鹿島茂の『「レ・ミゼラブル」百六景』です。
挿絵の中から百六枚を選び、該当シーンの簡単なあらすじを付したもので、完訳を読みながら手元に置いておくと、挿絵によって読解が助けられ、また忘れかけている前の方のエピソードをすぐに確認できますし、さらに鹿島教授の軽妙な解説で作品理解が深まります。
挿絵全点を収録しているわけではないのですが、岩波文庫版の古い訳には抵抗があるが、挿絵と一緒に作品を楽しみたい、という方にはオススメです。

黒岩涙香『噫無情』

最後に、こちらをご紹介しましょう。


(リンク先はいずれもAmazon)

以前の「モンテ・クリスト伯」の記事の際にも、涙香の「巖窟王」を紹介しましたが、「レ・ミゼラブル」が日本で「ああ無情」のタイトルで知られるようになったのは、明治時代に黒岩涙香が「噫無情」というタイトルで翻案したためです。
「噫無情」は、完訳ではありませんが、冒頭にも書いたような余計な部分はバッサリ切っていますので、内容的にはわかりやすく書き直しています。
とはいえ、明治時代の文章なので、決して読みやすくはありません。
また、登場人物名が日本風に置き換えられ、「戎瓦戎(ジャン・バルジャン)」「蛇兵太(ジャベール)」「手鳴田(テナルディエ)」「小雪(コゼット)」「花子(ファンティーヌ)」という具合になっています。この辺までは良いのですが、エポニーヌが「疣子」、アゼルマが「痣子」というのは、絶妙というか、無茶というか……
まあ、いろいろ話の種にはなりますので、ご興味のある方は原作を読んだ上で挑戦してみてはいかがでしょうか。

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「二銭銅貨」と「レ・ミゼラブル」

「ジャングル・ブック」原作を読むなら、おすすめの文庫はどれ? 各社版徹底比較!

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昨年夏にCGを駆使したディズニー映画が公開され話題となった「ジャングル・ブック」。
あちこちの文庫から原作の新訳も刊行されました。
この機会に読んでみようという方のために、各文庫の特色をご紹介します。

「ジャングル・ブック」について

まずは、「ジャングル・ブック」とはどんな小説でしょうか?
原作は19世紀末にイギリスの作家ラドヤード・キプリングによって書かれました。キプリングはのちにノーベル文学賞を受賞します。
物語はイギリス統治時代のインドのジャングルが舞台となっています。人間界から離れてジャングルに住む少年モウグリと動物たちとの交流がメインの連作短編集です。
実は原作では、モウグリが登場しないエピソードもいくつか書かれているのですが、日本で刊行されている翻訳のほとんどでは、主人公はモウグリということになっており、それ以外のエピソードは省略されています。
もともとは「The Jungle Book」「The Second Jungle Book」と2冊に分かれて刊行されていますが、その中からモウグリが登場する8篇を選ぶのが、一般的なのです。
また、ディズニー映画でも、かつてのアニメ版、今回の実写版いずれも、やはりモウグリが登場しないエピソードは省略されています。

もちろん、「ジャングル・ブック」全体で最も重要なのはモウグリの物語ですし、また、映画を見て原作も……という方にはこれで十分なわけですが、せっかくだからキプリングの書いた全てを読みたい、という方には、実は選択肢は一つしかありません。

角川文庫『ジャングル・ブック』『ジャングル・ブック2』 山田蘭・訳

それは角川文庫です。
角川文庫版も今回の映画化にあわせて新たに訳出されたものですが、完全訳を原著通り2冊にわけて出しています。それ以外には、これといった特長はないのですが、実は「ジャングル・ブック」の完訳は、過去にもほとんど例がなく、大変な偉業と言ってもよいことなのです。

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山田蘭 訳

ジャングル・ブック2<ジャングル・ブック> (角川文庫)
ジャングル・ブック2 (角川文庫)
山田蘭 訳

新潮文庫『ジャングル・ブック』 田口俊樹・訳

今回の映画化にあわせて、新潮文庫からも新訳が出ましたが、こちらはモウグリの話だけを集めています。
新潮文庫の良い点は、原著の挿絵を収録しているところです。これは、他の文庫にはありません。筆者はこの点が気に入って、新潮文庫版で読みました。
ミステリの翻訳を数多く手がけている田口俊樹氏が訳しているのがちょっと意外です。


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ジャングル・ブック (新潮文庫)
ジャングル・ブック (新潮文庫)
田口俊樹 訳

文春文庫『ジャングル・ブック』 井上里・訳 金原瑞人・監訳

一方、文春文庫の売りは、児童文学翻訳の第一人者、金原瑞人氏が「監訳」している点でしょう。
ジャングル・ブック (文春文庫)
ジャングル・ブック (文春文庫)
井上里 訳 金原瑞人 監訳


金原瑞人氏は、児童向けの偕成社文庫版についても、こちらはご本人が翻訳されています。
この偕成社文庫版が全2冊にわかれており、「完訳版」と謳っているため、「お、これは完全訳か?」と思ってしまうのですが、実は2冊にわけているだけで、内容はモウグリのエピソードのみです。それぞれの短編については、完訳、ということのようです。まあ、サブタイトルに「オオカミ少年モウグリの物語」とありますので、嘘はついていないのですが、若干紛らわしいです。

金原瑞人 訳


児童向けの翻訳は、ほかにも岩波少年文庫などいろいろ出ていますが、完全訳はありません。
というわけで、完全訳をお望みなら、角川文庫版を、そうでなければ、お好みで新潮文庫か文春文庫を、というのが本日の結論です。
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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