備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

探偵小説

喜国雅彦節全開の『今宵は誰と』(双葉社)

201906今宵は誰と325

かなり久しぶりに喜国雅彦の新刊が出ました。
「小説推理」に連載されていたものですが、そもそも漫画なのかエッセイなのか、扱っているのはミステリなのか純文学なのか、とりあえずこのタイトルの喜国作品だからエロがテーマになっているのは間違いなかろうということ以外、何も見当がつかない状態で買ってきました。

漫画だとしても、おそらくエッセイ漫画だろうという予想は大外れ。
文学をテーマにしたギャグ漫画でした。
一人暮らしを始めた青年が、ヒマつぶしに読書を始め、夜な夜な、夢の中で作品のヒロインたちと交流(交情?)を繰り広げるという展開で、1話ごとに文学作品が取り上げられています。
「砂の女」「潮騒」などの純文学からスタートするものの、そのうちに蘭郁二郎、夢野久作、江戸川乱歩など、戦前の探偵小説もポツポツと混じってくるようになります。
喜国雅彦は単著ではここ最近、エッセイの刊行が続いており、文学ネタの漫画は「メフィストの漫画」以来でしょうか。妄想に満ちつつも、ずっこける展開の喜国節を堪能できました。

筆者は名作と言われているような日本の純文学作品はほとんど読んでいないので、この漫画で取り上げられている作品も、タイトルは知っていても読んだことの無いものが大半でしたが、「エロ」の一点突破で内容紹介をしてもらうと、俄然、読んでみようかという気になってきますね。

以下、気づいた点をいくつか。

乱歩の「芋虫」を取り上げた章。最後のコマで喜国さん本人が登場し「検閲による伏字バージョン」で収録している本もある、とコメントしていますが、筆者が知る限りでは沖積舎から出ていた「江戸川乱歩ワンダーランド」がありますね。「悪夢」というタイトルで雑誌掲載されたときの挿絵・伏字をそのまま収録しています。
アニメ「ポリアンナ物語」の原作となった「少女パレアナ」も収録されていますが、このタイトルは村岡花子訳です。直近では角川文庫に収録され、本書でもこの文庫が紹介されていますが、角川文庫はすでに「少女ポリアンナ」のタイトルで新訳を刊行しているため、村岡訳は古本でしか買えません。

吉行淳之介「夕暮れまで」を扱った章では、夢の中の妄想が山上たつひこ「喜劇新思想大系」の名シーンを彷彿する展開となり、個人的にはぐっと来ました。
夢野久作「瓶詰地獄」は、あの陰惨としか思えない展開をあっけらかんとしたギャグに変換しており、喜国雅彦らしい一編です。

「小説推理」では今も連載継続中ということなので、続巻にも期待したいです。 

今宵は誰と─小説の中の女たち─
喜国 雅彦
双葉社
2019-06-19




平成の復刊ミステリ・その2 国書刊行会・探偵クラブ

201906とむらい機関車324

平成の復刊ブームをおさらいするシリーズ。第2回に紹介するのは1992~94年(平成4~6年)にかけて国書刊行会が出版した「探偵クラブ」です。
大阪圭吉がミステリファンのあいだで再評価されるようになったのは、このシリーズの第1回配本「とむらい機関車」がきっかけだったのではないかと記憶します。

鮎川哲也がライフワークのように続けていた企画に「幻の探偵作家を求めて」があります。
70年代の後半に雑誌「幻影城」で始まったシリーズで、その後、媒体を変えながら90年代まで続きましたが、消息不明となっている戦前の探偵作家を訪ね歩く内容でした。
同題の単行本は探訪記のみ収録されましたが、雑誌掲載時には、その作家の代表作も併録され、今にして思えば、今日の復刊ブームに対してこの企画が与えた影響は非常に大きなものがあったと感じられます。
今回紹介する「探偵クラブ」も、この流れから生まれた企画ではないかと思われる雰囲気があり、第1回配本には「幻の探偵作家を求めて」でも取り上げられた大阪圭吉が登場し、解説は鮎川哲也でした。
あとに続く巻でも、それぞれの作家の代表作をガッチリと抑え、今に至る復刊ブームの先駆けになったものと言えます。

刊行からすでに25年が経っていますが、さすが国書刊行会と言うべきか、一部の巻は未だに在庫が残っていて、新刊書店の棚に並んでいたりします(別に重版しているわけではなく、単に売れ残っている。しかし、裁断処分などにはしていない)。品切れになっている巻も、古本での入手は比較的容易です。
「幻の探偵作家を求めて」自体はすでに幻になりつつあり、近い内に復刊されるという話も目にしましたが、合わせてこのシリーズもおすすめです。

大阪圭吉 「とむらい機関車
三橋一夫 「勇士カリガッチ博士
葛山二郎 「股から覗く
渡辺啓助 「聖悪魔
蒼井雄 「瀬戸内海の惨劇
山田風太郎 「虚像淫楽
大坪砂男 「天狗
岡田鯱彦 「薫大将と匂の宮
蘭郁二郎 「火星の魔術師
城昌幸 「怪奇製造人
大下宇陀児 「烙印
甲賀三郎 「緑色の犯罪
角田喜久雄 「奇蹟のボレロ
井上良夫 「探偵小説のプロフィル
小酒井不木 「人工心臓

平成の復刊ミステリ・その1 小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」

昭和名作推理小説015

令和の御代になっても未だにミステリの好みは昭和で止まっているわけですが、平成という時代を振り返ってみると、「昭和ミステリの復刊」ということが盛んに行われていた時代だったようにも思います。
今回から何回か、「平成ミステリを振り返る」どころか、「平成に復刊された昭和ミステリを振り返る」という、非常に後ろ向きな話題を続けてみたいと思います。

まずその前に、そもそも「復刊ミステリ」とは?
現在へ至るミステリブーム(笠井潔いうところの第三の波)の始まりは、雑誌「幻影城」の創刊にあるというのが定説ですが、その前から桃源社「大ロマンの復活」、角川文庫や講談社文庫による、戦前から戦後にかけての探偵作家の全集的な作品刊行と、過去の作品を復刊する動きは連綿と続いており、雑誌「幻影城」も創刊当初は新作などはほとんど載っておらず、戦前探偵小説の復刻ばかりでした。
要するに、ミステリの歴史は新作刊行と並行して、過去の名作復刊の歴史でもあると言えます。
これは、昔からコアなミステリ読者は強固なコミュニティを形成し、その中で「過去の名作を読む」ということがステイタスとなっているためでしょう。

というわけで、平成に入ってからミステリの復刊に何か際立って特徴的なことがあるかといえば何も無いようにも思われますが、筆者自身が本格的にミステリを読み始めた時期が平成元年から、ということもあり、個人的な備忘録も兼ねて平成の復刊史を振り返ってみようと思います。

第一回は平成元年に刊行された小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」。
実は、この特集については、以前にも当ブログで紹介したことがあります。こちら
雑誌の特集なので、厳密には「復刊」に当たらないかもしれませんが、筆者にとっては非常に印象深く、思い入れの強い一冊なので改めて紹介しておきたいと思います。

収録作品は以下の通り。

渡辺温
夜の街 城昌幸
死後の恋 夢野久作
押絵と旅する男 江戸川乱歩
殺された天一坊 浜尾四郎
絶景万国博覧会 小栗虫太郎
悪魔の指 渡辺啓助
かいやぐら物語 横溝正史
五人の子供 角田喜久雄
骨仏 久生十蘭
天狗 大坪砂男
原子病患者 高木彬光
張込み 松本清張
落ちる 多岐川恭
作並 島田一男
白い密室 鮎川哲也
吉備津の釜 日影丈吉
案山子 水上勉
十五年は長すぎる 笹沢佐保
葬式紳士 結城昌治
死火山の灰 黒岩重吾
敵討ち 山田風太郎
犯罪講師 天藤真
ナポレオンの遺髪 三好徹
雪どけ 戸川昌子
やさしい密告者 生島治郎
神獣の爪 陳舜臣
山のふところに 仁木悦子
科学的管理法殺人事件 森村誠一
盲目物語 土屋隆夫
人形の家 都筑道夫
特急夕月 夏樹静子
雲雀はなぜ殺された 日下圭介
復讐は彼女に 小泉喜美子
紳士の園 泡坂妻夫
菊の塵 連城三紀彦
無邪気な女 阿刀田高
遠い国から来た男 逢坂剛
糸ノコとジグザグ 島田荘司

ほんと、何度見ても惚れ惚れするラインナップです。
特に多岐川恭「落ちる」、結城昌治「葬式紳士」それに泡坂妻夫「紳士の園」。
特にこの3作の衝撃は非常に強く、ミステリにほとんど免疫がなかった中学2年生の筆者は頭をくらくらさせていたものです。

特集に対して反響があったのかどうか知りませんが、この2年後、同じ趣旨のアンソロジーが新潮文庫から刊行されました。
それもこちらの記事で書いていますが、「昭和ミステリー大全集」上・中・下の全三冊です。

当時、ミステリの入門者的立場にいた筆者がいうことなので間違いありませんが、この「小説名作推理小説」「昭和ミステリー大全集」の企画は、昭和ミステリの入門に実際、これ以上ない最高のラインナップでしたね。このあと、結城昌治、都筑道夫、土屋隆夫、天藤真、泡坂妻夫、阿刀田高といった人たちの作品を熱心に古本屋で探して読み漁りましたが、すべての原点はここにありました。

というわけで、平成が終わって1ヶ月が経ちましたが、今回も平成のベスト的な短編集が編まれるとしたらどんな作家になるんでしょう?




profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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