備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

DVD未発売名画

日本でDVDが発売されていない邦画2「博奕打ち いのち札」(1971年・山下耕作監督)

201806笠原和夫227

DVD化されていない映画には、全く理由が検討もつかないものも多いのですが、これもその一本。
これだけたくさんの任侠映画がDVD化されているのに、名作と言われる本作が放置されているのは、もしかして忘れられてるだけ?という気もします。

実は、筆者もこの映画は未見です。
といっても、見るが難しい映画ではなく、名画座でかかっていることもあり、東映チャンネルでもたまに流しているようです。また、Amazonビデオでも視聴が可能です。



まあ、こんな状態であればDVDにこだわらなくてもよいのかも知れませんが……。

筆者がこの映画を知ったのは、笠原和夫のシナリオ集「笠原和夫 人とシナリオ」に収録されたものを読んだからです。

笠原和夫 人とシナリオ
シナリオ作家協会
2003-12


このシナリオ集は、「仁義なき戦い」「県警対組織暴力」「博奕打ち 総長賭博」などの文句なしの代表作のほかは、ソフト化されておらず見づらい、ということも基準にしていたようで(編者のあとがきによる)、「日本暗殺秘録」などと並んで、「いのち札」も収録されていました。
「日本暗殺秘録」はその後、無事にDVD化されたのですが、「博奕打ち いのち札」は未発売のままです。
鶴田浩二と安田道代(大楠道代)の悲恋は、シナリオを読むだけで胸を打たれます。ラストシーンは原作にはない「血の川」の演出が有名で、これはぜひ見たいという気になりました。

ところが。
2014年末、奇しくも高倉健が亡くなった直後から、デアゴスティーニが「東映任侠映画傑作DVDコレクション」というものの刊行を始めました。
これは!と思い、予定ラインナップを確認すると、おお、ちゃんと「いのち札」が上がっているではないですか。
隔週刊なので、月に2号ずつという気の長い話ですが、待ちました。毎週毎週、公式サイトをチェックして近刊予定を確認し続けました。
にもかかわらず、2年かけて当初予定された50号が完結してもなぜ出なかったのです。
しかし、「好評につき100号まで延長」ということになったので、今度こそ確実に出るだろうと待ちました。ずっとずっとチェックを続けていました。
いよいよその100号も完結に近づいてきたところで、今後の予定が全て発表されました。

https://deagostini.jp/faq/lineup/TND_lineup.pdf

なんと! とうとう収録されずにおしまいではないですか!
やっぱり、ソフト化できない事情があるんでしょうか。でも、封印もされてないしな……
全く謎に包まれた「博奕打ち いのち札」です。

関連記事:
笠原和夫脚本「博奕打ち いのち札」ようやくDVD化!
笠原和夫 シナリオコレクション
笠原和夫を「読む」

日本でDVDが発売されていない邦画1「黒蜥蜴」(1968年・深作欣二監督)

未だDVD、Blu-rayが発売されていない邦画で、最も待望されているのは深作欣二監督の「黒蜥蜴」ではないでしょうか。

江戸川乱歩原作・三島由紀夫脚本の舞台劇「黒蜥蜴」は、2度映画化されてます。
最初の映画化は1962年に大映が製作した井上梅次監督・京マチ子主演のもの。
これはミュージカル仕立てのかなり狂った演出でカルト的な人気があり、DVDも発売されています。

黒蜥蜴 [DVD]
京マチ子
角川書店



2度目の映画化は、1968年松竹製作の深作欣二監督版。
これは主演を美輪明宏(当時は丸山明宏)が務め、今に至るも「黒蜥蜴」映像化の決定版的な評価を受けています。
三島由紀夫自身が演じた「人間の剥製」と美輪明宏とのディープキスも衝撃的ですが、深作欣二ファンの筆者としては、岩瀬家に詰めている用心棒たちがピラニア軍団よろしくワラワラワラ、と飛び出してくる乱歩映画っぽくないところが好きだったりします。

ところが、この松竹版のDVDがなかなか発売されません。
2003年に深作欣二監督が亡くなった前後に深作作品が一気にDVD化されていった時期があり、そのときは当然、「黒蜥蜴」も出るだろうと待ち構えました。
いや、それどころか雑誌「映画秘宝」で、「黒薔薇の館」などと並び、発売を予告する広告も見た記憶があります(いつ頃のことか忘れましたが、バックナンバーをひっくり返せば見つかるはず)。
ところが、そのまま何事もなく月日は流れ、未だに日本だけでなく全世界的に正規のDVD化はされていないようです。
名画座での上映やCS放送などは割りと頻繁にあるようで、見るのが難しい映画ではなく、事情があって封印されているというわけでも無いようですが、いったいどんな事情があるんでしょうか。
三島由紀夫の著作権が切れるのが2020年なので、そのあたりで何か動きあるといいな、という勝手な期待を抱いていて、正直、オリンピックよりもそっちの方が気がかりだったりします。

それから、映画の原作となった三島由紀夫の戯曲「黒蜥蜴」についても、2007年に一度だけ文庫化されたのですが、あろうことかそれに気づいたのが数年も経ってから、という「俺ともあろう奴がなにやってんだ」と言いたくなる始末なのですが、乱歩の著作権はすでに切れており、さらに三島由紀夫の著作権が切れたら、これも当然またどこかの文庫が収録すると思われるので、それも気にしています。

関連記事:
江戸川乱歩原作映画のDVD

日本でDVDが発売されていない名画・番外編「消えた花嫁」

201805消えた花嫁222

「番外編」としたのは、これは劇場公開作ではなく、テレビ映画だからです。とはいえ、ミステリ映画としてこれほどよくできたものはめったにお目にかかれません。
「息もつかせぬサスペンスと、驚愕のどんでん返し」という言い方をすると、ミステリ映画の宣伝文句としてはよくあるものに聞こえます。
そして、実際に見てみると「言うほどでもないな」という作品がほとんどですが、しかし、この作品だけは違います。
「サスペンスとどんでん返し」を、この「消えた花嫁」(原題:Vanishing Act)ほど高度の達成している映画というのは、ほかに見たことがないと言い切ってよいほどです。

筆者がこれを見たのは、中学生の頃、NHKで「サスペンス・ドラマ」として単発で放映されたときでした。
NHKのサイトで過去の番組表を検索すると1990年12月30日に放映されたようで、筆者自身は正確に覚えていませんが、たぶんこのときでしょう。
http://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/timemachine/index.html?date=1990-12-30

といっても、放映時にリアルタイムで視聴したわけではなく、たまたま母親がビデオに録画していたのでした。母は2時間ドラマが好きだったので、その延長で録画していたもののようですが、「これはミステリ好きの息子にも見せるべき」と思ったらしく、筆者が居間でボーッとしていると、おもむろにビデオの再生を始めました。
はじめのうちは見るともなしに眺めていたのですが、あまりに劇的な展開に、途中から釘付け。それどころか、興奮しすぎて、のたうち回りながら見ていました。母は結末を知っているため、大騒ぎしている息子をニヤニヤしながら眺めていたことをよく覚えています。

新婚の妻が旅行先で行方不明になる。夫が警察へ届け出ると、翌日には警官に伴われて妻が帰ってくる。ところが、その女性は、見たこともない他人だった。夫はなにかの間違いだと訴えるが、警察は女性の言い分ばかり聞いて、夫の話に耳を貸そうとしない……
という悪夢のような展開で、夫婦を襲った、姿の見えない大掛かりな陰謀が強烈なサスペンスとなっています。

その後も「あの映画、もう一回観たいな」と何度か思い出していたのですが、しかしビデオを保管していたわけでもなく、登場人物もスタッフも、それどころかタイトルすら覚えていない状態で、筆者の中では幻の映画となっていました。
しかし、21世紀に入り、インターネット全盛の時代を迎えてから、ようやく発見しましたよ。
ストーリーだけは詳細に、鮮明に覚えていたため、それを手がかりに見知らぬ人に聞きまわって、ようやく「消えた花嫁」だとわかったわけです。
さっそく、これまたインターネットでVHSを入手。筆者の中学・高校時代には考えられなかったスムーズな展開です。

製作したのは「刑事コロンボ」と同じくリチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクのコンビ。なるほど、よくできているのは当然でした。わかってみれば、その筋ではかなり有名な作品でした。
元になっているのは、ロベール・トマというフランスの作家が書いた舞台劇「罠」。
この舞台劇は日本でわりと頻繁に上演されているようですが、筆者は見たことはありません。
また、戯曲は白水社から大昔出ていた「今日のフランス演劇 第3」という本に収録されていたようですが、これも入手できていません。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000947659-00

同じ「罠」を原作したドラマがもう一本あり、こちらは「他人の向う側」(原題:One of my wives is missing)という邦題になっています。
こちらはVHSを入手しています。

201805他人の向う側223
201805他人の向う側224

ストーリーは全く同じですが、テンポの良さや俳優の演技などは、やはり「消えた花嫁」の方が上だな、と感じます。まあ、最初に見た印象が強いということはあると思いますが。
さらに言えば、筆者が入手した「消えた花嫁」のVHSは字幕版なのですが、できればNHKで放映した吹替版でもう一度見てみたいです。ラストの丁々発止の掛け合いを心底堪能できるのは、やっぱり吹替版だよな、と思います。これまた、最初に見た印象が強すぎるのでしょうけど。

いずれにせよ、この映画は本国アメリカでもVHSしか出ていないようなのですが、このまま埋もれさせるのはあまりにもったいない傑作です。
ぜひDVD化して、その際にはNHK吹替音声を収録してほしい。筆者の寿命が尽きるまでにはあと40年くらいあるはずだから、それまでのあいだにはなんとか実現を……ということを考えながら、ここ20年くらいを過ごしているわけです。
(「罠」を原作にしたテレビ映画はもう一本、「妄執の館」というすごい邦題のものもあるようですが、これはソフト化されていないようで、未見です)

(リンク先は輸入版VHS)


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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