備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

時代小説

NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」サブタイトル元ネタリスト

今年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」。
世間的には昨年の「真田丸」ほど騒がれていないように感じますが、我が家では「大河ドラマ史上最高傑作では!?」というくらい、盛り上がっています。
かつてないコメディタッチで、毎週とても楽しみに見ていますが、サブタイトルもかなりふざけています。映画や小説のタイトルをもじったものが多いのです。
元ネタがいまいちよくわからないものや、複数の候補が考えられるものもありますが、「たぶんコレでしょう」というところを紹介していきます。

第1回 井伊谷の少女
これは「アルプスの少女」でしょう。実際のところ初回はメルヘンチックな雰囲気で物語が進みました。
調べてみたところ、これの元ネタは「風の谷のナウシカ」と公認されているようです。失礼しました!
http://www.asahi.com/and_M/articles/CCfumtp017051800231.html




第2回 崖っぷちの姫
これは「崖の上のポニョ」かな、と思いますが、全然自信はありません。



第3回 おとわ危機一髪
これはショーン・コネリー主演のボンド映画「ロシアより愛をこめて」の劇場公開時のタイトル「007危機一発」から。といっても「~危機一髪」というのは、一般的な表現になりつつありますが。



第4回 女子にこそあれ次郎法師
これはよくわかりません。同じく直虎を主人公にした「女にこそあれ次郎法師」という小説が10年ほど前に出ているので、それをそのまま頂戴したか、あるいは史料にこのような表現が確認されているのか?



第5回 亀之丞帰る
これもよくわかりません。菊池寛の「父帰る」?



第6回 初恋の別れ道
チャン・イーモウ監督の映画「初恋のきた道」から。この頃は、全世界がチャン・ツィイーに恋をしていました。




第7回 検地がやってきた
珍しい表現ではないので、元ネタがあるのかどうかわかりませんが、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」が念頭にあったかもしれません。



第8回 赤ちゃんはまだか
これは元ネタがあるのかどうか、よくわかりません。


第9回 桶狭間に死す
これも珍しい表現ではありませんが、そもそもはトーマス・マンの「ヴェニスに死す」が元ネタと言えるかと思います。ヴィスコンティが映画化しています。
ヴェニスに死す (岩波文庫)
トオマス マン
岩波書店




第10回 走れ竜宮小僧
これも、元ネタを特定しづらいのですが、第1回が「アルプスの少女」なら、これは「名犬ジョリィ」のオープニング曲「走れジョリィ」か?


第11回 さらば愛しき人よ
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド「さらば愛しき女よ」から。これで「いとしきひとよ」と読ませています。ちなみにこのタイトルは清水俊二訳で、村上春樹の新訳は「さよなら、愛しい人」となっています。



第12回 おんな城主直虎
平成29年のNHK大河ドラマ「おんな城主直虎」から……って、このドラマやん。


第13回 城主はつらいよ
山田洋次監督の名作「男はつらいよ」から。



第14回 徳政令の行方
これはよくわからず。


第15回 おんな城主 対 おんな大名
これもよくある表現で、元ネタと言えるものがあるのかどうか?


第16回 綿毛の案
「赤毛のアン」。これはふざけすぎ。
赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)
ルーシー・モード・モンゴメリ
新潮社




第17回 消された種子島
ティモシー・ダルトンが主演した「007消されたライセンス」から。ボンド映画、好きですね。



第18回 あるいは裏切りという名の鶴
これは筆者は知らなかったのですが、フランス映画に「あるいは裏切りという名の犬」という邦題のものがあるそうです。


第19回 罪と罰
ドストエフスキーをそのまま。
最近、ドスト「エフ」スキーに親近感を抱いた漫「エフ」画太郎が漫画化(?)しました。



第20回 第三の女
キャロル・リードの名画「第三の男」から。
第三の男 [Blu-ray]
ジョセフ・コットン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2015-06-24



第21回 ぬしの名は
昨年の大ヒットアニメは「君の名は。」なので、菊田一夫の「君の名は」が元ネタでしょう。まあ、どっちでもいいんですが。



第22回 虎と龍
これもよくわからず。宮藤官九郎の「タイガー&ドラゴン」?


第23回 盗賊は二度仏を盗む
ジェームズ・M.ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」から。
最近、田口俊樹の新訳が新潮文庫から出ました。
郵便配達は二度ベルを鳴らす (新潮文庫)
ジェームズ・M. ケイン
新潮社




第24回 さよならだけが人生か?
「さよならだけが人生だ」という表現はよく目にしますが、元は井伏鱒二の「厄除け詩集」に収録された訳詩の一節です。漢詩「勧酒(酒を勧む)」の一節「人生足別離」を「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」と訳したのです。この詩集、このような絶妙な文があふれていて、大好きです。大学に入学して初めて買った思い出の一冊。
厄除け詩集 (講談社文芸文庫)
井伏 鱒二
講談社
1994-04-05



第25回 材木を抱いて飛べ
高村薫のデビュー作「黄金を抱いて翔べ」から。急に現代ミステリが元ネタでびっくりです。



第26回 誰がために城はある
ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」から。

誰がために鐘は鳴る〈上〉 (新潮文庫)
アーネスト ヘミングウェイ



第27回 気賀を我が手に
よくある表現なので、特定の元ネタがあるのか、よくわかりません。
前々回の元ネタになった高村薫に「わが手に拳銃を」という小説があります。


第28回 死の帳面
これまた、ずばり特定できない、よく分からないサブタイトル。
「デス・ノート」?



第29回 女たちの挽歌
これは、ジョン・ウー監督のアクション映画「男たちの挽歌」から。
ジョン・ウーの出世作で、のちのハリウッドで「フェイス/オフ」や「ミッション:インポッシブルⅡ」を撮るきっかけとなります。個人的にはすごく懐かしい映画。




第30回 潰されざる者
クリント・イーストウッド監督・主演の映画「許されざる者」(1992年)から。
イーストウッドのルーツである、往年の西部劇やマカロニウェスタンを強く意識した作品です。

許されざる者 [Blu-ray]
クリント・イーストウッド




第31回 虎松の首
うーん、「~の首」と言われて真っ先に思い浮かぶのはサム・ペキンパーの「ガルシアの首」ですが、どうなんでしょう? これまでの元ネタを考えると、外れてはいないように思いますが。
ちなみにこの映画の原題は直訳すると「ガルシアの首を取ってこい」というものです。




第32回 復活の火
小松左京のSF小説「復活の日」が元ネタ。深作欣二監督の角川映画「復活の日」は南極ロケ話題になりました。





第33回 嫌われ正次の一生
山田宗樹のミステリ「嫌われ松子の一生」が元ネタ。中島哲也監督が映画化もしています。




第34回 隠し港の龍雲丸
わかりやすいネタが続きますが、黒澤明監督の映画「隠し砦の三悪人」が元ネタ。樋口真嗣監督が同タイトルでリメイクしていますが、「裏切り御免」の使い方が寒すぎて、樋口監督ファンのつもりの筆者でも評価できませんでした。ただ、ダースベイダーを登場させたところだけはよかったと思います。




第35回 蘇えりし者たち
これは去年公開された映画「レヴェナント:蘇えりし者」でいいのかな? 元ネタ作品があまりに最近すぎるので、ちょっと驚きます。
先日、職場近くのヨドバシで、この映画の4K映像のデモを流しているのをボーっと眺めていたのですが、あまりに精細すぎて目がシバシバしました。




第36回 井伊家最後の日
「死刑囚最後の日」「地球最後の日」「太陽系最後の日」「ポンペイ最後の日」と、同じような表現が多すぎて、元ネタを特定できません……

第37回 武田が来たりて火を放つ
これは横溝正史「悪魔が来りて笛を吹く」ですね。「た」が入ってしまっていますが、ここは筆者的にはこだわってほしかったポイントです。
豆知識を披露しますと、そもそも「悪魔が来りて笛を吹く」というタイトルにも元ネタがあります。
木下杢太郎という明治末期から昭和初期に活動した詩人がいますが、「玻璃問屋」という詩に「盲目めくらが来りて笛を吹く」という一節があり、ここからとられたものなのです。





第38回 井伊を共に去りぬ
「風と共に去りぬ」。最近、岩波文庫と新潮文庫から新訳が出ました。



第39回 直虎の野望
これは小説や映画ではなく、ゲームの「信長の野望」でしょうか?
あまり自信なし。

第40回 天正の草履番
TBSでドラマ化された「天皇の料理番」が元ネタのようです。ドラマの脚本は「おんな城主 直虎」と同じく森下佳子です。



第41回 この玄関の片隅で
なんじゃそりゃ、というタイトルですが、「」ではなく「」というところがポイントですね。


岩波新書『この世界の片隅』は、1965年に刊行された被爆者の証言集です。コミックの原作というわけではありませんが、映画「この世界の片隅に」が公開された際に復刊されました。



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第42回 長篠に立てる柵
デヴィッド・リーン監督の映画「戦場にかける橋」から。
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2012-10-03


第43回 恩賞の彼方に
菊池寛の短編小説「恩讐の彼方に」。「青の洞門」で知られる話です。
以前に第5回「亀之丞帰る」の元ネタについて書いた際、正解がよくわからないので「菊池寛の『父帰る』か?」と書きましたが、改めて菊池寛が登場したので、やっぱりあれで正解だったのかな、と。




第44回 井伊谷のばら
池田理代子の名作少女漫画「ベルサイユのばら」。


第45回 魔王のいけにえ
トビー・フーパー監督のホラー映画「悪魔のいけにえ」から。NHK大河ドラマで「悪魔のいけにえ」ネタが出てくるとは思いませんでした。言わずと知れたカルト的な人気を誇る名作であり、数多くのクリエイターに影響を与えています。



第46回 悪女について
有吉佐和子の小説に「悪女について」というものがあり、2012年にドラマ化もされているようで、これが元ネタと思われますが、よくわかりません。
個人的には「悪女」と聞くと反射的に「中島みゆき」と思ってしまうので、「悪女」+「私について」ということが真っ先に頭に浮かびました。



第47回 決戦は高天神
これまで小説や映画のタイトルばかりでしたが、なぜか急にドリカム。

決戦は金曜日
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2014-04-11


第48回 信長、浜松に来たいってよ
こんなふざけたサブタイトルが許されるのかどうかわかりませんが……





第49回 本能寺が変
本能寺の変

最終回 石を継ぐ者
ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」が元ネタでしょう。月面で見つかった人間の遺骸を発端にしたSFミステリ。星野之宣によって漫画化もされています。

星を継ぐもの (創元SF文庫)
ジェイムズ・P・ホーガン



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大河ドラマ原作紹介、今回で最終回です。
というのは、「天地人」を最後に、ずっとオリジナル脚本の大河ドラマが続いているのです。今回ご紹介する5年間は、ここ最近ではまれな、原作ありのドラマが続いた時期でした。

第44作 義経 2005年(平成17年)

原作:宮尾登美子『宮尾本 平家物語』
週刊朝日に連載された「宮尾本 平家物語」が原作となっています。個人的には文章が読みづらく感じられ、チャレンジしていませんが、人気はあり、朝日文庫と文春文庫の2種類刊行されており、どちらもまだ現役です。
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第45作 功名が辻 2006年(平成18年)

原作:司馬遼太郎『功名が辻』
司馬遼太郎、6度目の大河ドラマ化です。原作は司馬遼太郎の人気作の一つであり、ずっと読み継がれています。
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第46作 風林火山 2007年(平成19年)

原作:井上靖『風林火山』
初の井上靖原作の大河ドラマです。「風林火山」は昭和30年に発表された、井上靖の初期作品です。三船敏郎主演で映画化されたこともあります。
大河ドラマの原作としては最も短いと思われる小説で、ドラマはほぼオリジナルストーリーが展開します。
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第47作 篤姫 2008年(平成20年)

原作:宮尾登美子『天璋院篤姫』
「義経」に続き、宮尾登美子原作2作目です。この原作は、非常によく売れました。
個人的には、どこが面白いのかよくわからなかったのですが、ドラマもかなり人気があり、高視聴率が話題になりました。
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第48作 天地人 2009年(平成21年)

原作:火坂雅志『天地人』
火坂雅志は、個人的には印象ではやや胡散臭い時代小説を書いている作家という印象があり、大河ドラマ原作に選ばれたのは意外でした。とはいえ、「天地人」の発行元は日本放送出版協会(NHK出版)でしたので、もともとドラマの原作用に執筆したものなのかもしれません。ドラマ化の3年前に発表されているので、その辺がよくわかりません。
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NHK大河ドラマ原作紹介 平成10年~平成16年

割りと記憶に新しい年代になってきましたが、原作なしが多くなってきます。

第37作 徳川慶喜 1998年(平成10年)

原作:司馬遼太郎『最後の将軍 徳川慶喜』
「翔ぶが如く」以来の司馬遼太郎原作ですが、この小説は何冊も続くような大作ではなく一巻本です。このため、原作とは離れたエピソードも多々挿入されたドラマでした。
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第38作 元禄繚乱 1999年(平成11年)

原作:舟橋聖一『新・忠臣蔵』
第一作「花の生涯」以来の舟橋聖一原作です。全8冊もある大作で、放映時には文春文庫に収録されていましたが、現在は品切れとなっており、電子書籍もありません。

第39作 葵 徳川三代 2000年(平成12年)

原作:原作なし

第40作 北条時宗 2001年(平成13年)

原作:高橋克彦『時宗』
高橋克彦の原作は、前回の「炎立つ」と同じく、ドラマ制作と並行して執筆されたものです。
これも人気があり、講談社文庫で今も版を重ねています。
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第41作 利家とまつ 2002年(平成14年)

原作:原作なし

第42作 武蔵 2003年(平成15年)

原作:吉川英治『宮本武蔵』
吉川英治の「宮本武蔵」は、昭和59年にもNHKで「水曜時代劇」として一年かけてドラマ化されました。大河ドラマが現代劇をやっていたあいだ、大河の代わりに時代劇枠を作っていたもので、実質的には大河ドラマのような大作ドラマでした。その時は役所広司が武蔵、古手川裕子がお通と、安定した配役で人気を博しました。
それから約20年経って、あらためて大河ドラマ枠で武蔵をやることになったわけですが、問題の多いドラマでした。
特に第一回の放映では、原作とは離れて「七人の侍」をモロにパクったエピソードを放映し、その後、黒澤プロから裁判を起こされる事態となりました。個人的にも、武蔵が原作だから、と初回を楽しみにしていましたが、呆れて見るのをやめてしまった記憶があります。
というわけで、吉川英治ファンにとっても、大河ドラマファンにとっても、なかったことにしたい一年だったのではないかと思います。(裁判自体は、「春の波涛」事件と同じく原告敗訴となっており、著作権侵害の立証の難しさが改めて示されました)
「宮本武蔵」は改めて紹介するまでもなく、吉川英治の代表作であり、時代小説の代表作でもあります。
著作権が切れているため、あちこちの出版社から文庫が乱発され、電子書籍も激安で大量に出ています。
最もスタンダードな版は、講談社の吉川英治歴史時代文庫版です。
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第43作 新選組! 2004年(平成16年)

原作:原作なし
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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