平成元年前後から四六判ハードカバー書き下ろしミステリのブームを形成したシリーズを紹介していますが、今回は「新潮ミステリー倶楽部」です。
これは、各社から刊行されたシリーズのなかで最もブランドイメージを確立していたものでした。「新潮ミステリー倶楽部の新刊ならとりあえず読んでおこう」という読者も少なからずいたはずです。
背表紙に押された著者の指紋が目印で、平野甲賀がデザインした非常に好感の持てる装丁でした。
収録作品は本格ミステリよりは冒険小説・ハードボイルドが多く、同時期にスタートした「このミス」には数多くの作品がランクインしました。特に95年は「ホワイトアウト」「鋼鉄の騎士」「蝦夷地別件」で1位から3位を独占するという、快挙を達成しています。
そもそも、新潮社はこのシリーズを創刊するまではそれほどミステリに力を入れていたわけではありませんでした。しかし、新潮ミステリー倶楽部、さらに同年に日本推理サスペンス大賞もスタートし、あっという間に国内ミステリを席巻してしまったわけです。
このあたりの事情は新保博久「ミステリ編集道」(本の雑誌社)に創刊当時の担当編集者のインタビューが載っており、裏話が詳しく語られています。(指紋押捺を拒否した作家が一人だけいたとか)
個人的には、やはり岡嶋二人の解散作「クラインの壺」および井上夢人の再デビュー作「ダレカガナカニイル…」が印象深いですね。この2冊は、本当に何度読み返したことか。
また、綾辻行人「霧越邸殺人事件」、宮部みゆき「レベル7」という大作2冊が同時に刊行されたときも、かなり興奮しましたね。といっても、そのときに買ったのは「霧越邸」だけでしたが、こういう重厚な雰囲気の本格を待っていた!という気分でした。
その他、このシリーズに関しては思い入れの強く作品がずらずらと並んでいます。死ぬまでには全作品制覇を狙ってもいいかなあ、と半分くらい本気で考えていたりもします。
景山民夫 「遥かなる虎跡」(1988年)
逢坂 剛 「さまよえる脳髄」(1988年)
佐々木譲 「ベルリン飛行指令」(1988年)
日下圭介 「黄金機関車を狙え」(1988年)
井沢元彦 「忠臣蔵元禄十五年の反逆」(1988年)
三浦 浩 「ブルータスは死なず」(1988年)
青柳友子 「あなたの知らないあなたの部屋」(1988年)
黒川博行 「切断」(1989年)
本岡 類 「白い手の錬金術」(1989年)
東野圭吾 「鳥人計画」(1989年)
小杉健治 「土俵を走る殺意」(1989年)
由良三郎 「完全犯罪研究室」(1989年)
井上 淳 「赤い旅券」(1989年)
佐々木譲 「エトロフ発緊急電」(1989年)
岡嶋二人 「クラインの壷」(1989年)
保田良雄 「軍艦島に進路をとれ」(1989年)
楢山芙二夫 「傷だらけの銃弾」(1989年)
山崎光夫 「ヒポクラテスの暗号」(1990年)
高橋義夫 「北緯50度に消ゆ」(1990年)
久松 淳 「K」(1990年)
綾辻行人 「霧越邸殺人事件」(1990年)
宮部みゆき 「レベル7」(1990年)
多島斗志之 「クリスマス黙示録」(1990年)
志水辰夫 「行きずりの街」(1990年)
山崎洋子 「熱帯夜」(1991年)
高村 薫 「神の火」(1991年)
井上夢人 「ダレカガナカニイル…」(1992年)
高村 薫 「リヴィエラを撃て」(1992年)
伴野 朗 「白公館の少女」(1992年)
小池真理子 「夜ごとの闇の奥底で」(1993年)
折原 一 「異人たちの館」(1993年)
本岡 類 「真冬の誘拐者」(1993年)
帚木逢生 「臓器農場」(1993年)
斎藤 純 「百万ドルの幻聴」(1993年)
佐々木譲 「ストックホルムの密使」(1994年)
若竹七海 「火天風神」(1994年)
藤田宜永 「鋼鉄の騎士」(1994年)
船戸与一 「蝦夷地別件 上」「蝦夷地別件 下」(1995年)
北川歩美 「僕を殺した女」(1995年)
真保裕一 「ホワイトアウト」(1995年)
天童荒太 「家族狩り」(1995年)
白川 道 「海は涸いていた」(1996年)
北川歩美 「硝子のドレス」(1996年)
乃南アサ 「凍える牙」(1996年)
森山清隆 「髑髏は長い河を下る」(1996年)
高村 薫 「神の火」(1996年)
永井するみ 「枯れ蔵」(1997年)
黒川博行 「疫病神」(1997年)
熊谷 独 「エルミタージュの鼠」(1997年)
北川歩実 「猿の証言」(1997年)
佐々木譲 「ワシントン封印工作」(1997年)
雨宮町子 「骸の誘惑」(1998年)
永井するみ 「樹縛」(1998年)
森山清隆 「さらばスティーヴンソン」(1998年)
加治将一 「夜は罠をしかける」(1998年)
戸梶圭太 「闇の楽園」(1999年)
響堂 新 「紫の悪魔」(1999年)
沢木冬吾 「愛こそすべて、と愚か者は言った」(1999年)
響堂 新 「血ダルマ熱」(1999年)
森 博嗣 「そして二人だけになった」(1999年)
野崎六助 「煉獄回廊」(1999年)
戸梶圭太 「溺れる魚」(1999年)
雫井脩介 「栄光一途」(2000年)
永井するみ 「大いなる聴衆」(2000年)
乃南アサ 「鎖」(2000年)
伊坂幸太郎 「オーデュボンの祈り」(2000年)
小川勝己 「眩暈を愛して夢を見よ」(2001年)
戸梶圭太 「未確認家族」(2001年)
伊坂幸太郎 「ラッシュライフ」(2002年)
湯川 薫 「百人一首 一千年の冥宮」(2002年)
小川勝己 「撓田村事件」(2002年)
さて、新潮ミステリー倶楽部と言えば、もう一つ印象深かったのは、カバー袖にある刊行予告でした。
笠井潔、法月綸太郎、島田荘司と、「ああ、こんな作家たちが新潮ミステリー倶楽部から新作を出したらどんなにすごい傑作が出るんだろう」と思うような名前がずらりと並んでいたのです。
笠井潔は「鏡の国の殺人」とタイトルまで予告していました(これは「鏡の国のアリス」ではなくル・カレ「鏡の国の戦争」を念頭に置いたものだったようです)。
ところが、この3名、結局新潮ミステリー倶楽部からは新作は出ませんでした。
島田荘司はその後「写楽」を新潮社から出したので、なんとか約束を果たした形になります。
しかし、法月綸太郎が新潮社から出した「挑戦者たち」は、まさかコレを「新潮ミステリー倶楽部」から出すつもりだったとは思えません。さらに笠井潔に至っては未だに新潮社から本を出したことはありません。
このお二方には、新潮社との約束を反故にしないで、いつか「新潮ミステリー倶楽部」にふさわしい作品を書いてほしいものだと、実は未だに待ち続けていたりします。
これは、各社から刊行されたシリーズのなかで最もブランドイメージを確立していたものでした。「新潮ミステリー倶楽部の新刊ならとりあえず読んでおこう」という読者も少なからずいたはずです。
背表紙に押された著者の指紋が目印で、平野甲賀がデザインした非常に好感の持てる装丁でした。
収録作品は本格ミステリよりは冒険小説・ハードボイルドが多く、同時期にスタートした「このミス」には数多くの作品がランクインしました。特に95年は「ホワイトアウト」「鋼鉄の騎士」「蝦夷地別件」で1位から3位を独占するという、快挙を達成しています。
そもそも、新潮社はこのシリーズを創刊するまではそれほどミステリに力を入れていたわけではありませんでした。しかし、新潮ミステリー倶楽部、さらに同年に日本推理サスペンス大賞もスタートし、あっという間に国内ミステリを席巻してしまったわけです。
このあたりの事情は新保博久「ミステリ編集道」(本の雑誌社)に創刊当時の担当編集者のインタビューが載っており、裏話が詳しく語られています。(指紋押捺を拒否した作家が一人だけいたとか)
個人的には、やはり岡嶋二人の解散作「クラインの壺」および井上夢人の再デビュー作「ダレカガナカニイル…」が印象深いですね。この2冊は、本当に何度読み返したことか。
また、綾辻行人「霧越邸殺人事件」、宮部みゆき「レベル7」という大作2冊が同時に刊行されたときも、かなり興奮しましたね。といっても、そのときに買ったのは「霧越邸」だけでしたが、こういう重厚な雰囲気の本格を待っていた!という気分でした。
その他、このシリーズに関しては思い入れの強く作品がずらずらと並んでいます。死ぬまでには全作品制覇を狙ってもいいかなあ、と半分くらい本気で考えていたりもします。
景山民夫 「遥かなる虎跡」(1988年)
逢坂 剛 「さまよえる脳髄」(1988年)
佐々木譲 「ベルリン飛行指令」(1988年)
日下圭介 「黄金機関車を狙え」(1988年)
井沢元彦 「忠臣蔵元禄十五年の反逆」(1988年)
三浦 浩 「ブルータスは死なず」(1988年)
青柳友子 「あなたの知らないあなたの部屋」(1988年)
黒川博行 「切断」(1989年)
本岡 類 「白い手の錬金術」(1989年)
東野圭吾 「鳥人計画」(1989年)
小杉健治 「土俵を走る殺意」(1989年)
由良三郎 「完全犯罪研究室」(1989年)
井上 淳 「赤い旅券」(1989年)
佐々木譲 「エトロフ発緊急電」(1989年)
岡嶋二人 「クラインの壷」(1989年)
保田良雄 「軍艦島に進路をとれ」(1989年)
楢山芙二夫 「傷だらけの銃弾」(1989年)
山崎光夫 「ヒポクラテスの暗号」(1990年)
高橋義夫 「北緯50度に消ゆ」(1990年)
久松 淳 「K」(1990年)
綾辻行人 「霧越邸殺人事件」(1990年)
宮部みゆき 「レベル7」(1990年)
多島斗志之 「クリスマス黙示録」(1990年)
志水辰夫 「行きずりの街」(1990年)
山崎洋子 「熱帯夜」(1991年)
高村 薫 「神の火」(1991年)
井上夢人 「ダレカガナカニイル…」(1992年)
高村 薫 「リヴィエラを撃て」(1992年)
伴野 朗 「白公館の少女」(1992年)
小池真理子 「夜ごとの闇の奥底で」(1993年)
折原 一 「異人たちの館」(1993年)
本岡 類 「真冬の誘拐者」(1993年)
帚木逢生 「臓器農場」(1993年)
斎藤 純 「百万ドルの幻聴」(1993年)
佐々木譲 「ストックホルムの密使」(1994年)
若竹七海 「火天風神」(1994年)
藤田宜永 「鋼鉄の騎士」(1994年)
船戸与一 「蝦夷地別件 上」「蝦夷地別件 下」(1995年)
北川歩美 「僕を殺した女」(1995年)
真保裕一 「ホワイトアウト」(1995年)
天童荒太 「家族狩り」(1995年)
白川 道 「海は涸いていた」(1996年)
北川歩美 「硝子のドレス」(1996年)
乃南アサ 「凍える牙」(1996年)
森山清隆 「髑髏は長い河を下る」(1996年)
高村 薫 「神の火」(1996年)
永井するみ 「枯れ蔵」(1997年)
黒川博行 「疫病神」(1997年)
熊谷 独 「エルミタージュの鼠」(1997年)
北川歩実 「猿の証言」(1997年)
佐々木譲 「ワシントン封印工作」(1997年)
雨宮町子 「骸の誘惑」(1998年)
永井するみ 「樹縛」(1998年)
森山清隆 「さらばスティーヴンソン」(1998年)
加治将一 「夜は罠をしかける」(1998年)
戸梶圭太 「闇の楽園」(1999年)
響堂 新 「紫の悪魔」(1999年)
沢木冬吾 「愛こそすべて、と愚か者は言った」(1999年)
響堂 新 「血ダルマ熱」(1999年)
森 博嗣 「そして二人だけになった」(1999年)
野崎六助 「煉獄回廊」(1999年)
戸梶圭太 「溺れる魚」(1999年)
雫井脩介 「栄光一途」(2000年)
永井するみ 「大いなる聴衆」(2000年)
乃南アサ 「鎖」(2000年)
伊坂幸太郎 「オーデュボンの祈り」(2000年)
小川勝己 「眩暈を愛して夢を見よ」(2001年)
戸梶圭太 「未確認家族」(2001年)
伊坂幸太郎 「ラッシュライフ」(2002年)
湯川 薫 「百人一首 一千年の冥宮」(2002年)
小川勝己 「撓田村事件」(2002年)
さて、新潮ミステリー倶楽部と言えば、もう一つ印象深かったのは、カバー袖にある刊行予告でした。
笠井潔、法月綸太郎、島田荘司と、「ああ、こんな作家たちが新潮ミステリー倶楽部から新作を出したらどんなにすごい傑作が出るんだろう」と思うような名前がずらりと並んでいたのです。
笠井潔は「鏡の国の殺人」とタイトルまで予告していました(これは「鏡の国のアリス」ではなくル・カレ「鏡の国の戦争」を念頭に置いたものだったようです)。
ところが、この3名、結局新潮ミステリー倶楽部からは新作は出ませんでした。
島田荘司はその後「写楽」を新潮社から出したので、なんとか約束を果たした形になります。
しかし、法月綸太郎が新潮社から出した「挑戦者たち」は、まさかコレを「新潮ミステリー倶楽部」から出すつもりだったとは思えません。さらに笠井潔に至っては未だに新潮社から本を出したことはありません。
このお二方には、新潮社との約束を反故にしないで、いつか「新潮ミステリー倶楽部」にふさわしい作品を書いてほしいものだと、実は未だに待ち続けていたりします。