備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

都筑道夫

ちくま文庫から都筑道夫「紙の罠」が復刊

201909危いことなら銭になる010

ちくま文庫から11月に都筑道夫「紙の罠」が刊行されます。

紙の罠 (ちくま文庫 (つ-11-4))
都筑 道夫
筑摩書房
2019-11-07


都筑道夫は「三重露出」「猫に舌に釘をうて」「七十五羽の烏」「なめくじ長屋」シリーズなどの本格ミステリが有名ですが、アクション小説もいろいろ書いており、筆者はどちらかと言うとそちらの方が好きなのです。
この「紙の罠」は「なめくじに聞いてみろ」に続く、コミカルなアクション小説の第2弾ということになります。

紙幣印刷用の紙を積んだトラックが襲撃され、大量の用紙が盗まれたとニュースになる。
となると、犯人の目的は偽札作りだろうから、次に狙われるのは偽札印刷の名人だろう……ということで、主人公たちは名人の身柄を犯人グループより先に押さえ、身代金をせしめようを画策します。
このプロットからして、もうたまらん。

筆者がこの小説を何で知ったのかはよく覚えていません。
30年ほど前、中学2年生のときにたまたま読んだ「なめくじに聞いてみろ」で都筑道夫の魅力に取りつかれ、同じ系列にある作品としてこの「紙の罠」と「暗殺教程」とが並べて紹介されているのを何かで読んだのでした。
都筑道夫本人のエッセイだったような気がするのですが、よくわかりません。
のちに単行本化された『推理作家の出来るまで』では、たしかにこのあたりの作品を並べて回顧しているのですが、平成元年頃には筆者にはこの文章を読むすべはなかったはずで、なにか別の本だったのではないかと思うのですが……

ともかく、当時は都筑道夫の初期作品は何もかも絶版だったため、「紙の罠」も「暗殺教程」も古本屋で文庫を探して読みました(入手は楽でした)。
その後、「なめくじに聞いてみろ」は扶桑社文庫から、「暗殺教程」は光文社文庫から復刊されましたが、「紙の罠」はどこからも復刊されずさびしく思っていました。
今回は土方・近藤シリーズの続編となる「悪意銀行」も一緒に復刊されるということなので、久しぶりに読み返すことにしようと思っています。

ついでに言えば、今回は「土方・近藤シリーズ」の復刊という趣旨のようですが、できれば「都筑道夫アクション小説の復刊」という路線にしていただき、「なめくじに聞いてみろ」も続刊で出してくれないかな、と。
講談社文庫版は古本屋で3冊も買っているし、扶桑社文庫版も買って大事に持っているのですが、ちくま文庫から出るとなったら、また買っちゃいますよ、絶対に。扶桑社文庫版が出て、よく考えたらもう20年近く経っています。
「紙の罠」「悪意銀行」のあとに続けで刊行されても一切の違和感はないので、ぜひ、と願っております。 

ちなみに、書き忘れましたが冒頭の画像は「紙の罠」を映画化した日活「危いことなら銭になる」のDVDジャケット。
詳しいことは、以前に書いたこちらの記事を御覧ください。
都筑道夫関連映画のDVD その1

都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」

201806なめくじに聞いてみろ233

先日の記事でも少し触れましたが、個人的に熱愛している「昭和ミステリ」の1冊をご紹介します。
都筑道夫の「なめくじに聞いてみろ」です。
これは昭和36年から37年にかけて双葉社の雑誌「実話特報」に連載され、その後「飢えた遺産」と改題されて単行本となり、さらに元のタイトルへ戻して何度か再刊されているものです。

筆者がこれを読んだのは中学2年の頃。平成2年の正月くらいだったと記憶しています。
当時、すでに講談社文庫版が絶版状態だったのですが、これは特に探し回ったわけでもなく、行きつけの古本屋に置いてあったものを、ちょっと面白そうだな、と思って買ってきたものでした。
その前からタイトルだけは知っていました。
当時の筆者がミステリを読む際の参考にしていたのは、文春文庫「東西ミステリーベスト100」と、自由国民社から出ていた「世界の推理小説総解説」の2冊でした。
「なめくじに聞いてみろ」は、文春のベストには入っていなかったのですが、「世界の推理小説総解説」のなかで紹介されていました。

最近はこの手の本が市場から消えてしまっていますが、インターネットもなかった時代、また周囲にミステリ好きもいない状況の中、この「世界の推理小説総解説」はミステリ初心者にとっては非常にありがたい内容の本でした。新本格の時代はまだ始まっていませんが、それ以前のミステリについて系統的に理解するのに大いに役立ちました。
「なめくじに聞いてみろ」については作品を大きく取り上げているわけではなく、都筑道夫の人物紹介の中で「作者一流の描写と工夫が凝っているし、しかも意外な犯人をもってきている」と一行だけ書かれていました(中島河太郎による)。
正直なところ、やや的はずれな印象で、それほど面白そうな小説にも感じられない紹介文ですが、これが記憶に残っていたのは、やはりこの奇妙なタイトルです。「飢えた遺産」のままだったら、きっと古本屋で見かけても手に取らなかったでしょう。初期の都筑道夫は「猫の舌に釘を打て」「七十五羽の烏」など、タイトルからはさっぱり内容を推測できない作品が多く、読む前からワクワクしたものです。

さて、ストーリーを簡単に紹介すると、これは殺し屋対殺し屋の戦いを描いた物語です。
主人公・桔梗信治の父親は殺人方法考案の天才。出羽の山奥で奇妙な殺人方法を次々編み出しては、東京に1ダースいるという弟子に教授していた。
父が息を引き取る際、そのことを知った主人公は、物騒な弟子をすべて抹殺すべく、東京へやって来る。しかし、名前も居場所もわからない……。
というわけで、本書は全13章から成っていますが、毎回、奇想天外な手段を使う殺し屋を発見→接近して父親の弟子と確信→対決、という流れが語られます。
30ページごとに奇抜なアイデアとクライマックスが繰り返されるわけで、盛り上がったまま最後まで一気読みできます。

この殺し屋たちの馬鹿騒ぎという点では、最近の作品ですが伊坂幸太郎「マリアビートル」は非常に近いものを感じました。

マリアビートル (角川文庫)
伊坂 幸太郎
KADOKAWA
2013-09-25


逆にいうと、「マリアビートル」が好きな方には、「なめくじに聞いてみろ」は全力でおすすめできます。
また、昭和30年代の風俗がみっちりと描き込まれ、昭和の「かっこよさ」をたっぷり堪能できます。
とにかく主人公・桔梗信治の凄腕ぶり!
冒頭のバーのシーンだけで完全にやられてしまいます。
中盤でも女性にモテモテ。特に壺ふりのお竜さんというのが色っぽくて、中2男子としては頭をクラクラさせながら読んでました。桔梗が居合の腕前を披露して、お竜さんの着物の帯を切り落としてしまうくだりなんかは、初読から30年近く経った今も忘れられない名シーンです。
このようなケレンに満ちた語り口は、最近の作家ではなかなかお目にかかれないもので、都筑道夫ならではという気もします。

本書は平成12年に扶桑社文庫の「昭和ミステリ秘宝」シリーズの一冊として復刊したことがあるのですが、それも今は絶版。
平成16年に法月綸太郎が「生首に聞いてみろ」という作品を発表し、「このミス」1位という高評価を得ました。内容はガチガチの本格ミステリで「なめくじに聞いてみろ」とは全く関係ないのですが、タイトルは明らかに「なめくじ」から取ったものでした。
週刊文春が平成24年に2度目の「東西ミステリーベスト100」を作ったときは、なんとランク入り。これはもしかすると「生首に聞いてみろ」の効果だったかも知れませんが、驚きました。
そんなわけで、ここ20年の間に、改めて復刊してもよいのでは、というチャンスが何度かありつつも入手困難な状態が続いているため、「昭和ミステリ」ブームの今こそ、もう一度刊行してほしいものだと思います。
なお、「昭和ミステリ秘宝」版の解説は日下三蔵さんが書かれていますので、もしかすると日下さんにとってはすでに一回終わった仕事、ということになっているのかも知れませんが……
でも、ちくま文庫か創元推理文庫にこれが収録されたら、すごくかっこいい本になりそうで、考えるだけで頭がクラクラします。



関連記事:
個人的に復刊を希望する昭和のミステリ
昭和ミステリ復刊状況まとめ
都筑道夫関連映画のDVD その1
 

都筑道夫関連映画のDVD その2

今回は、都筑道夫が脚本を執筆した映画のDVDをご紹介します。
といっても、これは2本だけ。しかも同じシリーズです。



この映画は、ずっと昔から見たくて見たくて仕方ありませんでした。
というのは、晶文社からむかし出ていた都筑道夫の評論エッセイ集『黄色い部屋はいかに改装されたか?』という本がありますが、映画のアイデアについて綴った一文が収録されているのを、高校の図書室で読んだことがあったのです。「100発100中」で使われたアイデアと、「黄金の眼」で使われなかったアイデアとが紹介されていましたが、これが非常に面白そうに書かれていたため、これは素晴らしい映画だろうと思っていました。
DVDが発売されて、ようやく見ることが叶いましたが……やはり、アイデアというのものは文章で読んだ方がよいものです。映像化されると、どうしても予算やら技術やらの制約を受けてしまいます。
とはいえ、往年のスパイ冒険活劇としてとても楽しめる映画です。「危いことなら銭になる」と同じく、都筑道夫らしさを堪能できます。
本格ミステリ作家としてだけではなく、スパイ小説、アクション小説など大衆娯楽小説の文豪として都筑道夫に敬意を抱いている筆者としては、やはりとても愛着のあるDVDです。

黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版
都筑 道夫
(リンク先はAmazon)


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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