201706田中陽造著作集人外魔境篇093

田中陽造という脚本家ついては、筆者はずっと「何やら得体の知れない人」と思っていました。

最もインパクトがあるのはやはり、鈴木清順監督作への参加です。
具流八郎の一員として「殺しの烙印」、そして単独作として「ツィゴイネルワイゼン」。いずれも筆者には全然理解できないのですが、強烈に引き込まれてしまう謎の映画です。
ほかにも曽根中生監督「不連続殺人事件」、神代辰巳監督「地獄」など、どろどろした映画の印象が強くあります。
一方で、「新・仁義なき戦い 組長の首」「暴走パニック 大激突」などの深作欣二監督、あるいは「セーラー服と機関銃」「雪の断章 情熱」などのアイドル映画、「居酒屋ゆうれい」のような現代的なコメディと、これほど幅の広い作品を書き分けてしまえるのは、いったいどんな人なのだろうかと、まるで見当もつきませんでした。
筆者は上記の映画を全て、リアルタイムでは鑑賞できなかった世代であり、そのことも一因かもしれません。

そんなわけで、本書には興味を持ち読んでみました。
これまでにあちこちに発表された文章をまとめた物ですが、前半の映画論、自作解説などを読んでいると、ひどく真っ当なことばかり書いてあり、拍子抜けします。
これはこれで、映画鑑賞の手引として面白い内容ではあるのですが、もっとドロドログチョグチョした内容を期待していた身としては「なんや、普通やんか」という感想を持たざるを得ませんでした。

ところが。
後半には脚本家として売れる前の昭和45年「週刊サンケイ」(今の「SPA!」)に連載されたという「異能人間」というシリーズが収録されています。
これがすごい。
いったいどこでどうやってネタを見つけてくるのか、強烈な人間を次々紹介するルポ企画です。
親子二代で死者の刺青を剥製にする大学教授。蛇使いの女。日本海大海戦を特等席で観戦した沖の島の神職などなど。不思議な話、ドロドロした話、興味深い話が満載で滅法面白い。
やはり一般向けの娯楽作の脚本を書いたりしながらも、ベースにあるのは、この辺の濃い部分なんだなあ、ということを改めて確認できます。
田中陽造に特に興味が無い方であっても、このルポだけでも読んでみる価値はあるかと思います。

田中陽造著作集 人外魔境篇
田中陽造
文遊社
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