20170203怪談061
「実話怪談」と言われるものが大好きでいろいろ読んでいますが、ときどき洒落にならないくらい恐ろしいエピソードに出くわし、読んだことを後悔しつつも、名作に出会えた喜びに打ち震える……というなんとも因果な状態に陥ります。今回は、個人的に「最恐」と思っているエピソード5つとそれを収録した書籍をご紹介します。

1.加門七海 「三角屋敷」

加門七海の作家仲間である霜島ケイが体験したできごとです。
三角形のマンションへ引っ越したところ、そこが恐ろしい場所だった、という話なのですが、詳しいことは下記いずれかの本を読んでみてください。

このエピソードが最初に公表されたのは、1997年に発行された『文藝百物語』(ぶんか社)の中でした。これは、8人の作家が集まって百物語をする趣向の本であり、メンバーの一人として霜島ケイも参加していました。
「三角屋敷の怪」というタイトルで語られたその話は、割りとサラッとした印象で、筆者も読んでいましたが、あまり印象には残っていませんでした。
次に登場するのは、2001年の『日本怪奇幻想紀行 六之巻 奇っ怪建築見聞』(同朋舎)。やはり霜島ケイが「実在する幽霊屋敷に住んで」というタイトルで寄稿しています。『文藝百物語』に比べるとかなり長い文章となっており、細かい部分までしっかり書き込まれたため、ここでようやく、実は尋常ならざる事態が発生してことがわかってきました。
そして、この怪談が大ブレイクしたが加門七海の『怪談徒然草』(メディアファクトリー・2002年)です。現在はミステリ作家として活躍している三津田信三が、編集者として加門七海の語りを聞き書きしている本ですが(「日本回帰幻想紀行」も三津田の編集によるもの)、最終話として「三角屋敷を巡る話」が収録されています。
ここで、これまで明かされていなかった事実が次々と明らかになりました。
まず、霜島の話の中で「友人S」として登場していたのが加門七海だったこと。
また、この三角屋敷は、たまたまオカルト現象が起こるようになってしまった場所なのではなく、そもそもオカルト現象を起こす実験装置として、悪意のもとに設計された建物であったこと。
よく、「幽霊よりも人間の方が恐ろしい」ということが言われたりしますが、実はこの三角屋敷は「オカルト的恐ろしさ」と「人間の悪意の恐ろしさ」のハイブリッドだったわけです。
まるきり現実とは思えない、サイキックバトルが大東京上空を舞台に繰り広げられていたという話になってくるのですが、恐ろしいのは三角屋敷が実在していること。
あまりにあまりな話の展開のため、「ホンマかいな?」という議論がネット上で繰り広げられ、その結果、この建物の場所は、文中に散らばる手がかりから、ファンによって特定されることになりました。
当時、たまたま筆者は近所に住んでいたのですが、これを知ってからは絶対にその方面へは近づきませんでした。近づいただけで呪われそう、そんな話なのです。せいぜいGoogleストリービューでこっそり見てみる程度ですが、そんなことだけでも呪われそう。
覚悟の上で読んでいただければと思います。(画像のリンク先はAmazon)
文藝百物語
日本怪奇幻想紀行 (6之巻) 奇っ怪建築見聞怪談徒然草 (角川ホラー文庫)

2.小池壮彦 「夏川ミサエ」

「怪奇探偵」としてさまざまな実話怪談を取材している小池壮彦自身の話です。
最初に紹介されたのは、著者のデビュー作である『東京近郊怪奇スポット』(長崎出版・1996年)の中の「祟られた地に生まれ 祟られた地に死んだ少女」というタイトルで紹介されました。この文章はあまりに短かったため、正直、どこが怖いのかよくわかりません。
次に2作目である『心霊ウワサの現場』(長崎出版・1997年)に「降霊実験~夏川ミサエの話」が収録されたました。この途端に、怖さ倍増。ようやく、半端でない話だということがわかりました。ただ、添えられたイラストがコミカルな雰囲気で、やや気楽になってしまうところがありました。
最近では『怪奇事件はなぜ起こるのか』(洋泉社・2008年)に「23年目の罠――夏川ミサエ・その後」という文章があります。これはかなり恐ろしい文章です。しばらくはこの本を開くのもイヤ、という気分になったものです。
小池壮彦はほかに、『幽霊物件案内2』や『怪談 FINAL EDITION』に収録された「封印された旧館」の話もすさまじいのですが、じんわりと染み込んでくる恐怖という点で、夏川ミサエのエピソードに軍配が上がるように思います。(画像のリンク先はAmazon)
怪奇事件はなぜ起こるのか


3.ギンティ小林 「要塞マンション」

「新耳袋」は筆者を含め、多くの怪談好きに大歓迎されたシリーズでしたが、雑誌「映画秘宝」のライター、スタッフにもファンが多く、舞台地で肝試しをしてまわるという企画がスタートしました。これが「新耳袋殴り込み」のシリーズです。
馬鹿馬鹿しいだけでは、と思いきや、読んでみると結構怖い。新耳袋も好き、映画秘宝も好き、という筆者は、本家以上に熱中して読んでいます。
当初は「新耳袋」の舞台を回っていた一行もやがてオリジナルの怪談に目覚めていき、ついに大物を釣り上げました。それがシリーズの6作目『新耳袋殴り込みリターンズ』(洋泉社・2011年)です。
これまた、実在するとは思えないとんでもない建物の話です。しかし、本書の刊行を記念して、見事撮影に成功したオカルト現象のDVDをプレゼントするという企画をやっていたので、実在するのでしょう(とはいえ、筆者は抽選が外れたため、DVDの実在そのものを若干疑っています……)。
ここ数年は、要塞マンションの続報をずっと期待して待っているのですが、「殴り込み」シリーズ自体が次の7巻で沖縄へ出かけて以来、ずっとストップしています。単にギンティ氏の筆が遅いだけなのか、ヤバイ事情があるのか……さて?(画像のリンク先はAmazon)
特攻現代百物語 新耳袋殴り込みリターンズ

4.工藤美代子 「三島由紀夫の首」

三島由紀夫が二・二六事件で処刑された将校の悪霊に取り憑かれ、「英霊の聲」を自動書記したというのは有名な(?)話ですが、その三島由紀夫の死が、川端康成の自殺を引き起こした、という実に衝撃的な(しかし、怪談好きにとっては恐ろしく説得力のある)エピソードです。
はじめ『日々是怪談』(中央公論社・1997年)にて「三島の首」と題して披露されました。ここで登場するA先生が実は川端康成のことだったとわかったのが、『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』(メディアファクトリー・2011年)に収録された「三島由紀夫の首」という文章です。
『日々是怪談』は、現在は『なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか』と改題されて中公文庫に入っています。(画像のリンク先はAmazon)
もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら (角川文庫)
なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか (中公文庫)

5.高橋洋 「実家の二階」

Jホラーブームの発火点となった名作ホラー「女優霊」「リング」の脚本家として知られる高橋洋の話です。黒沢清・鶴田法男との鼎談の中で語られました。
会話の中でさらっと触れているだけなのですが、実に瞠目する恐ろしさです。高橋洋の作ったストーリーでは、住宅の2階でナニかが起こる、という展開が多いのですが、そのルーツはここにありました。
初出は「ユリイカ 1998年8月臨時増刊号 総特集=怪談」で、その後、黒沢清の対談集『恐怖の対談』(青土社・2008年)に収録されています。高橋洋のエピソードだけでなく、Jホラーの黎明期について、興味深い証言が満載の鼎談なので、ファンは必読です。(リンク先はAmazon)
恐怖の対談―映画のもっとこわい話