備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

仁義なき戦い

国書刊行会「笠原和夫傑作選 第三巻 日本暗殺秘録――昭和史~戦争映画篇」入手

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国書刊行会「笠原和夫傑作選」が完結しました。
任侠映画、実録映画と続いてきましたが、最終巻は昭和史がテーマ。笠原和夫最大のテーマです。
娯楽映画としては、任侠映画・実録映画のほうが面白いのは間違いありませんが、本巻に収録された作品は『昭和の劇』はもちろん、昭和史関連の本と突き合わせをしながら読み込むことになる、奥深い内容のものが並びます。
これまでの巻以上に、伊藤彰彦氏による解説も充実。各所に隠された笠原和夫の思惑をさまざまな参考文献・資料にあたりながらしっかりと説明してくれてとても読み応えがありました。

附録冊子の内容は以下の通り。
ギラギラしたもの――『日本暗殺秘録』作家の言葉
海軍落第生
不関旗一旒――『大日本帝国』創作ノート
二・二六事件にいたるまでの道すじ
戦友ともよ――追悼・五社英雄
「ギラギラしたもの」「海軍落第生」「不関旗一旒」は、それぞれ雑誌「シナリオ」の該当作収録号に掲載されたもの。(「海軍落第生」は「あゝ決戦航空隊」について)
「二・二六事件にいたるまでの道すじ」は映画公開時に双流社から刊行された『226 昭和が最も熱く震えた日』へ寄せられたもの。

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この本は、シナリオと並行して、実際にあった二・二六事件について写真をまじえて徹底的な解説をしており、映画のみならず二・二六事件について知るためにとても便利な本となっています。
巻末には、今回の伊藤彰彦氏の解説でもたびたび引用されている「シナリオ制作日記抄」が収録されています。『昭和の劇』を読んだ後だと「日記」と言いつつも、あと付けのエッセイでは??という印象を持ってしまうくらい、割と穏やかな表現でシナリオの制作過程が綴られています。
今回収録されたのは幻の「第一稿」ということで、最終稿との比較はこれからじっくりと読んでいこうと思っていますが、パラパラと眺めて少し意外に感じた点が一つ。
この映画では、青年将校たちとその妻とのやり取りがメロドラマ風に描き込まれています。この辺は改稿の際に制作陣がねじ込んだものなのかな、と思っていましたが、第一稿でもそのあたりはちょこちょこと描かれているんですね。最終的にはその部分を拡大したという感じです。
それぞれの家庭が描かれているのは澤地久枝のノンフィクション『妻たちの二・二六事件』からの影響かな、と思っていますがどうなんでしょう。読んでいないということはないと思いますが、まあ青年将校たちの人間ドラマを描こうとすると、どうしても家庭を登場させざるを得ないということはあるかもしれません。



笠原和夫を「読む」

「仁義なき戦い」関連本集成

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「笠原和夫傑作選」の刊行を記念して、映画「仁義なき戦い」に関した本をズラズラっとご紹介します。点数が多いので、内容について簡単に。詳しいことはリンク先のAmazonでレビューを御覧ください。

実際の事件について





全ての原点である原作。広能昌三のモデルである美能幸三の手記を元に「広島戦争」を描いたルポルタージュです。角川文庫で長らくを版を重ねていましたが、今は電子書籍しか販売されていないようです。



第一部で梅宮辰夫が演じた若杉寛のモデル・大西政寛と、第二部で北大路欣也が演じた山中正治のモデル・山上光治の評伝。広島ヤクザのなかでも特に伝説に語られる2人です。



モデルになった人物・事件を紹介していく内容。ビジュアル満載なので、皆さんの尊顔を拝めます。ひとりひとりの人物について詳細に紹介しているため、実際の事件について書かれた本を読むときも参考になります。



上記の本の姉妹編的な内容です。実際の事件が映画ではどのように脚色されて描かれているのかが詳細に分析されており、シリーズのファンには興味深い内容です。



「学ぶ」というところに「そんなものを学ぶ必要が??」とツッコミを入れたくなってしまいますが、タイトル通り、「仁義なき戦い」に始まる東映実録路線の映画を参照しながら現実のヤクザ抗争史を綴っていきます。
関係者への配慮から、映画化にあたっては人物名や事件の背景などかなり脚色されることも多く、勉強になります。

映画化

映画になった経緯については、さまざまに語られていますが、まずは当事者たちの証言。



当ブログで何度も何度も紹介している笠原和夫のインタビュー集。こちらの記事で詳しく紹介しています。→笠原和夫を「読む」


映画監督 深作欣二
深作 欣二
ワイズ出版






「昭和の劇」と同じく鈴木一誌の装丁で、本棚に並べるとこんなにかっこいい2冊はありません!
というのはともかく、深作欣二のインタビュー集です。

「仁義なき戦い」調査・取材録集成
笠原 和夫
太田出版
2005-07-09


鈴木一誌の装丁でもう1冊。タイトル通り、笠原和夫が作成した取材録を書籍化したものです。
今回刊行された「笠原和夫傑作選」の見返しに取材録のカラーコピーが掲載されていますが、その全貌がこの本には収録されているというわけです。
関係者へのインタビューの記録、自作の人物関係図や年表、取材からシナリオ執筆に至る時期の日記など、てんこ盛りの内容。映画本のコーナーではなく、「歴史史料」のコーナーにでも置きたくなるような本です。



2003年にNHKのETV特集で放映された同タイトルの番組を書籍化したもの。筆者も見ましたが非常に良い内容でした。番組自体は「仁義なき戦い」ブルーレイ版BOXに特典ディスクとして収録されています。
「仁義なき戦い」シリーズのプロデューサーである日下部吾朗の回顧録。



東映京都撮影所所長として任侠路線をスタートさせ、社長として実録路線を驀進させた岡田茂の自伝。東映ファン必読です。

ファンブック

仁義なき戦い 浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
1998-05-01


「仁義なき戦い」のファンブックは大量に出ていますが、一番最初に出たのがこれで、なおかつその後、これを超えるものは現れていません。20年経った今も版を重ねている大ロングセラーです。ファン必携。

笠原和夫を「読む」

国書刊行会「笠原和夫傑作選 第二巻 仁義なき戦い――実録映画篇」入手

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さて、しつこく「笠原和夫傑作選」の話が続きます。
前回まで、購入前にもかかわらず解説記事を書いていましたが、今回は購入レポートです。
この巻については、収録作のシナリオをすべて持っているため、正直なところ「5000円出して買うべきかどうか……」とちょっと悩んだのですが、しかし、一巻と三巻だけ買って二巻が抜けているというのも蔵書としていかがなものかと思われるため、買うことにしたわけです。
ただし、笠原和夫という脚本家にそれほど深い興味がなくても、「仁義なき戦い」は大好き、という方は世の中に多いと思いますので、いちばん買う価値がある巻はやはりこの第二巻だろうと思います。

収録作品よりも、おまけに期待していましたが、解題は期待以上の内容です。
以前にやはり国書刊行会から「映画の奈落」を刊行した伊藤彰彦氏が書いています。
製作の背景から、評価に至るまで、簡潔ではありますが十分な内容が書き込まれてます。
また、月報のような付録冊子が挟んであり、ここには笠原和夫のエッセイと、藤脇邦夫氏による笠原和夫論が収録されています。
『笠原和夫シナリオ集』あとがき 笠原和夫
シリーズ″実録″物の実録 笠原和夫
 笠原和夫脚本における作劇術についての分析 藤脇邦夫
「『笠原和夫シナリオ集』あとがき」は、幻冬舎アウトロー文庫から「仁義なき戦い」シナリオ集が刊行された際に付されたあとがきです。
「シリーズ″実録″物の実録」は、雑誌「宝島」1975年1月号に掲載された文章ということです。該当号の書影を古本屋さんのサイトで見つけたので貼っておきます。執筆者に笠原和夫の名が見えます。

宝島

「笠原和夫脚本における作劇術についての分析」の藤脇邦夫氏は「出版幻想論」などの著書で出版業界では有名な方ですが、映画について文章を書かれているのは初めて見ました。笠原和夫のエッセイ集「映画はやくざなり」に収録されている「シナリオ骨法十箇条」に則って「仁義なき戦い」シリーズのシナリオを分析するという、非常に面白い内容です。

という形で、まずはおまけを堪能してから本編をパラパラとめくってみました。
冒頭にも書いたとおり、この巻の収録作はすべて手元に揃っており、「仁義なき戦い」については幻冬舎アウトロー文庫で何度も読み返しているので、まあ本当にパラパラ眺めるだけのつもりでページを開いたのですが……結局、熟読。
笠原和夫のシナリオは、やはり読み始めると引き込まれてしまいますね。
ただ、本が大きすぎて通勤電車の中で読むのは厳しいため、途中まで読んだところで改めて幻冬舎アウトロー文庫版を本棚から出してきて、そっちで読み続けているという状態。

笠原和夫を「読む」

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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