備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

古本

平成元年頃の名古屋古本屋事情(郊外編)

前回に続き、筆者が中学・高校の頃に通っていた名古屋の古本屋の話です。

筆者の実家は名古屋の北の方にあったため、自転車で20分も走れば隣接する春日井市に出られました。
JR勝川駅から北へのびる商店街を200メートルほど行き、路地を入ると「勝川古書センター」がありました。ここは巨大な倉庫のような建物(もともとは卓球場という噂を聞いたことがありますが未確認)に「伊東古本店」と「椙山書店」という2つの古本屋が入っており、文庫・コミック・雑誌が中心でしたが、かなりものすごい品揃えでした。
向かって右と左に店が並び、どっちが伊東古本店でどっちが椙山書店なのか、当時からよくわかっていなかったのですが、筆者が好きなのは右の店でした。
ここの文庫売場は時代を反映して、角川文庫ばっかり!
「犬神家の一族」「人間の証明」「汚れた英雄」など、角川文庫の大ベストセラーがそれぞれ30冊ずつくらい棚へ突っ込んであるような、ずいぶんと荒っぽいところでしたが、高さ1.8メートル、長さ10メートルくらいの棚を端から端まで全てチェックしなければいけません。しかも、本は手前と奥と2列に並んでいるので、手前の本をかき分けて奥まで探索しなければいけない。
店内にかかっているのは角川映画出身のアイドルたちの歌。すでに90年代でありながら、こんな場所で80年代角川ブームを追体験していたわけです。
ここの店はどっちかというと、買った本よりも、本を漁っている時間の方が印象に残っています。おたくの筆者には珍しく「ものより思い出」というわけですね。
冬なんかは非常に寒い中で、2時間くらい立ち読みをまじえながら棚をチェックし続けているのでトイレへ行きたくなってきます。すぐ近くにあるスーパー「ヤマナカ」のトイレと往復しながらの「作業」でした。この「ヤマナカ」も今はちょっとおしゃれなショッピングセンターに生まれて変わっているようです。
肝心のこの店で買ったものですが、正直、よく覚えていません。横溝正史とか高木彬光とか大藪春彦とか小松左京とか(要するに角川文庫ばかり)いろいろ買ったはずですが。
右の店で買ったものは忘れましたが、左の店で買ったものは、一つだけよく覚えています。
「亜愛一郎の狼狽」(これも角川文庫版)。
今は創元推理文庫がずっと重版を続けているので全然珍しい本ではありませんが、平成元年前後の数年間は全く見かけない本だったのです。泡坂妻夫は一番最初に短編「紳士の園」を読んでノックアウト。その後、亜愛一郎シリーズを探し回り、2作目の「転倒」、3作目の「逃亡」を先に手に入れて読んだのですが、「狼狽」だけどうしても見つからない。そのうちに前回の記事に書いたとおり「幻影城」を揃いで入手して、「狼狽」収録作はそこで全部読んだのですが、やはり文庫版を発見した喜びは格別でした。5センチくらい飛び上がりました。
あとは講談社文庫に収録されていた渡辺剣二編「13の密室」も見つけましたね。

さて、勝川古書センターへ向かう途中、19号線で勝川橋を渡る手前に「古本のさんぽ道」という古本屋がありました。ストリートビューで見ると、建物はまだありますが、今はアコムになっているようです。
ここはそれほど大きな店ではなかったのですが、なかなか品の良い品揃えで、通りかかると必ず立ち寄っていました。
購入したもので最も印象に残っているのは都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(講談社文庫)。
この本の衝撃については、以前の記事に書きました。

さて、名古屋の北の方で行きつけの古本屋はこの2ヶ所で、実家から近かったこともありちょっとしたヒマがあると覗きにいっていたものですが、もう一つ、郊外の古本屋でよく通ったのが、名古屋の東部、昭和区から天白区へかけて飯田街道沿いに点在していた古本屋です。
この周辺は名古屋大学、南山大学、名城大学など、大きな大学が集まっていたためか古本屋の多い地域でした。もう20年以上も行っていないので今はどうかわかりませんが、吹上から植田まで、飯田街道の通りに沿って10軒くらいの古本屋がありました。
わが家から植田までは自転車で1時間くらい。中学生にはかなりの距離です。どうしてこんな場所に古本屋が固まっていることを知ったのか、まるで覚えていませんが、恐るべき情熱と執念で存在を嗅ぎ当てたのでしょう。
この通り沿いでは土屋隆夫をやたらに見つけたことを覚えていますが、一番印象に残るのは「横溝正史読本」(単行本)。カバー無しのものでしたが、即断で購入。これは嬉しかったですね。

というわけで、読んでいる方にはかなりどうでもよい、個人的な備忘記事でした。

平成元年頃の名古屋古本屋事情(鶴舞~上前津編)



聖地・上前津交差点

乱歩と同じく高校卒業まで名古屋で暮らしていた筆者は、中学高校の6年間、休日には自転車に乗って市内の古本屋を回るのが何よりの楽しみでした。友だちがいなかったというわけではないのですが、友だちと遊ぶのは放課後(名古屋弁では「授業後」)で、休日はともかく一人で古本漁りに精を出していたのでした。
今でも古本屋を回るのは好きで、通りすがりに古本屋を見つけると、必ず覗く(家族が一緒で覗けないときは、後日出直す)という習慣を持っていますが、しかし、中学高校の頃ほどのワクワク感はもはやありませんね。

やはり、当時はミステリ初心者だったということが大きいでしょう。
ありとあらゆる名作が未読の状態。
更に古本屋へ行かざるを得ない、特殊な事情もありました。
平成元年4月、筆者が中学2年になると同時に消費税が導入されましたが、これに伴って書籍の内税表示が義務化され、各社の文庫カバー掛け直しが行われました。
このとき、あまり売れていないタイトルについては新しくカバーを作らずそのまま絶版にするという措置が取られ、角川文庫・講談社文庫から出ていた数多くの名作が一斉に書店から姿を消したのです。
その後、創元推理文庫や光文社文庫などが頑張ってあれこれ復刊してくれましたが、筆者がまさに今からミステリをどんどん読もうと気合を入れているタイミングで、以下のあたりが入手できなくなっていました。

泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」「乱れからくり」「11枚のトランプ」「喜劇悲奇劇」「煙の殺意」「花嫁のさけび」……新作以外のほとんど全てですね
竹本健治「匣の中の失楽」「囲碁殺人事件」「トランプ殺人事件」……こちらもほぼ全て
笠井潔「バイバイ、エンジェル」「サマー・アポカリプス」……要するにSF以外全て
古めのものだと
都筑道夫「三重露出」「なめくじに聞いてみろ」「七十五羽の烏」「キリオン・スレイの生活と推理」……この辺は、今も再び入手困難ですね。
鮎川哲也「黒いトランク」「黒い白鳥」「憎悪の化石」……主要作はほぼ全部
結城昌治「暗い落日」「ひげのある男たち」……「ゴメスの名はゴメス」「白昼堂々」あたりは新刊書店で買いました。
天藤真「殺しへの招待」「陽気な容疑者たち」……「大誘拐」以外全て。これは、今も同じか。

こうなってくると、いったいナニを読めたのか、という話になってきますが、新しい作家では島田荘司はまだ品切れはゼロ。岡嶋二人も全て入手可。古めの作家では土屋隆夫は、この頃は光文社文庫がせっせと収録していたため、簡単に読めました(まだ現役作家でしたし)。また、横溝正史や高木彬光は角川文庫が半分以上は残ってましたね。

と、話の筋がそれてしまいましたが、当時の国内ミステリの状況はこのようなもので、ともかく新刊書店でなかなかミステリを買えない。
そこで筆者は、恐るべき情熱でもって古本屋を回っていたわけです。
こんな状態の古本屋巡りが楽しくないわけがない!

ということで、今回はブログのタイトル通り、今や消えてしまった古本屋を含め、今から30年ほど前の名古屋古本屋事情を綴ってみたいと思います。

筆者が最も気に入っていた一角が大津通を栄から1.5キロほど南下した上前津交差点。
特に交差点南側で向かい合う「三松堂書店」と「海星堂書店南店」は通いつめました(自宅から自転車で30分くらいの距離)。

三松堂書店ではずいぶんあれこれ買いましたが、一番印象に残っているのは雑誌「幻影城」をほぼ揃い(廃刊直前の時期のものが2冊だけ欠)で買ったことです。
これは中学2年の冬、ちょうどお年玉をもらった直後のことでした。3万円という値づけで、普通の中学生は買わないと思いますが、泡坂妻夫に飢えていた筆者は「お年玉を全部使えば買える!」と狂喜しました。
たださすがに発見してすぐには買わず、一応、家へ帰って母親に相談しました。すると、母親はどんな雑誌なのかよくしらないため、「学校の先生に相談しなさい」。実は、中学1年生のときの担任の先生がミステリに詳しく、何かと読書指南を受けていたのです。そこで、先生へ相談に行くと「それは買ったほうが良いでしょう」ということで、下校後に三松堂へ電話して取り置きを依頼し、次の休みの日に父に車を出してもらって買いに行ったのでした。父はひたすら呆れながらついてきていました。
三松堂は、入って左手の棚が文芸コーナーになっており、ずっと奥へ進むとミステリ・探偵小説が固めて置いてありました。ポケミスはもちろん、桃源社の「小栗虫太郎全作品」、東京創元社「世界大ロマン全集」、講談社「ロマンブックス」なども置いており、何も買わないときでも、棚を眺めているだけで勉強になる古本屋でした。

三松堂書店を出ると、信号を渡って海星堂書店南店へ。
ここの2階は、今はどうか知りませんが、当時はサブカル関連が非常に充実していました。
映画のパンフレットを五十音別に整理した箱がズラッと並んでおり、ひたすら金田一耕助映画のパンフレットを探し続けました。昭和50年代の横溝映画についてはここに何度か通ううちコンプリートしました。
今にして思えば、ミステリ関係のパンフレットをもっといろいろ探しておけばよかったのですが、当時はミステリ映画といえば金田一耕助しか知らなかったわけです。
さらに、ここで入手した超大物があります。
島田荘司「占星術殺人事件」の初版本。なんと、屋外の百円均一棚で発見しました。帯無しで袋綴じも開封済みでしたが、初版一刷。特に目立つ傷みはない美本。
実物を見たのは初めてだったため、百円均一棚に置かれていたことが信じられず、筆者の知らないどうでもよいバージョンが存在していたのか、と疑いました。奥付を見て、更に「御手洗清志」「石岡一美」となっているのを確認して、ようやく初版本だと確信したのです。
発見した時点で刊行から10年程度だったので、筆者としては「あの幻の!」という本でしたが、古本屋的には大したことがない本だったのかもしれません。
これは、今も大事に手元に置いています。

201706占星術殺人事件088

さて、上前津から鶴舞方面へ少し行くと新堀川にかかる記念橋があります。そのすぐ脇に建つ老朽化した雑居ビルの地下に「亜希書房」がありました。このビルがまだ建っているのかどうかよく知りませんが、筆者が通っていた30年前から、入っていくのにかなり勇気を要する雰囲気の建物でした。
階段を降りると、薄暗い廊下が続きます。マフィアがドンパチを始めるんじゃないかという緊張感が漲るなかを恐る恐る歩いていくと、中華料理屋(陶展文が経営しているよう雰囲気の)と向かい合って亜希書房の店舗が細長く延びていました。
商品は全てビニル袋にパックされて、状態はかなり良好。買った本で覚えているのは角川文庫版の砂絵シリーズとか、キリオン・スレイを何冊かとか、なぜか都筑道夫ばかりですが、それよりも棚にズラッと並んでいた雑誌をよく覚えています。
いろいろなジャンルの雑誌のバックナンバーが揃っていましたが、ミステリ好きとしては、いつ覗いても「別冊新評」がズラッと置いてあったのが印象に残っています。「都筑道夫の世界」「山田風太郎の世界」はどんな内容だか非常に興味がありましたが、ビニルパックされているため、中は確認できず。結局、買いませんでした。

鶴舞公園周辺も古本屋が密集しており、上前津とセットでよく覗いていましたが、鶴舞へ近づくにつれいわゆる「黒っぽい」本屋が多くなります。ミステリ好きはやはり上前津周辺のほうが楽しめましたね。鶴舞の古本屋では、どこの店か忘れましたが、立風書房「鮎川哲也長編推理小説全集」全巻がカバー無しの状態で縛って置いてあり、それを千円で買ったことがあります。その時点で、新刊書店では一切何も買えなかった鮎川哲也が、一瞬で手元に揃ってしまったわけです。

次回は、郊外の古本屋についての思い出話を。
 

「古本」についての名作

201807子どもより古書が大事と思いたい239

ミステリ好きのご多分に漏れず、筆者も古本屋は大好きです。
一時期は古本について書かれたエッセイ・小説を読み漁っていた時期もあるので、気に入っていたものをいくつかご紹介しましょう。



フランス文学者・鹿島教授の古本にまつわるエッセイを集めたもの。
筆者が「古本エッセイ」という「金脈」を発見したのは約20年前に本書を読んでからでした(リンク先は新版)。
といっても、鹿島教授が追い求めている本は19世紀フランスの挿絵本ということで、我々のようにミステリの文庫本を探し回っているだけの人間とは全然レベルの違うことをやっているのですが、行動原理は全く同じです。抱腹絶倒の古本地獄。
自分の趣味を「これでいいのだ」と保証してもらえたような気分になったものです。

早稲田古本屋日録
向井 透史
右文書院
2006-02


古書店主が書いたエッセイも無数に刊行されていますが、極めつけの傑作が本書です。
エッセイといいながら、ほとんど短編小説といってよい印象的なエピソードが並びます。
「古本エッセイ」ではなく、単なる「エッセイ」というカテゴリにしても、宮本輝の初期のエッセイに肩を並べるハイレベルな内容。著者の年齢が本書が発行された時点で30代半ばとは思えない老成ぶりです。
このタイトルで手に取る読者はかなり限られているようで、刊行から10年以上経ってもいまだに初版のまま、しかも品切れにすらなっていないようですが、古本界隈ではかなり注目され、本書が出たあと、著者の文章・コラムを雑誌などで見かけることが多くなりました。
本書に続けて「早稲田古本屋街」という、早稲田古書街の各店を取材した本も出て、こちらもかなり素晴らしい文章と内容でしたが、今のところ著書がこの2冊で止まってしまったのが残念です。

早稲田古本屋街
向井 透史
未来社
2006-10-01




旅行関係のコミックエッセイで知られるグレゴリ青山さんですが、学生時代に大阪梅田・かっぱ横丁の阪急古書のまちでバイトをしていたそうで、その時の体験を綴っています。
阪急古書のまちはちょっと前にかっぱ横丁から紀伊國屋書店の隣へ移転しましたが、今どきの新古書店は一線を画す、昔ながらの硬めの古本屋が軒を連ねているところです。
エッセイに登場する関係者は皆、個性的なことにかけては筋金入りで、グレゴリ青山がふつうの女の子にしか見えない。
古本関係のコミックエッセイでは一番の面白さです。

新装版 栞と紙魚子1 (Nemuki+コミックス)
諸星 大二郎
朝日新聞出版
2014-11-07


ここまでエッセイを紹介してきましたが、次はコミックを。
栞と紙魚子、というヒロインの二人の名前からしてとんでもないのですが、諸星大二郎にしてはマイルドな口当たりのシリーズです。
紙魚子は古本屋の娘という設定になっているものの、ほとんどのエピソードは古本とは無関係の話で、特に古本好きのために書かれた漫画ではありません。
ところが、一編だけものすごい話があります。タイトルも「古本地獄屋敷」。
妄執に取り憑かれた亡者たちがうごめく古本の迷宮を描いており、古本好きにとっては地獄なのか天国なのか。
これを読むだけで、諸星大二郎の古本愛(?)がよくわかります。全古本好き必読。
現在刊行されている新装版では第3巻に収録されているようです。

最後にガイドブックをいくつか。

東京古書店グラフィティ
池谷 伊佐夫
東京書籍
1996-10


東京の古書店を回り、店内の鳥瞰図を丁寧なイラストで描いたもの。
刊行から20年以上も経ってしまったのでガイドブックとしての機能は弱まってしまいましたが、どんなガイドブックよりも遥かに、ソソる内容。古本好きには夢のような空間を広がっています。
関西の古書店を取材した「三都古書店グラフィティ」もあります。

三都古書店グラフィティ
池谷 伊佐夫
東京書籍
1998-07





ミステリ研究家の野村宏平氏が出した、タイトル通りの内容の本。ミステリファンがチェックすべき古本屋が全国津々浦々紹介されています。
この本が出た当時、筆者は2冊購入し、1冊は自宅に保管用、もう1冊は旅先への携行用としていましたが、これも刊行から10年以上経って、いくつかの店が消えるとともに、要チェックの店が新たに登場してきてもいます。改訂版の刊行を希望。

profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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