20170531阪神タイガースの正体084


ベストセラーとなった『京都ぎらい』にも書かれているとおり、井上章一は京都(ただし洛外の嵯峨)で生まれ育ち、京都大学で建築を学び、その後も京都にある国際日本文化研究センターで研究職を務めているという経歴の持ち主です。
このため、関西という地域に対してことのほか思い入れが強く、関西人ならではの著作もいくつかあります。

関西人の正体 (朝日文庫)
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井上章一らしい雑学を交えながらも、気楽に読めるエッセイという趣きの本です。関西愛に溢れています。
関西弁について語った最初の章が特に秀逸。
日本の標準語が江戸のアクセントに基づいているのは、関ヶ原で西軍が負けて政権が江戸へ移ったから。ということは、西軍さえ勝っていれば、標準語は関西弁だったのではないか? さらにいえば、商売に長けた関西人が鎖国などするはずがない。どんどんと海外へ侵出し、やがてはインド洋沖でイギリス艦隊と決戦、そこでも勝っていれば、世界の標準語は英語ではなく関西弁になっていたはず……
という、完全に妄想ではありますが、説得力があり、思わずあり得たかもしれないもう一つの歴史に思いを馳せてしまいます。
また、第三章「京都の正体」は、『京都ぎらい』にも通じる内容ですが、しかし「京都ぎらい」を公言はしていません。



この関西路線の最高傑作であるばかりでなく、井上章一の代表作の一つがこの『阪神タイガースの正体』です。10年ほど前にちくま文庫へ収録された後、しばらく入手困難でしたが、最近めでたく朝日文庫に収録されました。
阪神タイガースのファンはほぼ球団と一体化しており、強くても弱くても決して見捨てることがありません。なぜここまで熱狂してしまうのか? 自身もタイガースファンである著者の疑問からスタートしますが、話はどんどんと掘り下げられていき、球団の歴史のみならず、日本プロ野球の歴史が詳細に語られます。現在の熱狂がいかに形作られていったものかが、ファンならずとも納得できる本です。
 
さて、この『阪神タイガースの正体』の初版は2001年というタイガースが毎年のように最下位争いをしていた時期に刊行されたのですが、翌年から監督が星野仙一に変わり、2003年には18年ぶりの優勝をします。それを記念して(というか、まだ優勝確定前に)刊行されたのが『「あと一球っ!」の精神史』です。
ムックのような軽い仕上がりの本で、内容的にも『阪神タイガースの正体』とかぶるところもありますが、このような際物も書いたりします、ということでご紹介しておきます。

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