201806なめくじに聞いてみろ233

先日の記事でも少し触れましたが、個人的に熱愛している「昭和ミステリ」の1冊をご紹介します。
都筑道夫の「なめくじに聞いてみろ」です。
これは昭和36年から37年にかけて双葉社の雑誌「実話特報」に連載され、その後「飢えた遺産」と改題されて単行本となり、さらに元のタイトルへ戻して何度か再刊されているものです。

筆者がこれを読んだのは中学2年の頃。平成2年の正月くらいだったと記憶しています。
当時、すでに講談社文庫版が絶版状態だったのですが、これは特に探し回ったわけでもなく、行きつけの古本屋に置いてあったものを、ちょっと面白そうだな、と思って買ってきたものでした。
その前からタイトルだけは知っていました。
当時の筆者がミステリを読む際の参考にしていたのは、文春文庫「東西ミステリーベスト100」と、自由国民社から出ていた「世界の推理小説総解説」の2冊でした。
「なめくじに聞いてみろ」は、文春のベストには入っていなかったのですが、「世界の推理小説総解説」のなかで紹介されていました。

最近はこの手の本が市場から消えてしまっていますが、インターネットもなかった時代、また周囲にミステリ好きもいない状況の中、この「世界の推理小説総解説」はミステリ初心者にとっては非常にありがたい内容の本でした。新本格の時代はまだ始まっていませんが、それ以前のミステリについて系統的に理解するのに大いに役立ちました。
「なめくじに聞いてみろ」については作品を大きく取り上げているわけではなく、都筑道夫の人物紹介の中で「作者一流の描写と工夫が凝っているし、しかも意外な犯人をもってきている」と一行だけ書かれていました(中島河太郎による)。
正直なところ、やや的はずれな印象で、それほど面白そうな小説にも感じられない紹介文ですが、これが記憶に残っていたのは、やはりこの奇妙なタイトルです。「飢えた遺産」のままだったら、きっと古本屋で見かけても手に取らなかったでしょう。初期の都筑道夫は「猫の舌に釘を打て」「七十五羽の烏」など、タイトルからはさっぱり内容を推測できない作品が多く、読む前からワクワクしたものです。

さて、ストーリーを簡単に紹介すると、これは殺し屋対殺し屋の戦いを描いた物語です。
主人公・桔梗信治の父親は殺人方法考案の天才。出羽の山奥で奇妙な殺人方法を次々編み出しては、東京に1ダースいるという弟子に教授していた。
父が息を引き取る際、そのことを知った主人公は、物騒な弟子をすべて抹殺すべく、東京へやって来る。しかし、名前も居場所もわからない……。
というわけで、本書は全13章から成っていますが、毎回、奇想天外な手段を使う殺し屋を発見→接近して父親の弟子と確信→対決、という流れが語られます。
30ページごとに奇抜なアイデアとクライマックスが繰り返されるわけで、盛り上がったまま最後まで一気読みできます。

この殺し屋たちの馬鹿騒ぎという点では、最近の作品ですが伊坂幸太郎「マリアビートル」は非常に近いものを感じました。

マリアビートル (角川文庫)
伊坂 幸太郎
KADOKAWA
2013-09-25


逆にいうと、「マリアビートル」が好きな方には、「なめくじに聞いてみろ」は全力でおすすめできます。
また、昭和30年代の風俗がみっちりと描き込まれ、昭和の「かっこよさ」をたっぷり堪能できます。
とにかく主人公・桔梗信治の凄腕ぶり!
冒頭のバーのシーンだけで完全にやられてしまいます。
中盤でも女性にモテモテ。特に壺ふりのお竜さんというのが色っぽくて、中2男子としては頭をクラクラさせながら読んでました。桔梗が居合の腕前を披露して、お竜さんの着物の帯を切り落としてしまうくだりなんかは、初読から30年近く経った今も忘れられない名シーンです。
このようなケレンに満ちた語り口は、最近の作家ではなかなかお目にかかれないもので、都筑道夫ならではという気もします。

本書は平成12年に扶桑社文庫の「昭和ミステリ秘宝」シリーズの一冊として復刊したことがあるのですが、それも今は絶版。
平成16年に法月綸太郎が「生首に聞いてみろ」という作品を発表し、「このミス」1位という高評価を得ました。内容はガチガチの本格ミステリで「なめくじに聞いてみろ」とは全く関係ないのですが、タイトルは明らかに「なめくじ」から取ったものでした。
週刊文春が平成24年に2度目の「東西ミステリーベスト100」を作ったときは、なんとランク入り。これはもしかすると「生首に聞いてみろ」の効果だったかも知れませんが、驚きました。
そんなわけで、ここ20年の間に、改めて復刊してもよいのでは、というチャンスが何度かありつつも入手困難な状態が続いているため、「昭和ミステリ」ブームの今こそ、もう一度刊行してほしいものだと思います。
なお、「昭和ミステリ秘宝」版の解説は日下三蔵さんが書かれていますので、もしかすると日下さんにとってはすでに一回終わった仕事、ということになっているのかも知れませんが……
でも、ちくま文庫か創元推理文庫にこれが収録されたら、すごくかっこいい本になりそうで、考えるだけで頭がクラクラします。



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