備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ミステリ映画

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」(白石和彌監督)

2017年公開なので、かなり今さらですが、白石和彌監督の映画「彼女がその名を知らない鳥たち」を観ました。
実は全くどんな内容なのか知らず、原作がミステリであることすら知らず、「蒼井優が出ている」という以外、一切の予備知識を持たず、単に「ヒマだから」というだけで観たのですが……これはビックリしました。
以下、ネタバレを気にせずに感想を書きますので、原作を未読、映画を未見の方はご注意を。

蒼井優の痛々しいダメ女っぷりは、それだけ驚異的でしたが、阿部サダヲのサイコ演技を楽しむサスペンス映画だと油断していたところが、まさかの真犯人。どんでん返しが用意されているとはまるで疑わずに観ていたため、仰天してしまいました。
「意外な犯人」のパターンは本格ミステリではいろいろありますが、この映画は蒼井優の一視点で描かれているため「語り手=犯人」パターンと言えます。つまり「信頼できない語り手」であるわけなのですが、一方で記憶を失っているため本人にその自覚はなく、いわば「探偵」として事件の真相を探ろうとします。
つまり「語り手=探偵=犯人」であったというわけで、真相を知ってから改めて見直すと、阿部サダヲはきちんと辻褄の合った演技を見せており、かなり感心します。

というわけで、本編も非常によかったのですが、さらに関西在住者としてはロケ地も見どころが多かったですね。
阪堺電車に乗っているので、蒼井優と阿部サダヲのマンションは堺方面かと思いきや、マンションから外へ出ると天神橋筋商店街やら淡路商店街やらいかにも大阪の商店街が広がります。地下鉄の階段を駆け下りて阪急電車へ乗り込むシーンは、天神橋筋、淡路近辺なら筋が通っている。
松坂桃李の勤めるデパートは、大阪城近くかと思えば、天王寺周辺までブラブラ歩いていたりして、いったいどこに建っているのかよくわかりません。
竹野内豊の登場シーンが神戸、というのは一貫していて(これは原作もそうです)、北野坂のナンパシーンはいかにも神戸。海外ロケかと思うような美しい砂浜も登場しますが、これが調べてみたところ、実は神戸空港島西緑地の人工海岸と知ってビックリ。(こちらに記載があります → https://www.kobefilm.jp/works/data/001977.html
蒼井優が竹野内豊を刺すシーンは、ポートアイランドスポーツセンター横の駐車場。以前に息子をスケートへ連れていったときに車を駐めた場所だったので、「こんなところでごちゃごちゃやってんのか!」と、笑ってしまいました。
ラストシーンも、関西の土地鑑があるとちょっと混乱しますね。
松坂桃李が刺されるシーンは夕陽丘近辺の路地ですが、引き続き、蒼井優が全てを思い出して阿部サダヲと語り合うシーンは、一気に30キロほど西へ飛んで、神戸の港を見下ろす公園。
実を言うとここで「???」となってしまったのですが、「まあ、景色のよいロケ地が、ほかになかったんだろう」と納得することにしました。(https://www.lmaga.jp/news/2017/10/30584/4/ こちらの記事を読むと、実は監督としては大阪の町並みをCGで遠景にはめ込みたかったそうです)

中途半端に観たことのある景色が映りつつ、映画としては「架空の町並み」ということで、関西在住者以外は全く気にならないと思いますが、筆者としてはだいぶ気になるところでした。
が、まあ気軽に行ける範囲でロケ地巡りをできるというのも貴重なことです。近くを通りかかるときには、いちいち場所を確認しに行こうかな、と思っています。

テレビ朝日ドラマ「名探偵・明智小五郎」登場人物元ネタ

今月末にテレビ朝日で2夜連続ドラマ「名探偵・明智小五郎」が放映されるということです。
宣伝などを見ていると少年探偵団シリーズ第一作「怪人二十面相」をモチーフとしているようですが、海外ドラマ「シャーロック」を意識しているのか、完全に現代ドラマに置き換えられています。
というわけで、ドラマの内容自体は期待半分怖さ半分といったところですが、ひとまず登場人物名の元ネタを解説。

明智小五郎の助手・小林芳雄は、昭和5年の「吸血鬼」に助手として初登場し、昭和11年「怪人二十面相」から始まる少年探偵団シリーズでは、準主役級の活躍をします。戦後の作品にもずっと登場し続けますが、永遠に少年のままです。
ドラマには成人した小林くんが登場するようで、その奥さんは「小林真由美」と命名されています。
原作にはこのような女性は登場しませんが、少年探偵団シリーズでは途中から「花咲マユミ」という少女助手がメンバーに加わりました。おそらくこの少女をモデルにしていると思われます。

明智の奥さんは、やはり昭和5年の「魔術師」に初登場し「吸血鬼」で結婚した文代さんです。少年探偵団シリーズにも優しいお母さんといった役どころでちょこちょこと登場しますが、「怪人二十面相」には名前が一度出てくるだけで、登場はしていません。大人向け小説では「魔術師」はもちろん「人間豹」なんかでもとんでもない姿でよく出てくるのですが、少年探偵団シリーズではあまり重要キャラではないですね。

警察関係では浪越警部が出てきます。浪越警部といえば、どちらかといえば乱歩の大人向け小説「蜘蛛男」や「魔術師」の印象が強く、少年探偵団シリーズによく登場しているのは中村警部です。
また、中村警部は「中村善四郎」とフルネームが命名されていますが、浪越警部の下の名前が書かれたことはありません(たぶん)。
しかし、ドラマでは下の名前もついていますね。まあ「新宿鮫」の鮫島警部も映画化されたときは下の名前があったのでそういうもんです。
また、少年向け「怪人二十面相」を原作としながら、ドラマに登場するのが中村警部ではなく浪越警部となっているのは、制作局がテレビ朝日のためです。
テレビ朝日で明智小五郎といえば、言わずとしれた天知茂の美女シリーズ。ここではレギュラーとして荒井注演じる浪越警部が登場していました。テレビ朝日で乱歩作品を映像化するのであれば、浪越警部は必須、というわけです。

その他、今のところ発表されているあらすじに見えるキーワードを拾うと
「チームBD」……ハッカー集団ということですが、「BD」は「Boys」「Ditective」の略で、少年探偵団の略称です。団員は「BDバッジ」というアイテムを持っており、いろいろな場面で活用します。
「羽柴壮二」……「怪人二十面相」冒頭で家宝の宝石を狙われる大富豪の次男。少年探偵団の生みの親のような存在です。

というところで、今のところあまり情報がないのでこれくらいですが、放映後にまた気づいたことを書いてみたいと思います。

三島由紀夫「黒蜥蜴」岩波文庫収録!

201811黒蜥蜴293

以前の記事でもご紹介しましたが、「黒蜥蜴」は井上梅次監督、深作欣二監督によって2度映画化されています。

関連記事:
江戸川乱歩原作映画のDVD
日本でDVDが発売されていない邦画1「黒蜥蜴」(1968年・深作欣二監督)

この映画、原作者として江戸川乱歩と三島由紀夫がクレジットされています。つまり、乱歩の小説を舞台劇化した三島由紀夫の戯曲が、映画の原作となっているわけなのです。
要するに、映画「オペラ座の怪人」(2004年)が、ガストン・ルルーの小説をもとにしたミュージカルを原作にしているようなものですね。

ところで、この三島由紀夫の戯曲ですが、これまでなかなか手軽には読むことができませんでした。
新潮社の「三島由紀夫全集」には当然収録されていますが、長らく読むことができたのはここだけ。
筆者は図書館で読みました。
実は10年ほど前に一度、文庫化されたことがあるのですが、学研M文庫という、メジャーとは言い難いレーベルから。筆者は見逃してしまい、あとで知って非常に悔しい思いをしました。

それが! ついに岩波文庫に収録です。三島由紀夫の戯曲集という形で刊行されました。

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇 (岩波文庫)
三島 由紀夫
岩波書店
2018-11-17


岩波文庫は最近になって急に乱歩や三島由紀夫の作品を収録を始めたのですが(そもそも三島由紀夫と岩波書店ってイデオロギー的に相容れないはずなのですが)、この2人の作品がこんなところで出会うなんて、考えてもいませんでした。

表紙は深作欣二監督版「黒蜥蜴」のワンカットです。緑川夫人を演じているのはご存じ美輪明宏(当時は丸山明宏)、そしてその前で中腰で立っているのは三島由紀夫本人! そう、この映画には三島由紀夫も出演しているのです。

というわけで、乱歩ファンには待望の文庫化。今度こそお見逃しなく。

関連記事:
江戸川乱歩原作映画のDVD
日本でDVDが発売されていない邦画1「黒蜥蜴」(1968年・深作欣二監督)
profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

スポンサーリンク
ギャラリー
  • 学習漫画「日本の歴史」を買うなら、おすすめはどれ?【最新】人気4大シリーズ+αを比較
  • 新宿鮫・鮫島警部は今、何歳?
  • 春日太一『黙示録――映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』(文藝春秋)
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
プロフィール

squibbon

タグクラウド