ワイズ出版は映画関連本、それもすごくシブい本をほぼ専門にしている出版社ですが、5年ほど前から「ワイズ出版映画文庫」というシリーズを刊行しています。
今のところ13冊刊行されていますが、これがすばらしいラインナップ。
といっても、ほとんどが過去のワイズ出版から刊行された単行本を文庫化しているものなのですが、ワイズ出版の本は値の張る上に、分厚くて本棚の場所を大きく塞いでしまうものが多く、「ちょっと興味がある」という程度のものだとなかなか手を出せません。文庫版になっても本体価格で1500円程度と、判型の割には安くはありませんが、それでも「ちょっと興味がある」程度でどんどん買ってしまえる価格とサイズです。

まずはこれまでのラインナップをご紹介します。(数字は背表紙に印刷されたナンバー)

1 完本石井輝男映画魂 石井輝男・福間健二
2 マキノ雅弘の世界 映画的な、あまりに映画的な 山田宏一
3 沢島忠全仕事 ボンゆっくり落ちやいね 澤島忠
4 加藤泰 映画華  抒情と情動 加藤泰・鈴村たけし
5 映画監督増村保造の世界 上 増村保造
6 特技監督中野昭慶 中野昭慶・染谷勝樹
7 遊撃の美学 映画監督中島貞夫 上 中島貞夫・河野眞吾
8 映画監督増村保造の世界 下 増村保造
9 遊撃の美学 映画監督中島貞夫 下 中島貞夫・河野眞吾
10 映画俳優 安藤昇 安藤昇・山口猛
11 日本映画について私が学んだ二、三の事柄 映画的な、あまりに映画的な 1 山田宏一
12 日本映画について私が学んだ二、三の事柄 映画的な、あまりに映画的な 2 山田宏一
13 不死蝶 岸田森 小幡貴一・田辺友貴

タイトルを見るだけで「買わなくっちゃ、買わなくっちゃ」と思ってしまう並びですが、以下、簡単に内容をご紹介します。



親本は1991年にワイズ出版より刊行された『石井輝男映画魂』。「網走番外地」「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」「徳川女刑罰史」「直撃!地獄拳」など、カルト的人気を誇る映画を数多く監督した石井輝男のインタビュー集です。単行本のときになかった「完本」が加えられているのは、その後のフィルモグラフィーなど資料が追加されているため。



いずれもワイズ出版から刊行された『次郎長三国志 マキノ雅弘の世界』(2002年)と『日本侠客伝 マキノ雅弘の世界』(2007年)を合本にしたもの。著者がこれまでに書いてきたマキノ雅弘関連の文章を集成したもの。インタビューも収録されています。



親本は2001年に同タイトルで刊行。全監督作をインタビューで語っています。「人生劇場 飛車角」は東映任侠路線第一作と言われています。



親本は1995年刊行。過去のエッセイに加え、全作品紹介。作品紹介には、加藤泰自身が書いた関連の文章が付されています。




今も熱心なファンが多い、大映で撮った一連の文芸映画や、「大映ドラマ」と言われる70年代のドラマなどで知られる増村保造。自身のエッセイや評論に加え、関係者のインタビュー、詳細なフィルモグラフィーを収録。
親本は1999年に一巻本で刊行。



東宝で円谷英二の薫陶を受けた特技監督・中野昭慶てるよしのインタビューによる全作品回顧。親本は2007年刊。




「日本暗殺秘録」「狂った野獣」「日本の首領」シリーズなどを撮った中島貞夫のインタビューによる全作品回顧。
親本は2004年刊。この親本の装丁は、笠原和夫『昭和の劇』、深作欣二『映画監督深作欣二』と同じく鈴木一誌によるもので、むちゃくちゃかっこいい本でした。



元ヤクザの映画俳優・安藤昇のインタビュー、著者の作品評を収録。親本は2002年。




97年に刊行された『山田宏一の日本映画誌』を分冊して文庫化したもの。
黒澤明から、寅さん、ロマンポルノまで、縦横無尽に邦画を論じた著者の評論集成。



親本は2000年刊行。怪奇俳優・岸田森について書かれた文章、本人のエッセイ、フィルモグラフィーなどを収録。

『不死蝶』が刊行されてから、しばらく止まっていますが、今後の希望を言えば、永らく品切れになっている『惹句術』を文庫化してほしいです。(単行本で持っていますが)