備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

探偵小説

平成の復刊ミステリ・その2 国書刊行会・探偵クラブ

201906とむらい機関車324

平成の復刊ブームをおさらいするシリーズ。第2回に紹介するのは1992~94年(平成4~6年)にかけて国書刊行会が出版した「探偵クラブ」です。
大阪圭吉がミステリファンのあいだで再評価されるようになったのは、このシリーズの第1回配本「とむらい機関車」がきっかけだったのではないかと記憶します。

鮎川哲也がライフワークのように続けていた企画に「幻の探偵作家を求めて」があります。
70年代の後半に雑誌「幻影城」で始まったシリーズで、その後、媒体を変えながら90年代まで続きましたが、消息不明となっている戦前の探偵作家を訪ね歩く内容でした。
同題の単行本は探訪記のみ収録されましたが、雑誌掲載時には、その作家の代表作も併録され、今にして思えば、今日の復刊ブームに対してこの企画が与えた影響は非常に大きなものがあったと感じられます。
今回紹介する「探偵クラブ」も、この流れから生まれた企画ではないかと思われる雰囲気があり、第1回配本には「幻の探偵作家を求めて」でも取り上げられた大阪圭吉が登場し、解説は鮎川哲也でした。
あとに続く巻でも、それぞれの作家の代表作をガッチリと抑え、今に至る復刊ブームの先駆けになったものと言えます。

刊行からすでに25年が経っていますが、さすが国書刊行会と言うべきか、一部の巻は未だに在庫が残っていて、新刊書店の棚に並んでいたりします(別に重版しているわけではなく、単に売れ残っている。しかし、裁断処分などにはしていない)。品切れになっている巻も、古本での入手は比較的容易です。
「幻の探偵作家を求めて」自体はすでに幻になりつつあり、近い内に復刊されるという話も目にしましたが、合わせてこのシリーズもおすすめです。

大阪圭吉 「とむらい機関車
三橋一夫 「勇士カリガッチ博士
葛山二郎 「股から覗く
渡辺啓助 「聖悪魔
蒼井雄 「瀬戸内海の惨劇
山田風太郎 「虚像淫楽
大坪砂男 「天狗
岡田鯱彦 「薫大将と匂の宮
蘭郁二郎 「火星の魔術師
城昌幸 「怪奇製造人
大下宇陀児 「烙印
甲賀三郎 「緑色の犯罪
角田喜久雄 「奇蹟のボレロ
井上良夫 「探偵小説のプロフィル
小酒井不木 「人工心臓

平成の復刊ミステリ・その1 小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」

昭和名作推理小説015

令和の御代になっても未だにミステリの好みは昭和で止まっているわけですが、平成という時代を振り返ってみると、「昭和ミステリの復刊」ということが盛んに行われていた時代だったようにも思います。
今回から何回か、「平成ミステリを振り返る」どころか、「平成に復刊された昭和ミステリを振り返る」という、非常に後ろ向きな話題を続けてみたいと思います。

まずその前に、そもそも「復刊ミステリ」とは?
現在へ至るミステリブーム(笠井潔いうところの第三の波)の始まりは、雑誌「幻影城」の創刊にあるというのが定説ですが、その前から桃源社「大ロマンの復活」、角川文庫や講談社文庫による、戦前から戦後にかけての探偵作家の全集的な作品刊行と、過去の作品を復刊する動きは連綿と続いており、雑誌「幻影城」も創刊当初は新作などはほとんど載っておらず、戦前探偵小説の復刻ばかりでした。
要するに、ミステリの歴史は新作刊行と並行して、過去の名作復刊の歴史でもあると言えます。
これは、昔からコアなミステリ読者は強固なコミュニティを形成し、その中で「過去の名作を読む」ということがステイタスとなっているためでしょう。

というわけで、平成に入ってからミステリの復刊に何か際立って特徴的なことがあるかといえば何も無いようにも思われますが、筆者自身が本格的にミステリを読み始めた時期が平成元年から、ということもあり、個人的な備忘録も兼ねて平成の復刊史を振り返ってみようと思います。

第一回は平成元年に刊行された小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」。
実は、この特集については、以前にも当ブログで紹介したことがあります。こちら
雑誌の特集なので、厳密には「復刊」に当たらないかもしれませんが、筆者にとっては非常に印象深く、思い入れの強い一冊なので改めて紹介しておきたいと思います。

収録作品は以下の通り。

渡辺温
夜の街 城昌幸
死後の恋 夢野久作
押絵と旅する男 江戸川乱歩
殺された天一坊 浜尾四郎
絶景万国博覧会 小栗虫太郎
悪魔の指 渡辺啓助
かいやぐら物語 横溝正史
五人の子供 角田喜久雄
骨仏 久生十蘭
天狗 大坪砂男
原子病患者 高木彬光
張込み 松本清張
落ちる 多岐川恭
作並 島田一男
白い密室 鮎川哲也
吉備津の釜 日影丈吉
案山子 水上勉
十五年は長すぎる 笹沢佐保
葬式紳士 結城昌治
死火山の灰 黒岩重吾
敵討ち 山田風太郎
犯罪講師 天藤真
ナポレオンの遺髪 三好徹
雪どけ 戸川昌子
やさしい密告者 生島治郎
神獣の爪 陳舜臣
山のふところに 仁木悦子
科学的管理法殺人事件 森村誠一
盲目物語 土屋隆夫
人形の家 都筑道夫
特急夕月 夏樹静子
雲雀はなぜ殺された 日下圭介
復讐は彼女に 小泉喜美子
紳士の園 泡坂妻夫
菊の塵 連城三紀彦
無邪気な女 阿刀田高
遠い国から来た男 逢坂剛
糸ノコとジグザグ 島田荘司

ほんと、何度見ても惚れ惚れするラインナップです。
特に多岐川恭「落ちる」、結城昌治「葬式紳士」それに泡坂妻夫「紳士の園」。
特にこの3作の衝撃は非常に強く、ミステリにほとんど免疫がなかった中学2年生の筆者は頭をくらくらさせていたものです。

特集に対して反響があったのかどうか知りませんが、この2年後、同じ趣旨のアンソロジーが新潮文庫から刊行されました。
それもこちらの記事で書いていますが、「昭和ミステリー大全集」上・中・下の全三冊です。

当時、ミステリの入門者的立場にいた筆者がいうことなので間違いありませんが、この「小説名作推理小説」「昭和ミステリー大全集」の企画は、昭和ミステリの入門に実際、これ以上ない最高のラインナップでしたね。このあと、結城昌治、都筑道夫、土屋隆夫、天藤真、泡坂妻夫、阿刀田高といった人たちの作品を熱心に古本屋で探して読み漁りましたが、すべての原点はここにありました。

というわけで、平成が終わって1ヶ月が経ちましたが、今回も平成のベスト的な短編集が編まれるとしたらどんな作家になるんでしょう?




講談社「江戸川乱歩推理文庫」のこと

201905江戸川乱歩316
帰省する機会があったため、実家にいまだ温存されている、私が高校生の頃まで使っていた机の引き出しを漁ってきました。
何が目的だったかというと、本に挟まれているチラシです。
子どもの頃は、本の帯や、ページのあいだに挟まれたチラシなどを邪魔なものと考え、とはいえ捨てるには忍びなく、本を買ってくると外して勉強机の引き出しへしまいこんでいたのでした。
大学へ入ったくらいから「本は購入時の完全な状態で保管するべし」と価値観が変わり、帯だけは取ってあったものを全部巻き直したのですが、チラシはどれがどの本のものなのか、対応がわからなくなってしまい、さらには内容が同じ種類のチラシは捨てていたため、収拾がつかなくて放置していました。

ところで、今回気になって探していたのは講談社が昭和62年から平成元年にかけて刊行した「江戸川乱歩推理文庫」のチラシです。
これは、小学校の6年生から中学2年にかけての時期ですが、よくぞ思い切って小遣いを投入する気になったものだと、当時の自分を褒めてやりたい気分でいっぱいのシリーズです(といっても一般向け小説である青帯は、並行して春陽堂文庫の乱歩シリーズを買っていたため、見送ったのですが)。
さて、以前にこちらの記事でも触れましたが、この「江戸川乱歩推理文庫」は、配本がスタートした当初は、児童向け小説の中に「名探偵ルコック」「鉄仮面」「黄金虫」という翻訳物のタイトルが並んでいました。
ところが、配本が第4回へ進んだ時点でラインナップが変更となり、翻訳は消え失せました。
小学生だった当時は事情など知るよしもなく、ただ「書簡 対談 座談」なんかよりは小説を出してほしいなあ、と軽くがっかりした記憶はあります。
今にして思えば、このあたりの翻訳は名義貸しで、乱歩自身の筆によるものではないとされているためと思われます。(むしろ、最初に発表されたラインナップに含まれていたことが謎)
とはいえ、乱歩名義の「鉄仮面」は筒井康隆もエッセイで回顧していたりなど、人気が高いもので、やはりこのときに「出す」という英断をしてほしかったなあ、という気もしています。

というわけで、今回あさってきたチラシは、そのあたりのラインナップ変更の経緯がわかるものです。
リアルタイムで購入されていた方以外はよく知らない話だろうと思いますので、ブログにあげておく価値もあるかな、と考えて、チラシの画像を貼っておきます。

まずは刊行当初チラシ。ちょうど写真のL判に該当するサイズに四つ折りされたものでした。
まず開くと表はこんなもの。価格は消費税導入前です。
201905江戸川乱歩316

裏側はこんな感じ。当時の人気作家が安部譲二と山崎洋子というあたりの昭和末期の雰囲気が出ています。
201905江戸川乱歩317
さて、これを開くと、見開きで問題のラインナップが。
201905江戸川乱歩318

その後、第4回配本時にこのようなチラシが挟まれました。
201905江戸川乱歩320

裏側のラインナップ。「海外探偵作家作家と作品」が当初予定の2分冊から3分冊へ水増しされ、「未刊日記」「書簡 対談 座談」が追加されました。
201905江戸川乱歩321

そして、実際には「未刊日記」は更に未刊となり、最終巻は年譜となりました。これはずいぶんがっかりして実際は購入を見送りたかったところですが、ここまで買って最後の巻だけを買わないのはいかがなものか、という常識的な判断によって購入することとなりました。

関連記事:
江戸川乱歩「鉄仮面」とは?
江戸川乱歩入門 最終回 講談社「江戸川乱歩推理文庫」

スポンサーリンク
profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

プロフィール

squibbon