備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

リング

「地獄は実在する 高橋洋恐怖劇傑作選」2月9日発売予定!

201801リング162

2月に要注目の新刊が刊行予定です。Amazonでの予約受付がスタートしていました。



以前に下記の記事でも紹介したJホラーブームの立役者、脚本家・高橋洋のシナリオ集です。(追記:当初2月5日と告知されましたが、9日に延びたようです)

90~00年代Jホラー懐古 第6回 Jホラーブームの申し子たち

この記事は特に高橋洋について書き始めたわけではなかったにもかかわらず、気がついたら高橋洋の話ばかり書いてしまっていたわけですが、まあそのくらい、ファンにとっては熱狂的になってしまう脚本家なわけです。
高橋洋はこれまで、ホラーを中心にかなりの数の作品を発表していますが、著書は多くはなく、筆者が知る限りでは以下の4冊のみです。



映画の魔
青土社



はじめの2冊は、タイトル通り、大ヒット作「リング」シリーズのシナリオです。
以前の記事にも書いたとおり、映画「リング」を見て受けた衝撃は、個人的にはとても凄まじいものでしたが、しかし、その時点では高橋洋という脚本家がいったいどんな人なのか、「女優霊の脚本と同じ人」ということ以外、何も知りませんでした。
「リング2」は「らせん」とはパラレルワールドとなる「リング」の続編、ということで当然、劇場へ観に行ったのですが、前作とはまるで違うチンプンカンプンの世界で、全く煙に巻かれた気分でしたが、今にして思えば、これこそが高橋洋の真骨頂だったわけです。
(なお、この文庫の「リング」に付されたあとがきのタイトルが、今回のシナリオ集と同じく「地獄は実在する」となっています。「リング」の映画本編で使われなかったフレーズから取られたものということです)

次の「映画の魔」はエッセイ集ですが、ここへ来てようやく高橋洋の「思想」が見えてきました。「わけわかんなあ」と思っていた高橋洋作品ですが、これを読むと「えー!!そんなこと考えていたの!?」と、更に衝撃度が増す仕組みになっています。
さらに「映画の生体解剖」は、高橋洋に輪をかけてとんでもない映画の見方をしている稲生平太郎(作家であると同時に、本名の横山茂雄名義で英文学、幻想小説の研究もしている方)との対談ですが、これはもう筆者などは全然知らない映画の話ばかりしており、まるで話にはついていけません。「どう考えてもそれはないだろ」と思うような変態的な解釈ばかりが飛び交っている様を「芸」として楽しむ本かと思います。

というわけで、映画と同様、かなり狂った本ばかり出している高橋洋ですが、シナリオ作品がまとまった形で本になったことはなく、待望の刊行です。

収録作は以下のラインナップということです。
・女優霊 1996年
・インフェルノ蹂躙 1997年
・蛇の道 1998年
・ソドムの市 2004年
・狂気の海 2007年
・恐怖 2010年

「女優霊」「ソドムの市」「狂気の海」については、以前の記事で熱く語りましたので、その他の作品についても少し紹介しましょう。

「インフェルノ蹂躙」は、筆者は未見です。日活からオリジナルビデオとして発売された「エロティックサスペンス」で、レンタルショップで借りるしか見る方法がない作品ですが、DVDにはなっていないため、鑑賞はかなり難しい状況です。
「蛇の道」は盟友・黒沢清監督作です。当時、黒沢清とのコンビで劇場公開作なのかオリジナルビデオなのかよくわからないプログラムピクチャーをいくつか製作していますが、その中でも最悪の後味が伝説的に語られている一作です。
「恐怖」もまた問題作ですね。「感染」「予言」「輪廻」「叫」と続く一瀬隆重プロデュース「Jホラーシアター」の一作として公開されたため、大作感のあるホラーを期待して観に行った方も多いかと思いますが、内容は「ソドムの市」「狂気の海」に続く全くの高橋洋作品。期待とのギャップに物議を醸しましたが、高橋洋ファンには熱狂的に迎えられました。

というわけで、今やあまりレンタルショップでも見かけない、レアな作品が並んでいます。
高橋洋は自身で監督もしますが、やはり軸足は「脚本家」にあり、氏の思想を知るには映像を見るよりもまず、脚本を読み、セリフとストーリーを堪能することが重要かと思います。
万人には決して勧められない内容かと思いますが、高橋洋ファンはこの機会を逃さないほうが良いでしょう。
出版元の幻戯書房(げんきしょぼう)は、角川源義(角川書店創業者)の娘である辺見じゅん(角川春樹・角川歴彦の姉)が創業した出版社で、文学書がメインですが、映画の本もたくさん発行しています。どこの書店でも取り扱っていますが、新刊が入荷しない書店も多いと思いますので、大型書店かネット書店で購入する、あるいは事前に予約しておくことをおすすめします。

また、2月にはこれまた内容が全く見当もつかない、しかし怪作であることだけは間違いのない「霊的ボルシェヴィキ」が公開されますが、月刊誌「シナリオ」にシナリオが掲載されるそうです。

シナリオ 2018年 03 月号 [雑誌]
日本シナリオ作家協会
2018-02-05


以下、シナリオ集に収録予定作品のDVD、Amazon販売ページ。
女優霊 [DVD]
バンダイビジュアル

蛇の道 [DVD]
東芝デジタルフロンティア

<ホラー番長シリーズ> ソドムの市 [DVD]
アット エンタテインメント

狂気の海 [DVD]
ALPHA ENTERPRISE Co.,Ltd(IND/DAS)(D)

恐怖 [DVD]
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


関連記事:
月刊「シナリオ」2018年3月号「霊的ボリシェヴィキ」誌上鑑賞
今更ながら映画「クリーピー 偽りの隣人」(黒沢清監督)を擁護する
90~00年代Jホラー懐古 第2回 「リング」の生い立ち
90~00年代Jホラー懐古 第6回 Jホラーブームの申し子たち
文芸としてシナリオを読む

90~00年代Jホラー懐古 第3回 「ほんとにあった怖い話」と小中理論

201709映画の魔125

映画というものを、筆者はどうしても「監督の作品」と考えてしまいます。
これは多くの人にとってそうではないでしょうか。
総合芸術と言われ、さまざまな職人が関与しており、また監督が携わるより先に原作者・脚本家がストリーを練っているにもかかわらず、最終的には監督名が大きくクローズアップされます。
映画「リング」についても、筆者は当初「中田秀夫」という監督名が最も強く印象に刻まれました。
ところがしかし、この映画は明確に脚本家・高橋洋の「作品」なのです。

「幽霊が怖いのは襲いかかって来るからではない。それでは生身の動物、殺人鬼や猛獣の怖さと変わらない。」「幽霊が怖いのはそれがこの世のモノではないから、その一点につきる。生身の人間が演じるほかない幽霊からどうやって”人間らしさ"を剥ぎ取るか。これが恐怖映画における幽霊表現の最大の課題なのである」
~高橋洋「地獄は実在する」より(青土社『映画の魔』2004年・収録)

高橋洋のこの取り組みは、「リング」において観客に最大級の衝撃を与え、ここからJホラーブームがスタートしたわけです。
では、高橋洋を駆りたてたものは何だったのか。

1991年にオリジナルビデオとして公開された「ほんとにあった怖い話」というオムニバスシリーズがあります。ここでは監督・鶴田法男、脚本家・小中千昭のコンビにより、まさに高橋洋がいうところの「この世のモノではないから、怖い」を実践した作品が製作されていました。
特に「第二夜」に収録された「霊のうごめく家」は、Jホラーの発火点である語り継がれています。
高橋洋はこの短編を絶賛し、ことあるごとに繰り返し言及しました。
その際、高橋洋が言い続けたのが「小中理論」です。
生身の人間がどうしたら幽霊に見えるのか。
それを徹底的に突き詰めた技術体系のことです。脚本家・小中千昭が生み出したものとされていました。

小中千昭は「ウルトラマン」や「アニメ作品」を職人的にこなしている脚本家ですが、初期はホラー映画中心に活動していました。
小中千昭自身、ホラーの恐怖を熱心に探究するタイプの脚本家でしたが、とはいえ明確な理論を記述していたわけではなく、作品に現れたテクニックを高橋洋が分析して「小中理論」と称していたわけです。
「リング」が公開され、高橋洋の宣伝の甲斐もあり、ホラー映画ファンのあいだでは「小中理論」という言葉が広く浸透しました。
当時、小中理論の実践作として語られたのは、以下のような作品です。
「邪願霊」……1988年製作のオリジナルビデオ。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」に先駆けたモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)形式のホラーで、約10年後に開花するJホラーの正真正銘の原点とされています。
「ほんとにあった怖い話」シリーズ……1991年にスタートした、鶴田法男監督のオリジナルビデオ。
「学校の怪談」……テレビドラマ。連続ものとしてワンクール放映されたのち、何度かスペシャルドラマを放映。小中千昭、高橋洋、鶴田法男、中田秀夫、黒沢清とJホラーの立役者が集結しているうえ、「学校の怪談G」収録の掌編「片隅」・「4444444444」は清水崇のデビュー作となった。
「DOORⅢ」……小中千昭脚本・黒沢清監督の映画。

さて、小中千昭はJホラーブームが一段落した2003年、岩波アクティブ新書から「ホラー映画の魅力」という本を刊行し、ついに小中理論の記述を試みます。
ここでようやく「リング」へと至るJホラー誕生の姿が、正確に、そして理論的に語られることになったのです。
小中千昭は本書の中で、本当に怖いホラーのことを「ファンダメンタル・ホラー」と呼びました。
「恐怖」と「驚き」とを厳密に区別し、「ジョーズ」や「キャリー」はよく出来た映画ではあるものの、ホラーではなく「ショッカー」であるという指摘には目の覚める思いがしたものです。

映画「リング」公開の前史にはこのような取り組みがあり、その成果がJホラーブームとなったわけです。
次回は「呪怨」について語ります。

関連書籍・DVD:リンク先は全てAmazonです。

オリジナルビデオとして発表された「ほんとにあった怖い話」シリーズを全て収録したDVD。「霊のうごめく家」ももちろん入ってます。


DVDは竹中直人が主役のようなパッケージになっていますが、当時はまだ売り出し中で、本編には背中姿しか写っていません。



映画の魔
高橋 洋
青土社
2004-09


恐怖の作法: ホラー映画の技術
小中 千昭
河出書房新社
2014-05-15

(「ホラー映画の魅力」を再録した評論集)
 

90~00年代Jホラー懐古 第2回 「リング」の生い立ち

201709リング122

鈴木光司によるホラー小説「リング」は、1991年に角川書店から単行本で発行されました。
もともと横溝正史賞に応募し、最終選考まで残ったものの「ミステリではない」という理由で選に漏れたものでした。その後、鈴木光司が「楽園」でファンタジーノベル大賞を受賞して作家デビューしたことから、「リング」も刊行されることになったようです。
初版部数は正確には知りませんが、数千部だった言われています。文芸書が全く売れない現在の目から見ると「まあ、そんなもんでしょう」という部数ですが、もっとガンガンと刷っていた91年当時にあっては非常に地味な存在でした。筆者は1991年というと高校1年生のときで、新作の国内ミステリは熱心にチェックしていましたが、「リング」については新刊時点では書店で見かけた記憶はありません。

この作品に小説好きの注目が集まったのは「このミステリーがすごい! 92年版」の14位にランクインしたことがきっかけではないかと思います。この年のベスト20位以内にランクインしている作品は、おおむね評価の定まった作家のものばかり並んでいる中で(麻耶雄嵩「翼ある闇」もこの年で13位に入っていますが、島田荘司推薦の派手な登場でした)、「鈴木光司・リング」という作家名・書名ともに地味な組み合わせは逆に目立っていました。
さらに同書に掲載された三橋暁のコラム「氷河期のホラー小説を救え!」では、今年の「きわめつけ」として激賞されており、興味をそそられるものでした。
筆者は、ここで「リング」の存在を知り、地味な装丁がこれまた伝説になっている初版本で読んだのですが、とはいえ、この時点でもこの小説を認知しているのは「このミス」を読んでいるような人だけでした。(この頃は「このミス」もまだ4回目で、単なるミステリマニアのお祭りに過ぎず、ランクインしたらベストセラーになるというような現象は全くありませんでした)

マニアではない、一般読者のあいだでブレイクしたきっかけは、1993年に角川ホラー文庫創刊ラインナップに加えられたことでしょう。
店頭での展開を眺めていても、もしかして「リング」を売るためにレーベルを創刊したのか、と思ってしまうくらい、強力にアピールされていた記憶があります。
ここにおいて「リング」はベストセラー小説となり、ホラー好きのあいだでは知らぬもののない作品となったわけです。

95年には2時間ドラマが製作されました。
脚本の飯田譲治は当時、深夜ドラマ「NIGHT HEAD」でカルト的な人気を博しており、放映前からかなり話題になっていました。
前回の記事にも書いたとおり、出来映えは期待以上で、この原作のほぼ完璧な映像化と思われました。

と、ここまでが映画「リング」が登場するまでの「前史」に当ります。
今回のシリーズ記事は「Jホラー懐古」ということで、映画「リング」をブームの起点に置いています。
この映画は、今でこそ化け物「貞子」を主役としたJホラーの代表作と認識されていますが、公開時にはこんなに怖い内容であることは予想されておらず、観客のほとんどは「原作に興味がある」という人の方が多かったのではないかと思います。
したがって、公開時点での世間の空気を記録するためには、原作が当時どのように評価されていたのかを見直すことも必要と考え、筆者の視点から見た小説「リング」の歴史をつらつらと書いてみました。

映画が原作ファン向けに製作されたことは、続編である「らせん」と当時上映されたことからも伺われます。なおかつ「らせん」の監督はあの飯田譲治でした。
筆者などは、「女優霊」の中田秀夫監督・高橋洋脚本コンビが「リング」の世界と馴染めるとは思えず、映画館へ行くときには、どちらかというと飯田譲治の「らせん」の方に期待していたくらいです。

しかし、「リング」のラスト、テレビから這い出る貞子のショックは大きすぎました。
筆者は友人と観にいきましたが、二人とも「らせん」のことはまるで記憶に残らず、「リング」の衝撃についてばかり話しながら帰ってきた記憶があります。
「らせん」は、原作自体がホラーからSFへと話が変わってしまっており、賛否両論でしたが、筆者は非常に気に入っていました(ちなみに「らせん」は「リング」が文庫化されたあとで刊行されたため、発売直後からベストセラーとなり、筆者は初刷を買い損ねて重版を待って買う羽目になりました)。
映画「らせん」は原作を非常に忠実に映像化しており、ドラマ版「リング」とセットにすれば、鈴木光司の世界をハイレベルに再現したシリーズということになったはずなのですが、しかし、映画「リング」の原作とは別の恐怖を引きずり出した演出の前には霞んで見えるのもやむを得ないことでした。

これは世間のほとんどがそうだったようで、その後「リング2」という「らせん」とは別の続編まで作られてしまいました。
後年、「らせん」で主演した佐藤浩市が、Jホラーブームの中で作られた映画「感染」の製作発表記者会見で「『リング』がJホラーの火付け役らしいが、我々が一生懸命作った『らせん』はどこへ行ってしまったんだ!」というようなことを自嘲気味に発言していて、笑ってしまいました。

次回は、映画「リング」に影響を与えたものを見ていきたいと思います。

リング (角川ホラー文庫)
鈴木 光司
角川書店
1993-04-22


profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

スポンサーリンク
ギャラリー
  • 宮脇孝雄『洋書天国へようこそ』は翻訳ミステリ・SFファンにおすすめ
  • 筑摩選書「ベストセラー全史【現代篇】」澤村修治
  • 立風書房『現代怪奇小説集』中島河太郎・紀田順一郎/編(1974年)目次
  • 笠原和夫脚本「博奕打ち いのち札」ついにDVD発売!
  • 学習漫画「日本の歴史」を買うなら、おすすめはどれ?人気4大シリーズ+αを比較
  • 小学1年生の次男が幽霊を目撃
プロフィール

squibbon

タグクラウド