備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

時代小説

ハヤカワ時代ミステリ文庫「影がゆく」は「鷲は舞い降りた」へのオマージュ!

201909影がゆく007

今月、早川書房から新レーベル「ハヤカワ時代ミステリ文庫」が創刊されました。
ハヤカワ・ミステリ文庫収録の時代ミステリといえばジョセフィン・テイの「時の娘」が有名ですが……という話ではなく、なんとハヤカワ文庫の一角に時代小説コーナーができてしまうのです!

ここ10年ほど、文庫書き下ろしの時代小説が隆盛を極めており、双葉文庫、ハルキ文庫、祥伝社文庫、光文社文庫その他あちこちから、毎月膨大な時代小説が刊行されています。
正直なところ、筆者は全く興味はなく、あまりに書店がにぎやかなので人気作家の名前くらいは覚えてしまいましたが、一冊も読んだことはありません。
そんなわけで、今回の創刊も新聞広告を見たときは「え、ハヤカワまで!」と驚きはしましたが、まあ、自分には関係と思い込んでいました。

ところが! これが大いに関係あったんですね。
出版業界専門紙「新文化」を眺めていたら編集者のインタビューが載っていたのですが、それによれば、
第1弾は海外の名作ミステリをオマージュしたもので、稲葉博一『影がゆく』(オマージュ元=ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』)、稲葉一広『戯作屋伴内捕物ばなし』(同=ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』など)、誉田龍一『よろず屋お市 深川事件帖』(同=P.D.ジェイムズ『女には向かない職業』)の3点。
ということではありませんか! なんとなんとなんと。
見事にハヤカワ文庫収録の古典的名作を揃えています。
(記事全文はこちらで読めます⇒https://www.shinbunka.co.jp/news2019/09/190909-01.htm

いや、これはかなり重要な情報ですよ。
こんな話を全国民に知らせず、業界紙だけにこっそり教えているとは、早川書房、いったい何やってんだよ!
むろんのこと、オマージュを捧げればたちまち傑作になるというものでもないでしょうけれど、個人的にはかなり期待をします。
というのは、例えばここにあがっているような冒険小説や古典的な本格ミステリは、現代日本を舞台にするよりも、時代小説の形を借りたほうがより自由度が高い物語にできるんじゃないかな、と日頃から思っていたからです。山田風太郎や隆慶一郎の小説なんかは、同じ味わいを現代劇で再現するのはなかなか困難でしょう。

というわけで、さっそく稲葉博一「影がゆく」を買ってきましたよ。
この作家の名前はこれまで知らなかったのですが、10年ほど前から忍者小説をいくつか発表されているようです。(余談ですが、創刊ラインナップ3人のうち2人が「稲葉」さんってちょっとややこしい。これも稲葉明雄へのオマージュ?)
表紙はいかにも時代小説ですが、背表紙を見るとハヤカワ文庫らしいくっきりとした活字でタイトルが印刷されており、ちょっとテンションが上ります。背表紙下部には「ハヤカワ時代ミステリ文庫」とありますが、「JA」に分類されているんですね。(「JA」の時代小説といえば、宮本昌孝「もしかして時代劇」なんてのが昔あったな……というのは、これまた余談)

まだ読み始めたばかりで、これからどんな展開をするのか全然わからない状態でこの記事を書いてますが(「買った!」という報告の記事です。今回は)、浅井長政と織田信長との争いを背景に、長政の姪っ子にあたる姫を、信長の支配地である美濃経由で越後まで逃がすという物語です。
キャラ立ちしている人物が続々登場して、シュタイナ中佐的な役を誰が負っているのかもまだ良くわかりませんが、敵中横断というモチーフが「鷲は舞い降りた」と共通しているようです。

というわけで、とりあえずこれが面白かったら、このレーベルは信用するとして、「三つの棺」へのオマージュという「戯作屋伴内捕物ばなし」も読んでみようかな、と思っています。

影がゆく (ハヤカワ時代ミステリ文庫)
稲葉 博一
早川書房
2019-09-10








2020年大河ドラマ「麒麟がくる」予習におすすめの本は?

20170125国盗り物語054

早くも再来年の大河ドラマのタイトルが発表されました。
「麒麟がくる」
NHKのホームページによれば、主人公・明智光秀を長谷川博己が演じるそうです。
明智光秀といえば、戦国を舞台にした大河ドラマには必ずといってよいほど出てきますが、たいていは信長にさんざん虐げられる、かわいそうな役どころです。信長家臣団の中でもとりわけ有能な武将であったはずなのに、あまり良い扱いはされていません。
それを敢えて主役に据えるというので、どうなることか。

ここ数年、大河ドラマには原作はなく(正確には今年の「西郷どん」は林真理子原作ですが、ドラマ用に書き下ろしたものなので、これを原作と言うべきかどうか……)、「麒麟がくる」も脚本を担当する池端俊策のオリジナルです。(「太平記」以来の池端俊策登場ということで、ファンはかなり盛り上がっているようです)

さて、それでは予習のために読むべき本を2つご紹介しましょう。

まず、明智光秀が主役級に扱われている小説といえば、司馬遼太郎の「国盗り物語」が最も有名でしょう。



文庫版で全4冊という長い小説ですが、前半2冊は「斎藤道三編・前編/後編」、後半2冊が「織田信長編・前編/後編」という内容になっています。
斎藤道三は油商人から身を起こして美濃一国を支配したと言われていますが、この道三の天下取りの夢を婿の信長が受け継いだ、という流れで書かれています。
斎藤道三を中心にした前半がピカレスクロマンとして最高に面白いのですが、後半は明智光秀の視点から織田信長を描いています。
光秀は名家の流れを汲む家に生まれながら、道三に仕え、浪人したのち信長に拾われます。
信長・光秀という「道三の意志を継ぐ二人の相克」という歴史観で、本能寺の変へ至る過程が綴られていきます。
再来年の大河「麒麟がくる」はNHKホームページで「若き明智光秀、織田信長、斎藤道三、今川義元、そして秀吉が、家康が、所狭しと駆け巡る… 」などと紹介されていますので、「国盗り物語」の存在を念頭に置いた上で話が進むと考えてよいでしょう。
ただし、「親子二代で美濃をのっとったという説に基づく斎藤道三」ともあるので、ここ最近現れた新説に依る部分もあると思われ、「国盗り物語」との相違点も興味深いところです。
いずれにせよ、予習には最適の小説です。

さて、一方でホームページには「最新の研究と新解釈を反映した人物像」とも書かれています。
このドラマオリジナルの明智光秀像が登場することも期待されますが、ここ最近の小説で注目されたものとしては真保裕一の「覇王の番人」があります。




綿密な取材を元にしたミステリで人気のある真保裕一が2008年に刊行した小説ですが、新史料を元に描いたということで、歴史小説好きからはかなり高く評価されています。
さすがに「国盗り物語」ほどの知名度はありませんが、明智光秀を主人公にした小説としては定番のものとなっています。
こちらの小説もドラマを観るうえでは大いに参考になるでしょう。

ということで、明智光秀を主人公にした小説を二つご紹介しましたが、もう一つ、別の本をご紹介します。

タイトルにある「麒麟」は中国の霊獣でWikipediaでは以下のような説明があります。

「また、『礼記』によれば、王が仁のある政治を行うときに現れる神聖な生き物「瑞獣」とされ、鳳凰、霊亀、応竜と共に「四霊」と総称されている。このことから、幼少から秀でた才を示す子どものことを、麒麟児や、天上の石麒麟などと称する。」

この「麒麟」をテーマにしたシリーズが、小野不由美の「十二国記」です。



特に2作目「風の海 迷宮の岸」に登場する麒麟が最強にかわいい……



もちろん、小野不由美オリジナルの解釈に基づくファンタジーですが「麒麟とは?」と知るには、非常に良いシリーズです。 

関連記事:
NHK大河ドラマ原作紹介 昭和38年~昭和42年

ちくま文庫「山田風太郎明治小説全集」収録作品一覧

201710明治小説133


ちくま文庫「山田風太郎明治小説全集」はその名の通り、山田風太郎の明治小説と呼ばれる作品群を集大成したものですが、1997年の刊行からずっと版を重ねている驚異的なロングセラーです。
山田風太郎は「忍法帖」「明治小説」「室町もの」など、特にシリーズというわけではないものの、同じテーマの作品を量産する傾向があり、その中でも明治小説は非常に人気があるのですが、この人気、ひいては今日に至る山田風太郎ブームにおいてこの全集の果たしている役割は計り知れないものがあります。
そんなわけで、全集各巻の収録作品一覧をご紹介してみます。
表題作は主に長編ですが、短編も網羅している全集であることがおわかりいただけるかと思います。
(各書名のリンク先はAmazon)

山田風太郎明治小説全集 1 警視庁草紙 上

警視庁草紙

山田風太郎明治小説全集 2 警視庁草紙 下

警視庁草紙
解説(和田忠彦)

山田風太郎明治小説全集 3 幻燈辻馬車 上

幻燈辻馬車

山田風太郎明治小説全集 4 幻燈辻馬車 下

幻燈辻馬車
明治忠臣蔵
天衣無縫
絞首刑第一番
解説(鹿島茂)

山田風太郎明治小説全集 5 地の果ての獄 上

地の果ての獄

山田風太郎明治小説全集 6 地の果ての獄 下

地の果ての獄
斬奸状は馬車に乗って
東京南町奉行
首の座
切腹禁止令
おれは不知火
解説(縄田一男)

山田風太郎明治小説全集 7 明治断頭台

明治断頭台
解説(日下三蔵)

山田風太郎明治小説全集 8 エドの舞踏会

エドの舞踏会
解説(田中優子)

山田風太郎明治小説全集 9 明治波濤歌 上

明治波濤歌

山田風太郎明治小説全集 10 明治波濤歌 下

明治波濤歌
解説(関口夏央)

山田風太郎明治小説全集 11 ラスプーチンが来た

ラスプーチンが来た
解説(津野海太郎)

山田風太郎明治小説全集 12 明治バベルの塔

明治バベルの塔
明治暗黒星
解説(橋本治)

山田風太郎明治小説全集 13 明治十字架 上

明治十字架

山田風太郎明治小説全集 14 明治十字架 下

明治十字架
明治かげろう俥
黄色い下宿人
解説(清水義範)

関連記事:
山田風太郎の最高傑作5選!?(時代小説編)
山田風太郎の最高傑作5選!?(エッセイ・ノンフィクション編)
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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